第8話
春の夜は時々とても冷えることがある。雲が月を隠して、風も強い。仄かに見える路地を、強風に舞った砂埃が金髪の青年――津田
「終わったっす」
津田は憂いの表情を浮かべていた。チラリと転がっている
「今日は小〜中の七体。しかも完璧に統率が取れていた……これも、最近
津田が虚空を睨みつける。背後に音も無く
電話の相手は苦虫を噛み潰したような声を出した。津田が悔しそうな表情をする。
「――………っす。わかりました…もう手は出さないっす。……………………うっす」
津田は電話を切ると深いため息を吐いた。そして、振り返ることなく歩き去っていった。
その後ろ姿を、
朝の六時ごろ、快晴。とても気持ちよく清々しい春の朝である。
「このみ、起きるのじゃ」
猫――猫又の福さんがベッドに飛び乗ってきた。寝息をたてて寝ている彼女――藤田このみの顔を覗き込む。
「このみ〜」
お福さんが前足で彼女を揺らす。しかし起きる気配がない。
「……このみや」
お福さんは前足に体重を乗せて、彼女の顔を覗き込む。
「――ふむ」
お福さんは彼女の枕元に座り直すと両の前足を上げた。そして、ぺぺぺぺぺぺぺっと猫パンチを彼女の頭に繰り出した。
「お・き・る・の・じゃ〜」
「んッあぅあぅッ――や、やめてっ起きる!起きますっ!」
お福さんは猫パンチをやめた。彼女はゆっくりと上体を起こす。それを見て、お福さんは満足気に尻尾を揺らした。
「ほっほっほっ。おはよう、このみ。今日は朝からあやつらと買い物に行くんじゃろ?早めに支度するのではなかったか?」
「うぅ………そうだった」
彼女は目を覚ます為に両腕を上に上げて伸びをした。目を瞑ったまま、首をゆっくりと動かしてほぐす。しばらくして、彼女が目を開けるとお福さんが待っていた。
「あ……おはようございます、お福さん」
「うむ。さあ、今日も元気にご飯じゃ」
尻尾をピーンッと伸ばして、お福さんはキッチンへ向かった。彼女もベッドから出ると、体を伸ばしてほぐしてからキッチンへと向かうのだった。
ご飯を食べ終えた彼女はまず、ハンドメイドアクセサリーの注文を確認する。いつもの日課だが、今日は買い物に行く。この時にアクセサリーの売れ行きで購入する素材の色や金具を彼女は決めていた。色は季節によってある程度決まっている節はある。しかし、人によって好きな色は違うので変わり種を出すのもまた良いものだ。買う物を考えながら、彼女は猫の形のメモ帳に必要な素材を書き込んでいった。
「おや、このみ。そろそろ身支度を整えぬと遅れるぞ」
「え?やっば!?」
彼女は慌てて立ち上がり、洗面台へ向かった。顔を洗って髪の毛をセットし、次は荷物と慌ただしく動いていく。
「火の元は確認しといたぞ〜」
「ありがとう、お福さん!」
いつものバッグを斜めにかけ、彼女は玄関へと向かった。彼女が靴を履こうと屈む。
「待つのじゃ、このみ」
それをお福さんが止めた。彼女は首を傾げる。
「どうしたの、お福さん?」
お福さんは彼女の隣に来て座った。彼女も自然と座る。
「いや、なに。しばらくの泊まりも、今日で終わろうかと思ってのぅ…………」
「そう、なんだ………」
「…………寂しいかの?」
「そりゃあ、ね」
彼女は小さく微笑んだ。それに対してお福さんは笑った。
「ほっほっほっ。なに、今生の別れではないのじゃ。猫カフェでもどこでも会えるし、時々はここにお邪魔させてもらうつもりじゃて。そう寂しがるでない」
「――うん、そうだね。しばらく一緒にいてくれてありがとうございました、お福さん。とっても楽しかった!」
「我も楽しかったぞ。ありがとう、このみ」
彼女はお福さんをゆっくりと撫でた。お福さんも彼女の足に擦り寄る。
「さて。あやつらが待っておるし、そろそろ行こうかの」
「うん、行ってきます!」
「うむ、行ってきますじゃ!」
彼女は靴を履いて玄関を開けた。太陽の光に眩しさを感じて彼女は立ち止まる。お福さんが足元をすり抜け、振り向いた。
「うにゃ」
彼女は微笑み、前を向いた。少し先で、吉田
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