第18話 異世界召喚の裏の厳しい現実

「──おれは、もともと《イヴォモーア》という街出身の旅商人たびしょうにんでして」


 ピアージオさんは、衣類や食料などを田舎や辺境へんきょうの村々へとあきなうことが多いとのことだった。


「そうそう、カリーナと知り合ったのも、この仕事の縁ですぜ。まだ、子供の頃、あいつが村から出されるときに運んだのが、おれの馬車でしてね……」


 カリーナさんのように、口減くちべらしを兼ねて子供を大きな街の有力者や金持ちに売るのは、田舎の村ではよくある話とのことだった。

 その中でもカリーナさんは、持ち前の明るく前向きな性格が良い方向に働いたのか、似たような境遇の子供たちの中から、《イヴォモーア》の領主夫妻の目にとまり、養女として迎えられることとなったそうだ。


「まあ、領主は最初からカリーナを皇宮こうぐうへ送り込むつもりだったんですがね……」


 これも良くある話だという。

 皇帝──魔皇まおうが若く独身の身であることから、各地の貴族は自らの娘を、適齢の女子がいない場合は様々な伝手つてを使って、魔皇に気に入られそうな子供を養女として引き取り、皇宮へと送り込んでいた。


「カリーナが皇宮に残ったのは、《ほし聖戦士せいせんし》様たちの力になりたいと言ってやしたが、あそこで姿を消したら《イヴォモーア》の領主に迷惑がかかっちまうということも考えていたと思いやすぜ」

「……ピアージオさんが僕たちを助けてくれるのは、そのえんがあったから?」

「いえね、実は、おれも当事者とうじしゃでして」


 ピアージオさんはカリーナが皇宮に送られた後も、それまで通り地方を回って行商ぎょうしょうを続けていた。

 そんなある日、彼宛に手紙が届く。

 定宿じょうやど女将おかみさんから手紙を受け取り、中身を確認したピアージオさんは激しく動揺した。

 差出人の名前は《イヴォモーア》にいる奥さんだったのだ。


『──子供たちが帝国軍の《子供狩り》にさらわれてしまいました』


 手紙の内容を二度三度と読み返したピアージオさんは、心配そうに声をかけてきた女将さんの声で我に返ることができた。


「《子供狩り》の噂はあちこちで聞いていました。ですが、まさか、おれの子供たちが攫われるとは、夢にも思っていませんでして」


 《子供狩り》──ここ数年、急に帝国の兵士たちによって十歳前後の子供たちが拉致らちされるという事例が相次いでいたのだ。目的は秘匿ひとくされ、その行いに抗議する親たちは問答無用で拘禁こうきんされ、そのうちの大半は消息を絶ってしまっている。

 だが、ピアージオさんは諦めなかった。

 帝都内の反魔皇を掲げる地下抵抗組織ちかていこうそしきに接触し、この時、ようやく《子供狩り》の目的がわかったという。


「……子供たちはどうなっちゃってたの?」


 僕の問いに、ピアージオさんは一瞬言葉に詰まる。


「それは──《星の聖戦士》様たちの召喚に使われていたんでさ」

「──!?」


 思わず身体を起こしてしまう僕。

 皇宮から逃げ出す前、シリルから聞いた話を思い出す。


「聖戦士召喚のにえ……」

「これだけは言っときますが、キョウヤ殿にはまったく責任のない話ですからね」


 ピアージオさんは、起き上がりかけた僕を制して話を続ける。

 この時、ピアージオさんは地下抵抗組織を通じて、カリーナさんとの再会を果たした。

 そして、同じ時期に帝都に潜入してきていた《星の聖戦士》シリルたちとも出会ったのだ。


「シリル様たちも子供狩りを追って帝都までやってきたそうで、キョウヤ殿と同じように、その目的を知ってものすごく驚いて怒っていやしたね……」


 カリーナさんの調べによって、ピアージオさんの二人の子供が健在ということは判明した。

 その他から集められた様々な情報もあわせて、子供たち救出の策が練られていく──その過程で、生き残っている子供たちの数も意外と多いことがわかり、帝都や皇宮をつらぬく水路を使って、北側の海から船で脱出する計画が立てられた。そして、実行はシリルをリーダーとする三人の《星の聖戦士》たち。


「伝説の《星の聖戦士》様が三人もいるんだ、成功は間違いないですぜ」


 ピアージオさんは力強く拳を握る。


「……ごめん、やっぱりなんか寝付けそうにないや」

「こりゃ、休んでもらうつもりが、逆効果になっちまいやしたか」


 困ったような表情で髪をき回し、小さくため息をつくピアージオさん。


「それでしたら、申し訳ありやせんが、おれが仮眠かみんをとりやすんで、代わりに見張りをお願いできやすか?」


 僕は快諾かいだくし、毛布を羽織ったまま焚き火の近くへと席をうつす。

 入れ替わりで毛布にくるまるピアージオをみやってから、ふと、夜空を見上げた。

 赤と青の月が照らす濃い紫色の夜空に散らばる無数の星。


「……こういう夜空も綺麗きれいかもしれない」

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