『二人の馬車』

「……えっ?」


 つつじはその言葉の意味を完全に理解していたが、全く意味が分からずに身体を離して、真矢の顔を見た。真矢の顔は笑っていた。

「私にとってつつじはさ、シンデレラじゃなくて、茨姫なんだけどね」

「え?」

「なんでもない。こんな時に言うのもなんだけどさ」

 珍しく、照れたように見つめてきていたつつじから真矢が視線を逸らして言う。

「初めて会った時、つつじが倒れてるの見つけてさ、全然何にもわからなかったけど、この子が助かって欲しいなっていうのと、こんなかわいい子と仲良くなれたらいいなって思ってたんだけど」

 ふう、と大きく息をついて、真矢が続けた。

「今、どっちも叶ってるからね。私はつつじのおかげで幸せなんだよ」

 お互いに発する言葉を見つけられなかった、つつじと真矢、気まずくなって先に言葉を発したのは真矢だった。

「まあ……その私の独占欲のせいで、つつじが寂しい思いをしてる面はあるかも……しれない……けど……つつじ?」

 つつじの、だらりと力なく垂れ下がっていた腕が、もう一度、真矢の背中を包んだ。

「……嬉しい」

「そっか」


「でも……私、もうダイブできない」


「そんなはずないよ。……ねえつつじ」


 身体を寄せ合ったまま縋るように言うつつじに、優しく真矢が囁く。


「今から一緒にダイブしようよ、ダメ?」


 二人で揺籠に入るなんて、聞いたことも、考えた事もなかった。

 違和感、拒否感が上書きされていく。



 そしてつつじは、目を覚ました。


「……ここ……私………」

「言ったでしょ、私がつつじをエスコートする、って」


「おかえり、つつじ」

 電子世界で目が合った瞬間、揺籠の異常を示す警報が鳴り響いて、二人は一緒に現実に引き戻された。


 再び、現実世界。

「あはははは、あー、やってみるもんだね」

「もう……」

 手を取り合ったまま笑う隣の真矢に、つつじの心のモヤモヤはほとんどなくなっていた。

「でも、一週間したら、私のダイブ装置が……」

 その最後の雲をかき消す様に、エスコートする、と約束した真矢が、つつじを導くように言う。

「村上七華、ね。多分、行けば会えるよ。あの人一応企業CEOだから」



 家に帰り、大きく息をついて一人きりでもう一度ダイブする。少しだけ不安があったが、揺籠と電子世界はつつじを受け入れた。そのまま真矢に指定された座標の住所へと向かう。


 七華は、そこに居た。

「約束は一週間後のはずでしたけど」

 微かに驚いた表情の七華に、傍らの真矢と共に言う。


「七華さん、再戦に来ました」

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