第34話着信アリ

あの人があんなにも褒めちぎる話は一度も聞いたことがない。

許嫁だとしてもそれでも長々と自分のことのように絶賛している姿は驚愕といえよう。

痺れる足と格闘しながらの茶会で聞いた話は衝撃的だった。

たった一度ラーメンを作った程度。

試作品は一杯だけそんな商品を新商品としてだす小鳥遊さんの店も勢いがよすぎではあるが、それにしても全国展開して口コミなしであの売り上げぜひとも自分の店にもほしいと思ってしまう。

客単価は高いので客数は多くなくても売り上げがでるのだが、肝心のその客数が日々下り坂だ。


高級路線のイメージがついているので安売りすることは難しい。

下手に安売りしてしまうと失敗すればもう急降下なのは間違いないだろう。

SNSでは動画を拡散し、落ち着きのある大人の女性を演出する映像がながれゆったりとした時を過ごそうみたいな感じなのを流しているので精一杯だし、クーポンなども発行しているがそんなに影響しない。

一番売り上げがいい駅前店は立地がいいから売り上げがよいのだろうとそれくらいしかない。


豆もこだわっているし、技術も高いはずなのになぜ売れないのだろうか。

小鳥遊さんの真似をして自分の好きな店を始めた。

最初は成功してお店は結構簡単かもって思っていたが革新的な商品をだす小鳥遊さんと違い、堅実に優雅さをアピールしている方針が強いので新しさよりもより、イメージを保つことが強すぎたのかもしれない。

刺激が弱いと飽きられてくる、新しいものに上書きされて古いイメージのものはどんどん優先度が下になっていく。


わたしのお店はもう古いというところまで来ているのかもしれない。

だから、わたしは新しいそれも今までの店のイメージをぶちこわすようなその新しさにひかれていた。

小鳥遊さんの出したおしゃれなラーメンの概念をぶちこわすほどの暴力的なラーメンを生み出したその天才に私はとてもすがりたくなってしまったのだった。


私は熱意をこめて、小鳥遊さんに彼に合わせてほしいと長文を送り付けた。

中々の力作である5時間かけて打ち終わったメッセージをおくると

小鳥遊さんから涙マークの絵文字が帰ってきた。

私は小首をかしげながらその意味を知ろうと頑張ったがよくわからなかったので

また時間をかけてメッセージを打ち始めたのだ。

そんなキャッチボールを2回ほど繰り返していると

小鳥遊さんからこわい!ギブ!わかったから!旦那様に頼んでみるからやめて

と涙ぽろぽろ絵文字が送られてきた。

私は再度小首をかしげつつ長々とお礼の文章を返信したのだった。


自分の店でその天才とあったときは普通の男子高校生だとおもった。

料亭で少し会話したがなるほど天才なだけはあると私は確信してしまった。

普通の高校生らしい会話だったが、その知性的な話し方といいその姿に私はドキドキなのだった。許嫁が居ながらほかの男性にときめいてしまうのは申し訳ない気持ちもあるが――。

まぁちょっと駄犬に嚙みつかれたので、降格通知の準備をしないといけないと一手間はあったもののおおむね順調に進んでいる。


オールインするしかない。

私は全社員に通達し彼の理想を現実させるように働きかけた。

するとさっそくフラペチーノという新しい飲み物を初日で作り上げるものだから

あまりの速さに漏らしてしまうほど歓喜してしまった。

彼が私の店に来たのは今日で初めてだと言われてその翌日新製品が出来上がっているのだ。


もう信じられなかった。

社員が作ってくれたフラペチーノを食べたが普通においしい。

透明なカップがおしゃれで見ても楽しめる。

ロゴマークが欲しいとお願いされていたようで、デザイナーにタンブラーとロゴデザインを発注してあるそうだ。

私は社員から渡された報告書に目を通すがとてもじゃないがついていけなかった。

私の店を潰して一から立て直したほうが良いのではと思えるほど全部が新しいのである。


トッピングの無料増減サービスでお金を払わなくてもカスタマイズが楽しめるが、さらに追加料金を出せば抹茶ソースをチョコソースに変更できるなど既存のトッピングを有料ではあるが自分好みのトッピングに変更できる。

ベースは安価にトッピングはそこそこの値段であり楽しみながら自分のすきにカスタムできるのでトッピングで利益を出しやすいということなのだろう。


それにサイズの名前も外国語であるが理由を聞いたら、なんとなくおされだからと返ってくる。

そんななんとなくなおされ感がちょっとわかりにくいが、知っているだけで玄人っぽさがでていいのかもしれない。


できるだけ早く全貌を把握して準備したいのだが、早すぎるのも問題である。

あれやこれやと同時進行であまりの忙しさに社員は残業までしている。

試験店に選んだのは一番売り上げが悪い店だ。

立地もわるいし、大通りに面してないので通行量もすくない

失敗したところで痛手もすくないまさに試験的にぴったりな店なのだ。

とそんなことを考えたらタメ息がでてしまった。


売り上げが悪い店が試験運用店にぴったりとかダメすぎる

自分の店の生き残りをかけた大勝負はうまくいくのだろうか。

天才の考えることはよくわからないなと報告書を読んでいると着信音がなった。

この着信音は・・・。

私は震える指でスマホを操作して着信に応答するのだった。

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この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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