第14話 強姦されかけたことがあるんだ…

「実は昔レイプされかけたことがあるんだ…」



「っ…まじか…」



 それはまだ幼い頃、僕が信じていた人によって引き起こされたことだった。



 その人物は僕にとって幼馴染のような女の子だった。休みの日はもちろん平日の学校終わりもよく遊ぶような仲だった。



 ある日一緒にベッドの上でお気に入りの漫画を読んでいたら、いつの間にか僕は自室の天井を眺めていた。



 それが押し倒されたのだと気づいたのは目の前の豹変した彼女を見た時だった。



「ハァハァッ…ィォ…ハァッ…ッ」



「…ちゃん?…やぁっ…ちゃんっ…まって…ッ」



「アハハッ…ジュルッ…ンーッ」



「ぅ…ぁ……だれかぁッ…たすけッ」



 僕は悲鳴を上げながら必死に手足をバタバタと暴れさせて抵抗した。



「…おにぃちゃんっ!どうしたのっ!?」



 激しい物音を聞きつけた妹が様子を見に来てくれたおかげで未遂に終わってくれた。がしかしその経験から僕は女性がトラウマになった。



「おにぃちゃん…だいじょーぶ?」



「庵ちゃん…今はゆっくり休んでいいからね」



 妹も母も一定の距離を保ちつつ僕に気を遣って優しく接してくれた。



 女性と接するのが怖くなった僕はしばらくの間、休学する事になった。



 事の次第を重く捉えたあの女の子の一家は責任を取って他県へ引っ越して行った。もちろんあの子も転校して行った。



 あの女の子の母親とは唯一無二の親友だった母はどこか残念そうにしていた。



「兄貴そろそろ学校行かんの?今日友達に聞かれてすごい恥ずかしい思いしたんだけど」



「そんな調子で社会に出たらどうするつもり?いつまでも引きずっていないで、ちゃんと学校に行きなさいっ」



 初めは優しく見守ってくれていた家族も、僕が中学生になっても一向に学校へ行く気配が無い事を見るに、社会復帰に対して圧をかけてくるようになった。



「最低限高校にはちゃんと出てもらいますからね。もし行かないのならその時はあなたと縁を切らせてもらいます」



 母にそんな事を言われたら従う他ない。



 本当は死ぬほど怖かった。こちらを人間ではなく自分の欲を満たす為の玩具としか見ていない、あの目をした女にまた襲われてしまうのではないかと想像しない日はなかった。



 だが、母の言う事も間違ってはいなかった。いつまでもメソメソしてはいられない。結局将来困る事になるのは自分自身なのだ。



「ふぅ…頑張れ、僕」



 こうして背水の陣になった僕は重い腰を上げ、無事高校入学を果たす。



 高校では恋人まではいかなくても、なんとか女友達くらいは作って女性不信を克服しようと意気込んだ。



「…なんだよ、それ。もっとこう言い方ってもんが」



「竜胆さん?」



 ふいに一枚隔てた向こう側から苛立ちを含んだ呟きが聞こえたので一度お話を中断する事にした。



「…すまん。聞こえてたか?」



「うん、もっと言い方がなんとかって」



「……」



「竜胆さん?」



「いや。そういうデリケートな問題に対してはもっと繊細にケアしていくのが大切だと俺は思ってる。それを宮沢の母さんは…やり方が強引すぎだ」



「…そう、かな?」



「あぁ。だからハッキリ言って気に食わない。母親のことを悪く言ってすまん」



「ううん…大丈夫だよ。でも僕はお母さんは何も間違っていないと思うよ」



 結局悪いのは全部僕だから。中学生の時に母に言われた言葉を思い出す。



 『あなたは昔から異性にも構わず距離が近かったからあの子は勘違いしちゃったのよ。あの子も可哀想に…』



 確かに母の言う通りだと思った。だったらあの事件の原因は僕だったのだ。それなら自業自得の行いに対していつまでもメソメソしているのはお門違いという話だった。



「宮沢…」



「お話、続けてもいいかな?」



「…あぁ。頼む」



 僕の過去話はまだまだ始まったばかりだった。

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