3、内気な騎士

こうして旅に必要な資金を手に入れた私は町の酒場に向かい、仲間を探すことにした。


「こんにちは、酒場にようこそ……ってええ!? 姫様!?」


目を丸くする店員の声で、周囲の視線が一斉に集まった。私は一つ咳払いをして話し始める。


「如何にも。私は王位継承権第二位、第一王女のアイリーンだ。攫われた勇者を連れ戻すための仲間を探している。道中は安全とは言えず、時には死と隣り合わせになることもあるだろう。しかし、誰一人欠けることなく必ずや無事に勇者を取り戻すとここに宣言する。だから、どうか私のために力を貸してくれないだろうか」


演説を終えて民衆を見渡すと、皆が目を逸らして相談を始める。


「え、でもそれって姫様が行く必要あるの?」


「だよな。王子があんなことになったのに姫様まで危険を犯すことねぇよ」


やはりその話が出るか。

王子……兄上は十年前に単身魔王の城へと向かい、失踪した。私まで同じ道を辿り、王家の血筋が途絶えることを危惧しているのだろう。


「兄の件で皆に心配をかけていることは理解している。だが、私は王族として国のことを国民に丸投げするのではなく、自ら解決にあたるべきだと判断した。しかし、どうしても私一人の力では不十分だ。必ず戻ると約束するから、どうか協力して欲しい」


そう言って頭を下げると、周囲はしばらく静まり返る。駄目だったか……と思っていると、おずおずとした声が聞こえた。


「あ、あの……わっ、わたしで良ければ……お供、します」


手を上げていたのは紫色の髪をツインテールにした内気そうな少女だった。剣を携えていることから、どうやら職業は戦士らしい。


「ありがとう。ぜひとも一緒に来てくれ」


「は、はい……えっと、わたし、ドロシーって言います……こう見えて前職は騎士なんですが、その、わたしは真っ向勝負よりも暗殺の方が得意で……ぜ、全然騎士らしくないですよね、すみません……」


酒場を出ながら縮こまっている戦士改め騎士のドロシーを見て、私は首を振る。


「いや、そんなことはない。寧ろ君は下手な近衛兵よりもずっと強いはずだ」


「えっ……?」


「先程から足音が全くしない。その上隙が全く見当たらない。無駄のない足運びも立派な騎士のそれだ。私も剣術はある程度齧っているが、君には遠く及ばないだろう」


ドロシーは目をぱちぱちと瞬かせると、ふにゃっと緩んだような笑顔を見せた。


「えへへ……ありがとうございます。わたしなりに頑張ってきたんですけど、ずっと自分に自信がなくて……姫様にそう言ってもらえて嬉しいです」


「それなら良かった。私たちはもうこれから旅をする仲間だ、姫様ではなく気軽にアイリーンと呼んでくれ。しかし、私と君だけでは少々心許ないな。できれば僧侶と魔法使いが居たら良いのだが……」


しかし、酒場のあの様子では探すのは難しそうだ。最悪ドロシーと二人きりという事態も考えられるな。


「あ、そのことなら……わたし、ちょっとだけ当てがあります……」


「そうなのか?」


「は、はい……えっと、僧侶と魔法使いの姉妹で、実力は確かなんですけど……その、ちょっと癖が強い子たちで……」


非常にありがたい。鍛錬してきたとは言え私も所詮は王宮の温室育ち、魔物に対しどれだけ通用するかは分からない。今は一人でも仲間が欲しい現状だ。


「願ってもいない話だ。ぜひ仲間に加わってもらいたい」


「で、では……会いに行ってみますか?」


「ああ、頼む」

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