『閉幕』
続く第二の作戦は、カウンターだった。相手に先手を与える危険な作戦ではあったものの、七華の一撃一撃が軽い事を見越して、さらに七華に飛び道具がない事を見越しての戦術だった。立っていられず、片膝をつく。その時、有利に戦っていたはずの真矢の声がつつじに届く。
「ごめん、つつじ!」
壁際に立っていた真矢は、銀色のギラギラした大きなナイフを、あやめの胸に突き立てて、その体を外壁に拘束していた。傍から見れば、どう考えても真矢が圧勝している構図だった。しかし両者の表情ははっきりと明暗分かれており、真矢が苦々しい表情で必死に拘束を続けているのに対し、差されているはずのあやめの方が、何故かナイフに負けないほどのギラギラとした瞳で真矢の事を見下ろしていた。
「そんな長く……持たな、そう……!」
真矢の言葉を受けて、つつじは早期決着を図るべく渾身の力を込めて拳を振りかぶる。七華は逃げることなく、その場で剣を構えなおして迎撃の姿勢を取っていた。剣の間合いで、細剣がつつじの心臓を狙う。心臓の筋肉に傷をつけたが、その細さゆえにすぐに拍動を止めるに至らなかった。二人の距離はさらに近づき、つつじが拳を振るう。
つつじは確かな手ごたえを感じ、七華は頭蓋を完全に捉えられて、華奢な身体から血肉を曳きながら数メートル先の地面に叩きつけられる。
どさり、と七華の身体が音を立てて地面に倒れる。
立つな、とつつじは願った。
時間は、ほとんどかからなかった。
七華は、頭を軽く抑える程度の仕草で、何事もなかったかのように立ち上がってしまうのだった。
しかし隙はあった。何やらめまいに襲われているのか、すぐに動こうとしない七華へ、つつじは本能で飛び掛かって、地面へと押し倒す。馬乗りの姿勢のまま、まだ動く左手一本で、細いのど輪を絞める。真矢と示し合わせた最後の作戦だった。つつじの式の力が、七華の力を上回って、徐々に七華のもがきが小さくなっていった。ありったけの力を込めて、込めて目の前の首を絞める。
そしてその時、ふっ、と力が抜けるのを感じた。
つつじは支えを失って、身体が傾いていくのを感じたが、どうやってもそれを止める事が出来なかった。そのまま、七華のすぐ横に横たわる様に倒れ込む。そんなつつじの視界に入ったのは、先ほどまで自分の腕だったものだった。
「ざーんねん、もうちょっとだったね」
妙に遠くで聞こえるようなあやめの声がつつじに届く。顎を上げて真矢の方を見ると、先ほどまであやめを押さえつけていた壁の近くで、前かがみでへたり込んだまま動けないようだった。
ナイトのあやめが、プリンセスの七華に手を差し伸べていた。その手を取らずに七華は立ち上がる。軽口を言い合っているのは、つつじには聞こえなかった。
「負けちゃった……」
つつじは既に痛みなど感じすぎて麻痺してしまっているぼうっとする頭で、
「くやしいなあ………」
ただただ、自分より美しく強いプリンセスの姿を見上げていた。
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