第23話 個性豊かな聖戦士たち

 慣れない乗馬で完全にグロッキー状態になっていた僕を、子供のたちの世話をしていた赤毛の少年も加わって、シリルともう一人の金髪の少年の三人がかりで草むらの上へとゆっくりと降ろしてくれた。


「……ありがとう、助かりました」


 下半身に力が入らず、草むらの上に座り込んでしまった僕は、そうお礼を言うのが精一杯せいいっぱいだった。

 金髪を丁寧に整えた少年が僕の顔を覗きこんでくる。


「なにはともあれ、無事で良かった。俺はラース──同じ《ほし聖戦士せいせんし》というヤツだ」


 さらに、そのラースの頭の上から、赤毛の少年がひょっこりと顔を出す。


「おれはアルバート、覚えてる?」

「ああ、シリルと皇宮こうぐうにいた……手を振ってくれたね」


 僕がそう答えると、アルバートは嬉しそうに笑う。

 そこへ、長い黒髪をうなじのあたりでまとめた物静かな少年が歩み寄って来た。

 ラースがその少年に問いかける。


「ツァーシュ、子供たちは大丈夫なのか?」

「ああ、船から下りて落ち着いたようだ。すぐにでも出発できそうだが……ピアージオはいないのか? 協力してくれる予定の行商人ぎょうしょうにんなんだが」


 その言葉を受けて、僕は説明するために起き上がろうとした。

 だが、トモがそれを制した。


「ピアージオという行商人、キョウヤの兄ちゃんをここまで逃してくれた人やな。残念やが魔物まものに襲われて荷馬車にばしゃごと……助けに向かったんやが、間に合わんかった、すまん」

「違う、僕を守るためにかばって──」


 トモの言葉を遮って、僕は身体を起こした。


「ピアージオさんの子供に伝えないと、形見かたみの品も……確か、トビア君とビアンカちゃんっていう名前のはず」

「ああ、確かに助けた子供たちの中に、トビアとビアンカという兄妹きょうだいがいる」


 ツァーシュは表情を変えずに僕を見やってから、すげなく視線を外す。


「だが、今は駄目だ」


 予想しなかった反応に固まる僕。

 ツァーシュは言葉を重ねた。


「ピアージオの馬車が無いのなら、ここから《隠れ村》まで子供たちを連れて歩かなければならない。しかも、追っ手もかかるだろう。そんな状況で、幼い兄妹の心の傷になるようなことを伝えたらどうなるか。結果として二人が足手まといになるようなことは避けねばならぬ」


 淡々とした口調が余計に僕の胸をえぐる。

 見かねたのか、アルバートがフォローに入ってくれた。


「ま、キョウヤの気持ちはわかるけど、伝えるのは落ち着いてからってことで」


 そのアルバートの心遣こころづかいに、僕は気持ちを落ち着かせてから礼を述べる。ツァーシュが言うことも、もっともだと自分に言い聞かせ、自らの不明を詫びた。


われも言い過ぎたかもしれぬ。もう少し言葉を選べとは、良く言われる」


 ツァーシュは視線をそらしつつ、小声でそう呟く。

 離れた場所で、子供たちに食べ物を配っていたラースが声をかけてきた。


「おい、もう少し休んだら出発するぞ!」


 アルバートが応じるように手を挙げると、ツァーシュは一足先にラースの元へと向かう。


「あの……ツァーシュ君」


 僕が声をかけようとすると、ツァーシュの足が止まった。


「君はいらない、呼び捨てでかまわぬ」


 ◇◆◇


 草原の真ん中を走る街道かいどうを、騎馬隊きばたいの一団がけていく。

 その先頭付近で馬を駆る少年──帝国五大将軍ていこくごだいじょうぐんがひとり、カルミネのもとへ、偵察隊ていさつたい騎士きしが報告に戻ってきた。


「この先の水車小屋すいしゃごや付近から東へ向かったことまでは判明しましたが、その先に少し進んだ地点から、一切の痕跡こんせきが消えてしまいました。今、全力を持って捜索にあたっております──」


 下馬げばし、激しく恐縮する騎士。

 だが、カルミネに焦りや苛立ちの色は一切無かった。


「ふーん、また消えてしまったっていうワケ……やっぱり《ほし聖戦士せいせんし》たちがついているっていうのもホントなのかもね」


 そう呟いたカルミネは、ふと視線を上げた。

 澄んだ青空に一羽の鳥が舞っている姿をみとめて、カルミネは悪戯いたずらぽい微笑みを浮かべる。


「各部隊に伝令、本隊に合流するように伝えて。その後、再編して全部隊で東に向かうよ」

「は、はっ!」


 怪訝けげんそうな表情を浮かべる部下をチラリと見やるカルミネ。

 すると、部下たちは何かに怯えるように、慌てて動き出した。


「さーて、こっから面白くなりそうだなー」


 そう呟く少年の顔には残酷な笑みが浮かんでいた。


 ◇◆◇

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