第20話 行商人ピアージオ
僕を乗せたピアージオさんの馬車は順調に内陸部への道を進んでいた。
このまま
街道から
さらに、折り悪く、森の中に入ってからしばらくして、
「ちっ、こんな天気になるなら街道を進んでも良かったぜ」
視野を
さらに、追い打ちをかけるように、後方から獣たちの
「こんな時間に
憎まれ口を叩きつつ、馬に
だが、魔物たち──大きな黒い狼は急速に距離を詰めてくる。
──ヒィィィィンッ!!
前を走る馬の悲鳴とともに、荷馬車が大きく揺れた。
反射的に近くの荷物にしがみつこうとする僕の身体を、ピアージオさんが無理矢理抱きかかえて、後方から馬車の外へと身を
馬の
外へと飛び出した僕たちも同じように転がって荷馬車の後を追う。
「キョウヤ殿! 無事ですかい!?」
頭上からかけられる必死な声に、遠ざかりかけた僕の意識が引き戻された。
状況を思い出して身体を起こした僕の視界に、荷馬車の下敷きになって動けなくなった馬と、それに群がる黒い狼──魔物たちの姿が入った。
「無事で良かった、とりあえずここから逃げ、くっ──」
ピアージオさんの表情が苦痛に歪んだ。
額が割れて出血しているのと、片足を痛めてしまっているようだった。
「ピアージオさん、しっかり捕まって」
「いけねぇ……キョウヤ殿だけでも──」
だが、魔物たちは僕たちを見逃してはくれなかった。
逃げようとしているのを察したのか、馬を
「逃げてくだせぇ! ここはおれが時間を稼ぎます!」
僕を突き飛ばし、魔物の前に素手で立ちはだかるピアージオさん。
襲いかかってくる魔物の口へと右腕を突っ込み、そのまま力一杯地面へと叩きつけ、続く二匹目の牙を躱し、両手を組んで勢いよく胴体へと打ち下ろす。
「子供たちを、おれの大事なトビアとビアンカのこと頼みまさぁ……キョウヤっ!!」
そう叫んで、一瞬、気恥ずかしそうな笑みを見せたが、すぐに魔物たちに向き直り、転がっていた枯れ木を持ち上げて魔物たちを
「でも、ピアージオさんを見捨てることは……」
その時、不意に《むこうの世界》で自分が
「くっ!」
僕は意を決して立ち上がった。
近くにあった木の枝を手に取り、ピアージオさんに加勢しようと足を踏み出した──
──ギャオオオオーッ!
魔物たちは複数の方向に分かれて、肩で息をしているピアージオさんへと飛びかかった。
「うあああっっ!」
意味をなさないわめき声を放ちながら、僕は手にした枝を振るって最初の二匹を払いのけた。
だが、残りの魔獣のうちの一匹が斜め上からピアージオさんへと飛びかかり、首に鋭い牙を突き立てる。
「うぐっ……ぐぶぁっ」
首筋から血が噴き出し、鈍い悲鳴を上げて膝をつくピアージオさん。
「ピアージオさんっ──!?」
僕が悲痛な声をあげた──その時、崩壊した荷馬車の一部から
「これ、《
《星霊銀の剣》は、僕の目の前で刃を上に向けて直立すると、《
──グ、グルルルル……
魔物たちは目に見えて脅えていた。襲いかかろうと身構えてはいるのだが、光の障壁を遠巻きにしながら、次第に距離を開け始め、剣の光が一瞬強まったのをきっかけに、森の茂みの中へと次々と姿を消していく。
「助かった……のか」
呆然と魔物たちを見送る僕の足もとに、剣が音をたてて落ちた。
かがみ込んで《星霊銀の剣》を拾い上げたとき、僕は、はっと我に返ってピアージオさんの元へと駆け寄る。
「……さす、が、は《
「ダメです、喋らないで」
僕は
「すまない、キョウヤ……おれの子供たち、トビアとビアンカを……妻の、イヴォモーアの家へ……」
そこまで声を絞り出したところで、ピアージオさんの手から力が失われる。
僕は空に向けて声を張り上げた。
「だれか、助けてください……っ、僕が《
急速に体温が失われていくピアージオの手を握って、無意味だとわかっていながらも、叫び声を上げずにはいられなかった。
その時だった。
不意に不思議な感覚が脳裏をよぎる。
上手く説明できないが、遠くの場所で光の球が、僕の声に反応して動いたように感じた。
──わかった、俺が行ったる。
そんな関西弁っぽい口調の少年の声が聞こえたような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます