第17話 ズボン履かない人間だから…
「り、竜胆さん。お待たせ…」
「おぅ。もう大丈夫なのか?」
「うん。そのお陰様で…ご迷惑おかけしました」
僕は竜胆さんに自らの過去を明かし、初めて自分の感情と向き合って泣きじゃくった。
今は泣き疲れてヘトヘトだけど心は今までに無いくらいスッキリと爽快だった。
竜胆さんは自室ではなくわざわざリビングで僕の帰りを待ってくれていた。優しい。
例の黒いタンクトップ姿でソファに座り、テレビを流し見してくつろいでる状態だった。
「宮沢パジャマのサイズは合ったか?もし合わないなら…は?」
その竜胆さんが改めて僕の姿を見て固まっていた。
「み、み、みっ」
ん?
「み、やざわ…お前。なんて格好を…」
竜胆さんの様子がおかしい。僕の姿を見た途端、顔を赤く染めて、ムスッとした器用な表情を披露していた。
竜胆さんって本当は表情が豊かな人だったんだなぁと思う。知り合う前はあんまり顔色を変えない怖い人ってイメージがあったけど。それだけ僕に信頼を置いてくれているということだろうか。もしそうだったら嬉しいな。
僕は指の隙間から時折こちらをチラッと盗み見てモジモジする竜胆さんをじーっと興味深げに観察する。
すると、竜胆さんは観念した様に白状してくれた。
「今のそのお前の格好が…なんだ、カノシャツみたいで。目に毒なんだ。…だから早く隠してくれ。…ちくしょう、こんなこと言わせんなよ」
「え、あぁ…」
今の自分の姿を見下ろして確かに初めて自覚する。よくアニメや漫画で見るような異性のシャツを借りて着てみたら案の定ブカブカだったという格好をしていた。でもそれがどうしたんだろう?
「てかなんでだ?俺ちゃんとズボンも用意していたよな?」
「うん。でも僕夜はズボン履かない人間だから」
ズボンがあるとなんだか違和感があってムズムズしてしまう。
「まじか…そんなやついるんだ…」
竜胆さんは頭を抱えていた。何かブツブツ呟き、何か言いたそうな顔を向けながらも結局は何も言えずにというサイクルを何度か繰り返していた。
「さっき透けてた時は…ずかしがってたのに…そういう…流が…うびすぎ…パン…よな?…てきす…やいやいまの…んにせく…それに…みや…きらわれ…ない…」
「?」
ほんとどうしたんだろう?
「はぁ…もういいや。俺が我慢すれば良いだけの話だ」
内容は分からないけどどうやら竜胆さんの中で結論は出たらしい。よかった。
どこか竜胆さんは諦念を含んだ遠い目をしていた。そして拳を硬く握りしめて決意を固めている様子だった。
「宮沢っ!」
「はっ、はいっ」
急に名前を呼ばれてビクッと身体が反応してしまう。何を言われるんだろうと少しドキドキしてしまう。
「俺は風呂に入ってこようと思う!」
「…はい?」
「間違ってもお風呂乱入イベとかはやめてくれよっ、お礼でお背中流しますとかいらねえからなっ、そんなんされたらまじで我慢できなくなるからマジでっ!」
「……」
「宮沢は先に部屋に行ってゆっくり休んでてくれっ、じゃあ風呂行ってくるっ!」
ガンッ
「ぃ゛っつぅ…」
あ、肩をドアにぶつけてる。
「……」
いったい何の宣言だったんだろう。竜胆さんはまるで天敵から逃げる小動物のような俊敏な動きでリビングを出ていった。
「……」
ぽつんっと僕はリビングで一人取り残される。
「ま、いっか」
泣きじゃくったせいで神経が図太くなったのか、鬼の切り替えを発揮して、予め教えてもらっていた竜胆さんの部屋へ一足先に向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます