第21話 ゴルフェートの死2

 剣の角度を変える音がしても、ハイシアは動じない。

 ただシェルのことを心配していた。シェルはうるんだ目で腰を折る。歯ぎしりの音が聞こえそうだった。

 モルギアナが武器を収める。シェルが立ち去る。同時にハイシアは、後方へ結界を張った。

 結界に誰かがぶつかる音がした。

 セルーナだった。


「殺して、やる!」

「落ち着けセルーナ。お前は外でヒメコマネズミを助けただろう? 天秤は平でなくてはならない」

「だから母さんを殺した奴でも受け入れるの? 馬鹿じゃないのか!? フローセ達の気持ちはどうなるんだ!!」

「穏便にお引き取り願うだけだ」

「みんなはそれじゃ納得しない!」


 ハイシアは少し考えてから、自然な手つきで侵入者――フラクロウが構える爪剣そうけんをなぞった。

 爪剣は5年海水に曝されたかのように錆びて朽ちる。


「我らが母の遺体を運んでくださり、ありがとうございます。つきましては話し合い歓待の席を設けますので、お話はまた、後程」


 たじろぐ侵入者を捨て置いて、ハイシアは母の首を掻き抱いて泣くセルーナを見た。

 ほんの短い時間で結界を解除する技術が兄ながら誇らしく、一方でいまだ幼い心が心配であった。

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