第27話 神坂朱里は明日を想い興奮する…

 庵とお付き合いして数か月が経った。



 庵は次第に学校生活が楽しくなったのかいろんな人と積極的に話すようになった。読書が趣味の大人しい子から教室で友達とはしゃぐ明るい運動部の子まで幅広く。



 気が付くといつの間にか庵はクラスの腫物から学校のマドンナ的存在になっていた。



 私は友達と話し込む庵の姿を盗み見る。



 出会った当初よりも伸びた髪を今は柔らかい印象のブラウンベージュに染めている。私が好きだと言ってからはハーフアップのお団子を週三くらいでしてくれる。



 彼は小柄な身長にフィットしたグレーのカーディガンを羽織り、今が楽しくて楽しくて仕方ないとでも言うように瞳をキラキラ輝かせていた。その場でぴょんぴょん跳ねてしまいそうな勢いだった。それはまるで小動物ようで可愛らしかった。



 周囲は私を羨む声や妬む声で溢れている。庵があんなに可愛いんだと知っていたら速攻で告白して自分のものにしていたっていう意見が多い。



 正直私は不安に陥っていた。彼女として彼氏を評価されるのは嬉しい、と思わなければならない。



 しかし、なんだか庵が遠い存在になったみたいで…



 いつ庵に捨てられるか分からない。庵がそんな子ではないとは分かっている。でも不安なんだ。あの頃みたいにまた一人になってしまうのではないかって。



 あんな日々に戻るのはもう嫌だった。一度甘美な幸福を知ってしまったらもう元に戻るなんて無理だった。私という人間は確実に弱くなっていた。



 私はその気持ちを庵にも誰にも相談しなかった。それゆえにストレスが溜まってしまったのかもしれない。



 ある日、私は初めて庵を自分の家に呼んだ。一人暮らしだったから色々と都合がよかった。



 庵はとうとうこの時が来たという風にそわそわした様子を隠し切れていなかった。かくいう私も内心はとてもドキドキしていた。



「ぅ…あ、れ…?」



 だけど次の瞬間、私が気が付いた時にはもう既にベッドの上でボロボロになって涙を流す庵がいた。



「……」



  妙に頭の中はクリアで、私は自分で何をしたのかハッキリと理解していた。



 拳にこびり付いた庵の血を見て不思議と胸に湧き上がったのは、



「ははっ♪」



 高揚感だった。



 濁流のような強烈な感情が胸に渦巻き、私は興奮してその後も庵をめちゃくちゃに汚した。



 私は庵を支配した。



 最初は反抗的だったが、初めて汚した際に盗撮した裸の写真をチラつかせ、一度だけ、そしたらこの写真は消すよと言って庵を騙して呼び出す。



 それを繰り返し、その都度ボコボコに殴り、精力を搾り取り、ベッドの上で力尽きている庵の写真を盗撮し脅迫を繰り返していく。



 頑張ってご奉仕してくれた場合は際限なく褒めちぎる。彼は頭を撫でる行為やハグやキスなどを好んだからたくさんしてあげた。



 そうやって私は上手く飴と鞭を使いこなし、宮沢庵を神坂朱里の事しか見えない、考えない人間へと洗脳していった。



 最初の反抗的な庵を脅迫と暴力で黙らせ、屈辱と羞恥に塗れた顔をした彼に股の前で跪かせ無理矢理ご奉仕させるのも中々に乙だったけど、毎度抵抗されたら面倒だからね。



 結局のところ私はもっと早くに気づくべきだった。両親と大喧嘩して自由を勝ち取ったように不安なら我慢なんてせず暴力で庵を縛りつければよかったんだ。我慢なんて馬鹿馬鹿しい。



 それから私は自己改造に熱を入れた。まずはつまらない黒髪は卒業し流行りの髪型にした。メイクも毎日サボらないようにし元々蓄積していたファッション知識から制服をダサくならない範囲で着崩し、舐められないように身体をこれまで以上に徹底的に鍛え上げた。



