第8話 惨い話

 惨い話だ。


 芽を出す前に摘み取られた豆と、愛した相手全員をフラクロウに殺された跳人との区別がハイシアにはつかない。


 どちらも等しく惨く感じ、どちらにも等しく無関心を支払う。


 ハイシアにはそれしか許されていなかったし、それが出来てしまう精神構造が精霊種だった。


 でも、あいつはイヌダシオンのことは本当に大切にしていた。


 あいつが守るべきたった一つの場所として、本当に大切にしていた。


 だから、全員の名前とイヌダシオンにやってくるまでの事情を全部覚えていた。



 億年経った程度で忘れるのなら、ハイシアは精霊種ではない。

 億年経った程度で、忘れられる記憶じゃないのに、あいつは忘れた。



 それがどれほど惨いことか。


 これからのあいつらの話で、少しでも伝わるだろうか。
















【用語説明】

①フラクロウ

強欲翼人と呼ばれた種族。

長期間の飛行能力、狩りに使用する頑強な脚部など鳥類の特徴を多く持つほか、高い知能と特殊な消化器官を持ち、体長の5倍ある生物でも補食可能。

また、補食した生物の遺伝子情報を自身に取り込み、耐性をつけ、完全に自分のものとして使いこなす生態を持つ。


②跳人

フラクロウによる蔑称。

彼らは地上や海に暮らすすべての生物を「劣った存在」「穢れと死の温床で暮らす死の国の住民」として差別した。

一口に「跳人」とまとめられているが、実際は地上に生きて「跳ねる」能力を有したすべての生物がこの区分に入れられた。ほかに跳ねることのできない生物群は「地這」、主な生活場所が木の上にある生物群を「樹上鳥人」と呼んだ。

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