第11話 前文明からの贈り物

「まだヴィダが残ってる」


「知らないよ。森に引きこもった奴等のことなんて」


 軽快に歩き始めるセルーナの後ろ。百歩ほど先。


 ヒメコマネズミの巣があった。

 巣を作っていた枝や葉はぐちゃぐちゃに荒らされ、小さな赤い点がいくつも無造作に散っている。


 フラクロウ有翼人ライジュウ盗雷虎か。ハイシアは目を伏せてから、倍に増えた籠を抱えなおす。



 空からの攻撃と雷撃に、注意しなければならないだろう。



 イヌダシオンは前文明の技術を守る集団の一つだった。


 前文明が後の文明に託した6つの贈り物。


 技術の守り手紅椿手ナウ=テ


 弱き者たちのためのシェルター夜虎ヤジュウ族。


 文化の語り手翠目ヴィダ


 ノル=ホライスン《精神の癒し手》やノル=ハルモニア寄り添う者などを擁する医療者玻璃橙ノル


 天候と大地の恵みを司る金雪銅家カルム・アオリア


 そして、浄化施設天青イヌダシオン


 そのうち、4つが、すでに滅ぼされていた。


(問題はない。そもそも俺が怖がりなだけで、一人でも持てる量だ)


 集落のある光のほうへ、煌めくようにセルーナが走っていく。


 強く吹き付ける潮風へ歩を進めながら、ハイシアは唇を噛む。


(大丈夫、フラクロウなら、アアスフィアがもう暴れているはずだ)


 ハイシアは自分に言い聞かせ、雨が近いにおいに意識を向けて、足を速めた。


 ――まさかこの夕刻を境に、たった2月でイヌダシオンもまた滅びるのだと、この時はまだ知らなかった。

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