 クラスでもイケてる連中を自分のグループに取り入れ、その中でリーダーを張る。生徒会にも所属し、カーストの頂点に立ち学園を手中に収める。



 そして積極的に私と庵の邪魔をする害虫どもを駆除した。



 権力と金でものを言わせてごろつきを雇い、そいつらを使い襲わせ、害虫の心に傷を作らせて病院送りにしたり、時には冤罪を被せて無理矢理退学に追いやったりもした。



 文武両道、生徒会長(現)、容姿端麗、財閥の娘、私は絶対的な地位を確立した。



 何人にも邪魔されない私と庵の王国を作りあげた。これでまた庵を独り占めできる。私はまた自由を勝ち取ったんだ。



 そう。



 勝ち取ったはずなんだ。



 それなのに…



「どういうことだ…?」



 飛んでいた意識が戻って来る。



 庵が私の誘いを断ってきた。怒りよりも困惑。



「姉御、彼氏さんの到着はまだですかい?」



「おっそいなー」



「どんなかわい子ちゃんなんやろ…」



 コイツらは話に出てきた裏社会にすら居場所のない成れの果てだった。金をチラつかせたら簡単に従順になった。粗野で品がないし正直目障りだった。

 


 しかし駒としては優秀だ。最近は落ち着いてきたがたまに現れる私に反抗的な者や庵に絡んで来るめんどくさい奴らを黙らせるにはちょうどよかった。



 私と庵の邪魔をする害虫には社会からあぶれたゴミをぶつける。当然の帰結だ。徹底的に使い潰してやる。



「いやぁ゛ぁぁっ、ゆるじでくだざぁい゛ぃっ」



「うるせえぞォっ、この豚がァっ!」



 ゴガァッ



「ぉ゛ごぉっ、いだぃ゛、いだぃ゛よぉ、ままぁッ…」



 室内でごろつきに襲われている男子生徒と女子生徒、複数名。



 こいつらは他校の生徒らしく、可愛い子(庵)がいるとの噂を聞いて、うちの校門の前に何時間も陣取って迷惑行為をしていたらしい。



 こいつらは底辺学校のさらに落ちこぼれ。なにやら中学時代に生徒の一人をいじめて問題を起こして退学になっている。文字通りの害虫。



「ごめん、みんな。今日庵は用事で来れないみたい」



 私はごろつきどもにそう伝える。



「えー」



「つまんねー」



「楽しみにしてたのに」



 あはは。こいつらいつ消そうかな。



 しつこく『姉さんの彼氏って可愛いんすか?』と聞いてくるから、私は善意で顔合わせさせてあげようと思っていたのにさ。



「安心してよ。明日また呼び出すしさ」



「姉さんの彼氏ってめちゃくちゃ可愛いんすよね?お裾分けはもらえるんす「あ゛?」」



 ドガッ、ガッシャァァ



 身体が勝手に動いていた。宙に浮いたゴミは周囲の物を巻き込んで豪快な音を立てて倒れ込んだ。



「誰が誰のものに手を出すと?」



 自分のものではないような冷たい声が出た。ゴミどもを視線で射貫く。



「図に乗るなよ」



「「「「「すいやせんでしたッッッ!」」」」」



 ゴミどもは床に額に擦り付けて私に土下座してきた。



「庵に手出したら…すぞ。わかってるのかな?自分達が今生きていられるのは誰のおかげだ」



「「「「「姉さんのおかげですッッッ!」」」」」



「…わかってるならいい。そこに伸びてるやつは片付けておけ」



「「「「「イエッサーッッッ!」」」」」



「ふぅ…」



 つい。私としたことが感情的になってしまった。



「ふふ」



 庵のことになると私は自分を制御できなくなる。



「……」



 大丈夫、庵は用事だ。それがどうしても外せない用事だったから私の言うことに逆らったのだろう。そう、今日はたまたま来れなくなっただけ。きっと明日は会える。



「ふふっ」



 ああ、庵もう会いたいよ。待てないよ。庵。庵庵庵庵庵庵庵。



 私の愛しい庵。待っててね。



「んっ」



 庵のことを考えるだけでおあずけされた犬が涎を出す様に私は濡れてきてしまう。



「あははっ」



 愛してるよ、庵。



 明日めちゃくちゃにしてあげるからね。




第一章 完



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【★あとがき★】


※明日から第二章が始まります!



どうだったでしょうか?


第一章は今まで孤立無援だった宮沢くんが竜胆さんとの出会いにより希望が生まれて、さあこれから朱里ちゃんとの関係性はどう変化するのかというのを描きました。



最後に

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それでは今後も応援よろしくお願いします!


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