第36話 新しいお友達が出来ました…
「ちょっと気になってたんだけどさ…。二人ってやっぱり付き合ってるの?」
皆で雑談を交わしていると、白鳥さんは口元に片手を添えて心なしか声量を抑え気味で尋ねてきた。
「……」
空気が凍る。いや正しくは僕と竜胆さんの間の空気だけが凍った、が適切かもしれない。
これは…どう答えれば正解なんだろう。
事実通りに違うよ、付き合っていないよと否定するのは簡単だった。
ただその場合竜胆さんに対して申し訳なさすぎる。昨夜はっきりと振られて辛かったと言われてしまったのだ。
そばにその彼女がいる手前、付き合っていないなどとまるでもう一度振るような発言は安易にはできない。
しかも例えば僕が竜胆さんとは付き合っていなくて、話の流れで別に朱里ちゃんという恋人がいるなんて事がバレてしまったら、「えっ、じゃあ今日はわざわざ学校を休んでまで彼女ではない竜胆さんと二人っきりで遊んでいるんだ…もしかして」とよくない疑いをかけられてしまうかもしれない。
白鳥さんたちとはせっかく仲良くなりはじめたっていうのに今この関係に亀裂を走らせたくなかった。
「……」
チラッと横目で竜胆さんを窺う。僕に似て彼女はどう答えればいいのか真剣に悩んでいる様子だった。
花森さんはどうしたの?という表情でこちらの空気感に気づいている様子はなかったが、シリアス空気を敏感に察知したらしい癒月さんは一人であわあわしていた。
「宮沢と俺は…」
いつまでも答えられない僕に代わり竜胆さんが答えようとしてくれる。
とても苦しげな表情を浮かべていた。
ごめん、竜胆さん…
僕が答えられないばかりにまた傷つけることになってしまった…
「ごめんっ」
「え」
「今の詮索みたいだったよね…感じ悪かったかも」
白鳥さんは竜胆さんの返答を聞く前にもうこの話はおしまいにしよう!というように手を一度パンっと叩き、僕たちに頭を下げてくれた。
たぶんというか絶対話を聞いていなかったであろう松風さんがバスケの件と勘違いしたのか白鳥さんに釣られて頭を下げたから、ふっと周囲の空気が少しだけ和んだ気がした。
「反省、反省…。わざわざ聞くようなことじゃなかった。二人を見ていれば素敵な絆で結ばれてることくらい簡単にわかる。うん、それでいい、それだけで十分だよ」
白鳥さんは流石というか踏み込んではならない部分を敏感に察知しすぐに謝罪してくれるできた人だし、その後フォローも正確で他者を思いやることができるイイ人だなって素直に思った。
「白鳥、お前良い奴だな」
僕の代わりに竜胆さんが心情を代弁してくれた。
「そう?よく言われるわ」
「ぷふっ」
真顔で冗談を打ち返す白鳥さんがツボに入り僕は吹き出してしまった。
ずるいよ。今のは完全に不意打ちだった。
「…な、なに?」
白鳥、竜胆両名に穏やかな表情で見つめられ若干恥ずかしくなってきた僕。
「でもやっぱりいいなー!お弁当。私も頑張って彼氏作ろー」
偶然かはたまた空気を読んでなのか花森さんが今までのシリアスな空気を壊す新鮮な風を送り込んでくれる。その風に有難く乗らせてもらおう。
「あんたはそのままじゃ彼氏なんていつまでもできないわよ」
「あーっ、むっちゃんひどーいっ」
「事実でしょ?」
「いいもん。それならむっちゃんと結婚してやるから。毎日お弁当作るマシーンにしてやるーっ」
「やーめーろー」
花森さんが白鳥さんに引っ付き甘えるように胸元に頭をグリグリさせてイチャイチャしていた。
「あ」
そういえば、と僕は朱里ちゃんの分として作ったお弁当の存在を思い出す。
「あのよければ、お弁当がもう一つあるんだけど、食べる?」
「いいのっ!?食べたい、食べたいっ!」
「この浮気者~」
そう花森さんに対してブーイングする白鳥さんだったが、目はお弁当に興味津々とばかりにキラキラ輝かせていた。
最初にお弁当について質問してきた癒月さんはもちろん、食事に夢中になっていた松風さんまでもが匂いにつられたのかお弁当に注目していた。
「おいしそう…じゅるっ」
「すご。うちが作るのよりも全然…。流石男の子だね」
「ウマソウ…」
「……結婚したい」
最後癒月さんがなんて言ったのかは聞き逃したけどみんなの反応は上々だった。
「じゃあ…。どうぞ、召し上がれ」
まるで待てと言われよしっと言われた犬のように四人の箸がゾクゾクとお弁当に伸びていく。…流石に例えが悪かったかも。
「うまっ。ヒヅルっ、これも食べてみてっ、すごくおいしいよ!」
「ウマウマウマウマウマーッ!」
「ほんとおいし、ってちょっとお馬鹿共っ。自分らだけたくさん取らないのっ、ちゃんとうちと癒月の分も残しときなさいよ」
「……美味」
お馬鹿コンビはガツガツ食していき、白鳥さんも二人に注意しながらもどこか関心したご様子、癒月さんはほっぺがこぼれるという風にうっとり頰に手を当て咀嚼していた。
よかった。期待に添えられたようでひと安心。
そうだ、そういえば…
「り、竜胆さんどうかな?口には合った?」
僕はまだ大事な人から感想を聞いていない事に気づいた。
「……」
屋上で約束しお礼の意味合いで作ったんだしもちろん美味しいと喜んでほしい、けど…
箸を持った竜胆さんは黙って俯いていて、表情のほどは伺えなかった。
なんだかゴゴゴゴゴゴッと背景音が付きそうだった。
どうしよう、不味かったのかな?
「宮沢」
「はっ、はいっ」
思わず背筋がピンと張る。無意識にごくりと生唾を飲み込む。
「お前天才かよッ」
「え」
顔を上げた竜胆さんは尊敬の念を込めたキラッキラの瞳で僕を見つめてくる。
あ、これは喜んでもらってるパターンだ。よかった…
「全部美味すぎるぞッ!特に俺のイチオシはーーーーー」
これが約五分間続いた。
「り、竜胆さんそれくらいに…。流石に褒めすぎだよぉ…」
「いいやっこれでも足りねえくらいだ。くそ、俺にもっと語彙力があればッ」
何かの罰ゲームですか?というくらい誉め殺しにされた。
お陰で終始頰が緩みっぱなしで顔が痛かった。きっと明日は身体とセットで筋肉痛確定だった。
ふぅー、暑い。
パタパタと手で頬を扇ぐけど全然熱はどこかへ消えてくれなかった。背中にも変な汗をかいてしまった。
もちろん竜胆さんに喜んでもらえて僕は嬉しいんだけどちょっと恥ずかしかった。
「じぃーっ」
「お熱いね~」
「テレテル」
「……可愛い」
「み、見ないでよぉ。もうっ」
その後もこんな風に和気藹々、意気投合して同じ釜の飯を食うみたいに白鳥さん達と仲良くなった。
「またバスケしようねーっ!」
「またね〜庵くん、竜胆さん」
そして帰り際、彼女たちと連絡先まで交換してまた今度一緒に遊ぼう!と約束して別れた。
この日、僕に新しい友達ができたのだった。
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【★あとがき★】
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