第四章 星霊樹のもとに集え聖戦士

第35話 いざ、星霊樹へ!

「《星の巫女みこ》の啓示けいじによると、《星霊樹せいれいじゅ》があるのはここから南西の方向だね」


 ピーノが《そら》の加護の力を発動させて、念話を通して《星の聖戦士》たち全員の脳裏のうりに地図のイメージを送り込む。


「ここから直線距離で百三十キロメートルくらい。街道とかを迂回うかいすると二百キロくらいの距離になるね。馬車の足だと二十日以上かかる計算かな」


 ピーノが言うキロメートルという単位がわかるのは僕とラースだけなのだが、頭の中に展開される地図画像のおかげで、他の人たちも素直に受け入れていた。もっとも、アルバートだけは「あれ? キロメートルって何マイルだっけ」などと指を折りつつ混乱したりもしていたが。

 そんなアルバートはスルーしつつ、ピーノはそれぞれの位置から割り出した、《星霊樹せいれいじゅ》までの複数のルートを示し、それぞれの隊ごとに相談が始まる。

 ほどなくして、それらの検討も終わり、《念話ねんわ》を通してアストルがまとめに入った。


「それでは、各隊とも《星霊樹せいれいじゅ》を目指して出発しましょう。シリル殿、ラース殿、トモ殿、大変だとは思いますが、陽動ようどうの方よろしくお願いします」

「ああ、任せとけ。派手にやってやるぜ」


 シリルたちの主力部隊が各地で敵の目を引きつけている間に、残りの二隊は一日も早く《星霊樹せいれいじゅ》を目指す。そのことを僕たちは再確認した。

 もちろん、《星霊樹せいれいじゅ》までの道程みちのりには、まだまだ多くの苦難が待ち受けているだろう。


「んなもん、アテもなく、ただ逃げ回るだけの今よりは何倍もマシさ」


 そのシリルの言葉が、僕たち《星の聖戦士》全員の心情を、よく表現していた。


 ○


 目的地を《星霊樹せいれいじゅ》へと定めて行動を開始してから十日がった。

 シリルやラース、トモが率いる大人たちの隊は、各地でゲリラ戦を展開し、追っ手や各地の帝国軍の攪乱かくらんに一定の効果を上げていた。


「──ヤンキーとチャラざむらいは隊の半分で南東の敵を側面から叩いて。カタブツは残りを率いて正面へ突っ込んで」


 独特のあだ名呼びで《星の聖戦士》たちに指示を飛ばしているのはピーノだった。

 《そら》の加護のひとつでもある《俯瞰視ふかんし》──アルバートなどはたかの目などと呼んでいるが、空から広大な範囲を見下ろすことができる能力を用いて、敵部隊の配置を把握できる。さらには、その情報をもとに。離れていても会話ができる加護──《念話ねんわ》を使って的確な指示をリアルタイムで出していく。


「ピーノの力は本当にスゴいな」


 速いスピードで駆けていく荷馬車にばしゃの上で、アルバートが口笛を吹いてみせる。


「……ちょっと休憩しよう、この先にイイ隠れ場所がある」


 ピーノの提案を受けて、アルバートが御者台ぎょしゃだいのキアーラさんへ声をかける。

 荷馬車はゆっくりとスピードを落とし、青年医師パオロさんがぎょする二台目の馬車も後に続いた。

 大きな岩が山道の上に張り出している場所に荷馬車を止め、がだいぶ落ちてきていることもあって、今夜はここで野営やえいすることになった。

 逃避行とうひこうを続ける中、最初はただただ怯えているだけだった女性や子供たちも、今ではだいぶ順応して、それぞれが役割を担って自分たちから動けるようになってきていた。

 アルバートが感心したような表情で子供たちも見やる。


「みんな心強くなってきたな。パオロのあんちゃんも頼りになるし、だいぶ救われてる」

「そうだね──って、ピーノは今のうちに休んでおいて、見張りはキアーラさんがやってくれるって」


 僕が声をかけると、ピーノはそのまま荷馬車から降りずに毛布にくるまって目を閉じた。

 普段から、やれ面倒だ、やれ疲れたなどとぼやくことが多いピーノだったが、この逃避行の間、なく《そら》の加護を発動し、全員を導き続けている。

 もちろん、加護の力とて万能ではない。使用にあたっては一定以上の集中力を必要とする。そのため、心身双方の消耗も当然発生するのだ。

 さほど、間を置かずにピーノの寝息が聞こえてくる。


「僕もできることはやらなきゃな」


 そう言って、両頬りょうほほを軽く叩く僕に、アルバートが「そう気張きばるもんじゃないぜ」と苦笑にがわらいを浮かべた。

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