#003.Thinking Out Loud
「植物が気になるか?」青年が自慢げに聞いてくる。
「聞かなきゃダメかい?」挑発するように返す。
「そうだなァ...お前さんがここを出る気なら、聞いたほうがいいかもな。」
「出る気?どういう意味?」
「さァな?」青年がリズミカルに言う。
その態度に少しイラっときたが、彼の話しぶりから見て、何かがあったことは確かだった。
シメオンのために、いや、僕のために、何としても知りたいと思った。知る必要があると思った。そのためには、とにかくこの部屋から出なくてはならない。
「...教えてくれ。」そう言った。
すると青年はなぜか突然目を輝かせ、立ち上がった。釘で雑に打たれた木の椅子がカタンと情けない音を立てて倒れる。
「そうかそうか!いや~ウレシイねえェ~~!聞きたいィ?聞きたいんだな?」
うざい。
「いいだろう!教えてやる。こいつらの『名前』はカクポンタスっ!」
そのテンションについていけない僕を見て、さらに続ける。
「アホそおォ~~って思ったなッ!?思ったろ!?」
思ってない。だがここはのせておこう。
「思った。アっホそおおおおだなぁあ~~~。」
「そうだろ!?そうだろッ!?」
のった。ちょろい。
僕の心をつかんだとでも思ったのか、青年はさらに身振り手振りを大きくして嬉しそうに続ける。
「だが侮るなかれッッ!!このカクポンタス...実はめっちゃコエぇんだぜ...」
抑揚が激しくなってきた。早く言ってくれないだろうか。
「こいつの原産地はなんと...謎だッ!どっかにあるヘンな森だとか言うヤツもいるが...そんなことはどうでもいいッ!!」
じゃあなんで言ったんだよ。あと声どんどんでかくなってんだよ。うるさいよ。
「だがしかしッ!この植物の生態を我々は知っているッ!それは!それはァァ~~~!!!」彼が横目で僕を見る。
なんだ?なんだ?つい気になり、身体を起こす。
「秘密だッ!!」
「秘密かいっ」つい口に出ていた。
「...イイね♪」
褒められた。のせられていたのは僕のほうだった。そして青年は満を持してという風にさらに声を張り上げた。
「それはッ!この植物の本当の恐ろしさはッ!群れで狩りをするということだッッ!!」
青年は達成感に満ち溢れた顔で僕を見ている。リアクションを待っているらしい。小声で「どう?どうよ?」とか言っている。
「...狩り?」辛うじてそれだけ返した。
「んッ?もしかして伝わってない?このコワさ。」
「ああ...」そりゃそうだ。その植物は大きいものでも僕の腰ほどまでしかない上に見たところ普通の植物だ。葉が大きいものや蔓の長いものもあるが、決して恐ろしいとは言えなかった。
「まァ確かにな...このカワいィ~~~い見た目じゃそうなっちまうか。」
青年は少しがっかりした様子で椅子を立て直し、
「はアぁぁぁ~~~ッ」またわざとらしく溜息をついて腰を下ろした。
そんな姿にどうにもいたたまれなくなって、というよりは青年の放った言葉に対して、一つの疑問が口を衝いて出た。
「カクポンタス?」
俯いていた青年が顔を上げる。
「知ってんのか?」
「いや...そうじゃなくて。」
青年が首をかしげる。
「さっき君はこいつらって言ったんだ。」
「...言った。」だからどうしたとでも言わんばかりだ。
「ここにある植物全部のことかい?」
「そうだ。」青年が大きく頷く。
「じゃあこれとこれもカクポンタス?」ベッドのそばに置いてあった鉢二つを指差して言った。そこに植わっていた二つのものは明らかに違う植物だ。
「そうだ。」それでも青年は真っすぐに頷く。
「あれとあれも!?」今度は葉の大きなものと蔓の長いものをそれぞれ指差す。
そう
「そうだ。なア、何が言いたい?」うんざりした態度で青年は言う。
「ど~~~見たって違う種類じゃないかっ!!それなのに全部同じ『名前』だってことだよ!」その態度にさらに反抗するように、声を張り上げた。
「まア..落ち着けって...。人間っているだろ?人間だよ、お前さんとかオレとかのことだ。」
青年は僕の肩に手を当て、諭すように言った。
「それと同じだ...皆それぞれに『名前』が付いてる...そうだろ?」
「つま「つまり、この植物たちにもそれぞれあるんだね?『名前』が!」思わず青年の言葉をさえぎって結論を出すと、
「..まア、そういうこった。」青年は頭を掻きながらそう言った。
そのやり取りをして気付いた。僕はまだこの青年の『名前』を知らない。この状況への不安が少しは晴れたところで、青年に聞いた。
「取り乱したりして悪かったよ。僕は《ハイメ》。《ハイメ・セッラ》だ。君は..?」
「おまえ...ッ!」青年が飛び上がるようにして立ち上がった。
顔を上げると、青年は身構えていた。
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