4、僧侶と魔法使い

ドロシーに言われるまま王都の郊外に進むと、小さな家に辿り着いた。

「えっと……ここは、わたしの幼馴染の家なんですけど……かなり癖が強い子たちなので、あの、覚悟して入ってください」

何度も念を押されたその言葉に頷き、ドアをノックする。

「……宅配は頼んでないはずやけど」

家の中からは少しボソボソとした少女の声がした。私がドロシーを振り向くと、彼女はそっとドアに近づいて話しかける。

「あっ、ロ、ロベルタちゃん……わたし、ドロシーだよ……」

「ドロシー? ワイのトッモの?」

何やら珍妙な話し方をしながらドアを開けたのは、肩のあたりで切り揃えた黒髪に赤い目をした少女だった。ロベルタと呼ばれた彼女がドロシーの話した魔法使い、または僧侶なのだろうか。

「そ、そうだよ。久しぶりだね……その、取り敢えず入れてくれる?」

「仕方ないか……入ってクレメンス」

渋々といった様子のロベルタに言われるまま中に入ると、必要最低限のもの以外何もない殺風景なリビングに通された。私たちがソファに腰を下ろすと、奥の部屋から焦茶色の長髪に緑の目で眼鏡をかけた何やらくたびれた様子の若い女が出てくる。

「……今北産業」

「幼馴染が

美人な見知らぬネキを連れて

アポなし凸」

「把握」

彼女もまた何やら珍妙な話し方をしている。様々な言語を学んできたつもりだったが、彼女等の話している言葉は全く耳にしたことがない。しかし、どうやらこの二人の間では通じているようだ。

「……あの、今来たから三行で説明して欲しいって意味です。それで、幼馴染が知らない美人な女性を連れて連絡なしに急に来たって答えてます」

分かっていない私の様子を察したのか、ドロシーが小さく耳打ちしてくれる。確かに事前に連絡もせずに来てしまって大丈夫だっただろうか。

「不躾な訪問をどうかご容赦願いたい。私は王位継承権第二位、第一王女のアイリーンと申す。攫われた勇者を取り戻すために旅をする仲間を探している中、ドロシーと出会って彼女の紹介で此処に参上した」

二人は一瞬顔を見合わせると、再びボソボソと話し出す。

「ワイはロベルタ、魔法使いやで。ちなこっちはワイのアッネ」

「ステイシー、僧侶だ。大体は把握したが事の詳細キボンヌ」

どうやらもっと詳しく話して欲しいという意味らしい。

言われるままに詳細を話すと、二人は揃ってため息を吐いた。

「で、酒場で振られたから漏れたちの所へ来たってことでFA?」

「【悲報】ワイ魔法使い、久しぶりの幼馴染の訪問に驚いていたら勇者パーティならぬ姫パーティに巻き込まれそうな模様」

最初はドロシーの翻訳がなければ会話ができなかったが、そろそろ大体の意味が分かるようになってきた。

「そうだ。力を貸してくれないだろうか」

「……わ、わたしからも……お願い。ロベルタちゃん、スーお姉ちゃん」

私たちが頭を下げると、ロベルタとステイシーは小声で相談を始めた。

「スー姉はどう思うんや?」

「正直怪しいな。マジレスすると漏れたちはそこそこ収入もあるし、態々こいつらに着いていく必要性は皆無だろ」

「せやな。ワイも親の脛齧るニート生活を手放したくないンゴ」

「親死んでる定期」

どうやら懐疑的、否定的らしい。

「勿論危険が伴うことだから強制はしない。だが、協力してくれるととても嬉しい。無論報酬も払う」

すると、ロベルタが途端に顔を輝かせる。

「報酬!? 臨時のバイトと考えたらありやで!」

「もちつけロベルタ。親の遺産も残ってる、漏れたちにはまだ金があるはず」

「【悲報】ワイ魔法使い、つい先日課金で50万G溶かす。ちなアッネはこのこと知らない模様」

「よし分かった。お前だけ姫パに入れ。それで全てが丸く収まる希ガス」

「ぐう正論。でもワイとスー姉の仲やろ?一緒に来てクレメンス」

「ググったところ確かに本物の姫っぽいが、まだ詐欺の可能性が微レ存。下手に人を信用したら両親の二の舞になるぞ」

高速で交わされる会話に口を挟む暇もないが、ロベルタは少し前向きに考えてくれているらしい。

「今日、すぐに結論は急がない。二人で良く考えて欲しい。明日答えを聞かせてくれ」

そう言って、私は二人の家を後にした。

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イケメン姫と可憐な勇者 道華 @shigure219

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