第21話 別れ、そして新たな出会い

 ◇◆◇


 大きな河の岸にある水車小屋すいしゃごやから、二人の少年が出てくる。


「今の声は……?」


 綺麗きれいに整えた金髪の少年が、ふと西の方角──川向こうへと顔を上げる。

 対照的に黒髪をざんばらに伸ばした少年が金髪少年の肩を叩いた。


「ラースにも聞こえよったか、コレはアレやな、シリルが伝えてきたもう一人の《ほし聖戦士せいせんし》ってヤツか」

「おまえにもわかったということは、それで間違いないだろう──どうする?」


 ラースと呼ばれた金髪の少年が問いかけると、黒髪の少年はニヤリと笑って「任せろ」というしぐさを見せて、気配を探るようにそっと目を閉じた。


「──わかった、俺が行ったる」


 ◇◆◇


「ん……」


 いつの間にか意識を失っていたのか、茂みの中に座り込んでいた僕はゆっくりと身体を動かす。

 おそるおそる視線を落とすと、目の前にすっかり生気を失ったピアージオさんの身体が横たわっていた。

 胸や口、鼻のあたりを軽く触ってみるが、心臓の鼓動も呼吸も完全に止まっていることを認めざるをえなかった。


「くっ──」


 うつむいて、こみあげてくる悔しさに必死に耐える。


「……なにが《聖戦士》だ」


 僕は自分自身に怒りを向けていく。

 自分を助けるために、一人の気の良い父親が命を落とした。

 なのに、自分は何かするどころか、これから先、助けてもらった命で生き延びるあてすら持ち合わせていないのだ。


「こんな役立たずの僕を守るために……」


 僕が小さく呟くと、その声に反応したかのように、低いうなり声が聞こえた。

 視線を上げると、沢の向こう側から、先ほど逃げ出した魔物まものたちが再び姿を現した。

 狡猾こうかつそうな色を浮かべた瞳を光らせながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 僕は鞘を放り投げ、《星霊銀の剣》を両手で持ち上げて魔物たちに対峙した。

 しかし、さっきとは異なり、剣はまったく光を放とうとはしない。

 剣を握る手に重い金属のかたまりが、ずっしりとのしかかってくる感覚。


「なんで、さっきみたいに──」


 先ほどの戦闘を思い描いて、必死に集中しようとする僕だったが、剣は何も応えてくれなかった。


 ──たぶん、僕はこの魔物たちに殺される。


 その思いが頭をよぎり、僕は半ば投げやりに空を仰ぐ。

 そんな僕に向けて、じわりじわりと距離を詰めてくる魔物たち。

 そして、ついに先頭の一頭が吠え声と共に飛びかかってきた。

 反射的に僕は剣を振り下ろす。


 ──ヒュンッ!!


 「──!?」


 ──ギャウッ!?


 僕は動きを止めた。

 剣を振り下ろした瞬間、耳元を一陣の風がかすめたかと思うと、目の前の魔物が大きく開けた口の中に、一本の矢が突き刺さっていたのだ。

 続けて、連続で矢の音が森の静寂しじまを切り裂いていく。


 ──ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!!


 魔物たちが次々に矢を受けて、苦悶くもんの声を上げながら地面に倒れていく。

 すべての魔物たちが動かなくなるまで、一瞬のことだった。


「おおっ、間に合ったようやな! 無事で何より──」


 茂みを掻き分けて、片手に弓を持った少年が姿を現す。

 僕に向けて陽気に笑いかけた少年だったが、地面に横たわったピアージオの変わり果てた姿に気づいて、すぐに表情をくもらせる。


「──って、間に合わなかったんか、すまん」


 そう呟きながら、ピアージオの身体の横に膝をつき、拝むように空いている方の手を立てる。

 僕は無言で、その少年の姿を見下ろしていた。

 ボサボサの黒髪をざんばらにした《むこうの世界》でいう高校生くらいに見える少年。


「で、俺を呼んだのはあんたなんやな」


 そう言いつつ、少年は僕へと手を差し伸べてきた。


「俺のことはトモって呼んでくれ。本当の名前は違うんやけど、他のヤツらはそう呼ぶよって」


 控えめに笑いかけてくる少年に釣られるように、僕は差し出された少年の手を握る。


「僕は鏡矢きょうや須雅原すがはら 鏡矢きょうやっていいます。その……助けてくれてありがとう」


 トモの表情がパアッと明るくなる。


「よっしゃ、キョウヤいうんやな。同じ《ほし聖戦士せいせんし》仲間やし、そう堅苦かたくるしゅうすることないって」

「同じ《星の聖戦士》──」

「そや、俺も《こちらの世界》に召喚されたクチや、《》の加護かごの聖戦士ってヤツらしいで」


 ニカッと笑って、トモは僕の肩を何度か叩いてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る