第14話 いきなりラスボスとのバトルとかやめてほしい

「《魔皇まおう》──っ」


 少年が忌々いまいましげに声を押し出した。

 再び皇帝が剣を振りかぶり、勢いよく振り下ろす──刀身から黒い稲妻いなずまが放たれ、あらゆる方向から目の前の少年へと襲いかかる。


「そう簡単に、やられてたまるかーっ!」


 そう叫ぶ少年の身体からまばゆい光が放たれ、迫り来る稲妻を押し返しはじめた。


「ほう」


 皇帝が冷たく笑う。


「その力、そなた、《テアネブリスの偽勇者にせゆうしゃ》とやらか。一度会ってみたいと思っていたが、このようなこそどろの真似をするとは興醒きょうざめめもいいところだな」


 そう言って剣を水平に動かすと、黒い稲妻が少年の《ひかり障壁しょうへき》を喰い散らかし、少年自身の身体は後方の壁へと激しく叩きつけられた。


「あっ」


 思わず声を上げてしまった僕に、皇帝が視線を向けてくる。


「ほう、《ほし聖戦士せいせんし》殿か。こそ泥と共に行動しているとは、楯突たてつくことを選んだというわけか」

「べ、別にそういうわけじゃ……ここにいたのも偶然というか、流れというか……」


 なにがなんだかわからないといった風に言い訳めいた口調になる僕だったが、皇帝は一切聞く耳を持たなかった。

 皇帝が軽く剣を振り上げると、ゴウッ、という音とともに、激しい熱風が吹き付けてくる。

 僕は座り込んだまま、とっさに手元に転がっていた剣を取り上げた。


「うあっ──!?」


 瞬間、剣が青銀色せいぎんいろの光を放ち、僕の周りに障壁しょうへきのようなものをめぐらせる。

 それを見たラファエーレ皇帝が深い笑みを浮かべた。


「《星霊銀ミスリルつるぎ》か──外れクジとはいえ、《ほし聖戦士せいせんし》であることに間違いはないということなのだなっ!」


 そう叫ぶと、皇帝は振り上げた剣を勢いよく振り下ろし、無数の黒い稲妻の矢を僕に向かって撃ち込んできた。


「うあああああああっ!」


 なすすべもなく、僕は反射的に剣を握りしめる。

 すると、それに反応したのか、剣の青銀色の光が強まり、僕を包む光の障壁がまばゆい光を帯びて、漆黒しっこくの稲妻を弾き返した。


「剣の力か、それともおまえ自身の力か──面白いっ!」


 皇帝は高々と笑いながら、僕の目の前で、さらに魔力を練り上げ、稲妻を幾倍にも強化していく。


 ──シャギシャギシャギシャギィッ!!


「くぅ──っ、って、えっ!?」


 ──ドガシャァッッッ!!


 《星霊銀の剣》の障壁は皇帝の黒い稲妻をしのぎきった。だが、周りの建物が耐えきれずに大きく崩落し、僕の身体も巻き込んで、下の階層へと落下してしまったのだ。


「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイっ!」


 この時の僕は自分でも驚くくらい素早く動いた。

 光球に包まれていたため、落下ダメージもなく傷一つ負わなかった僕は、崩れたガレキの隙間に通路を見つけて、とっさに転がり込む。

 地下通路だろうか──ここには火事の影響は及んでいないようだった。

 乱れた外套がいとう羽織はおり直し、《星霊銀の剣》を胸に抱えて僕は意識を切り替えた。ラファエーレ皇帝が追いかけてくる前に逃げ出さないといけない。


「あのクレースって男の子、無事だといいけど……」


 《テアネブリスの偽勇者》、と皇帝は言っていた。

 逆に、あの少年は皇帝ラファエーレのことを《魔皇まおう》と呼んでいた。確かに、あの禍々まがまがしい強大な力を目の当たりにした後だと、そう呼ぶほうが相応しく思えてきた。


「……今は、とにかく逃げることを考えないと」


 先ほどの皇帝との対峙たいじで、僕は完全に皇帝──いや、《魔皇》やその配下である帝国全体と敵対関係になってしまったと考えるべきだった。

 こうなってしまった以上、これから僕が生き抜くためにも、シリルたち、他の《星の聖戦士》たちと合流するしかないと腹をくくる。

 そう決意したとき──僕は前方から人が近づいてくることに気がついた。


「キョウヤ様、ご無事でしたか!」

「カリーナさん!?」


 顔を黒いすすで汚した少女メイドのカリーナさんは、安堵あんどのあまり僕の手を取って座り込んでしまう。


「本当によかったです、これも星のお導きですね、《星霊神》に感謝を」


 そう呟いた後、カリーナさんは僕の顔を見上げて、満面の笑みを浮かべた。


「もう少しで目的地です。キョウヤ様、お辛いかもしれませんが、頑張ってください!」


 明るい口調で励ましてくれるカリーナさん。

 そのまま、僕の手を取って通路の先へと歩き出す。

 僕は度々後ろを振り返って確認したが、魔皇ラファエーレが追いかけてくる気配はなかった。

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