第5話 まぶしかった

「何飲む?」

「じゃあ僕は……ブラック&ブラックにする」

「苦いぞ、それ。俺はマスターブレンドだな」


 無表情ながら楽しそうに、ハイシアは計量カップを手に取る。

 セルーナがぎょっとした顔をするのにも気が付かず、『マスターブレンド』の瓶から適当に豆をすくう。ザラザラと計量カップからあふれる豆を見て、セルーナが「多すぎだよ」と口をとがらせる。


 ハイシアは目を丸くして、何が悪いのか分からない風に首を傾げた。

 長い髪が、さらりと揺れる。


「計量はカップじゃなくてスプーンのがいい。挽いたら時間で香りが飛んじゃうからね、一回一回やったほうが絶対に美味しいよ」

「詳しいな」

「僕はひとつだけを守る精霊種だから」


 ハイシアは息と動きを一瞬止めた。3秒くらいして、やっとゆっくり動き始める。

 緊張からか、声が若干かすれているようだった。


「セルーナ、俺はね」


 瓶に詰められたコーヒー豆をハイシアは見ている。


 芽を出す前に摘み取られて、嗜好のために焙煎された豆。

 セルーナは手際よく豆を計ってから、体を横向きにしてハイシアを見る。


「お前の夢が眩しかった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る