「死に際に幻想を。」

主人公が冒頭から終わりに向かって少しずつ暖かさを獲得していく描写がとても魅力的な作品でした。
彼は愛されたかったのかな、とも思いました。だから相談相手に生きることを勧められても響かなかった。そこには死にたい自分と、それを客観的に見る相手との距離が確実にある。途中で彼が逡巡していたのは、「愛されたかった」というのが最後の未練だったからのようにも思えます。
例え嘘であっても、死神が優しくしてくれた事が嬉しくて、暖かくて、未練が無くなったのかな、とも。

最終シーンについて。主人公を看取った死神は、恐らく仕事を終えて最後に帰ってきた彼だと思いますが、それが明示されていないのも凄くいいなと思いました。仕事のやり方に思う所がある、そんな優しさを持った死神=物語で主人公を看取った死神であれば、主人公の終わりにはメリーバッドエンド的な救いがある。でももしかしたら、物語の死神は休憩室で煙草を蒸していた彼かもしれないし、先輩に礼を言っていた彼かもしれない。主人公にとって死神は優しかったけれど、死神がその時に本当はどう思っていたのかは分からない。
著者様が敢えてそうしたのかはわからないので、ひょっとしたら的はずれな意見かもしれませんが…
心情描写がとても素敵なお話でした。