第13話 貴方を海へ還した日
見渡す限りの青だった。
さざなみが打ち寄せて作られる三角形の砂原を、音を立ててセルーナが歩く。
重く足が沈むたび、ふかふかとした砂に足を掴まれる。いくつもの砂粒が責めるように足を刺した。
腕にかかる重みがかわることはない。いつか困ったようにセルーナを見守っていた面差しを残して、ハイシアは石のようになっている。
波打ち際から腰が浸かるまで進む。
腕にかかる重みは少しずつ浮力を得る。
兄のやさしい鼻が水に浸かるまでをセルーナは眺めた。
傷だらけでも、兄は変わらず美しい。
風が吹く。
後方で鎖が鳴る。
「……どうしたらよかったの、兄さん」
抜け殻は何も答えない。急速に薄くなり、水に溶け、海に還っていく。
大きな力の塊が海の底でうごめく。
【巨大で純粋な力が海洋の”外”へ向かう】。
そんなイメージがセルーナによぎった。セルーナは束の間の幻想に目を細めて空を見る。もはや自分に何も教えてはくれない、青い空。
「やっぱり、宿りもしない」
途方に暮れた背中が、戒めにかけられた。
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