49本目「卒業? ………………卒業ッ!!(前編)」

 ……僕は夢を見ているんじゃないだろうか。

 あるいは、実は僕は事故か病気で倒れ、元の世界によく似た異世界に転生してしまったのではないか。

 そんなバカげたことを考えてしまう。




 ところがどっこい、夢じゃありません!!

 いや、夢だったら困るんだけど!!!




「……何か、恥ずかしいですね」


「……で、ですね……」




 僕の隣にいるのは姫先輩。

 彼女の右手と僕の左手は繋がれたまま――手錠とかではなく、互いの手を指を搦めて握り合っている、いわゆる『恋人つなぎ』というやつだ。

 そして僕たちは外ではなくとある建物の中にいる。

 大き目のベッドが目を惹く、見ようによってはワンルームにも見える――けど、他に必要な家具もなく、妙にギラギラした印象のある、壁面が大きな鏡となっている部屋だ。




 ぶっちゃけよう。

 

 ヤリ用語ではない。

 ラブホテルの略の方のラブホである!!

 ……なお、ヤリ用語には当然のように『ラブホ』は存在する。お察しの通り、穂先に関わる用語だ。

 …………いやそんな現実逃避している場合じゃない。







 真由美ちゃんに乗せられ、勢いで姫先輩に告白したのはもう数か月前になる。

 あの時のどうしようもない告白は――なんとのである!!

 『好きです!』の一言に対して、『わたくしもです』と返してくれた。

 これはもうOKされたと解釈して間違いないだろう。

 実際、その後……僕と姫先輩は『恋人』となったのだ。僕の妄想ではないッ!! 繰り返す、妄想ではないッ!!!

 サークル公認のカップルであるッ!!!


 そう、本多先輩たちにも、僕と姫先輩が付き合っていることは公言しているのだ!

 ……ここまで言えば、もう誰も僕の妄想だとは思わないだろう。






 で、色々とデートしたりと『清いお付き合い』をここ数か月続けて来たわけだが――






 今日、ッ!!!!!!

 …………あ、もちろん互いに同意の上でだよ??

 でなきゃ、仲良く恋人つなぎでラブホの部屋入らないしね。







 それはともかく、僕は当然ラブホなんて初めて入ったし、姫先輩もそうだったみたいだ。

 ……緊張する。姫先輩も同じらしく、繋いだ手から緊張が伝わってくる。

 こ、ここで男らしくリードしなきゃ!!

 と思いはするものの、どーしたって二人揃ってちょっとぎこちない感じになってしまう。

 付き合いたてのカップルか! ってツッコミたい気持ちになる。実際付き合いたてなんだけどさ……。




 ど、どうすればいいんだ……!?

 僕たちはでっかいベッドに並んで座って、二人揃ってもじもじしている……。

 えっと、まずは小粋なトークで盛り上げて……?

 いやその前にシャワー浴びる……?







 ――『貞雄よ、押せ……ッ!! 押すのだ……ッ!!』




 (心の中の)本多先輩……ッ!

 押すしかないんですね、この状況……ッ!!

 ……あ、けど色々と萎えるんで出てこないでもらえますか?




 ――『え~? 貞雄兄ちゃん、ここで引いちゃうのぉ? ざーこ♥ ざぁ~こ♥」

 ――『(ボソッ)サダオなら、やれるはず……」




 (心の中の)キルヤ君とキリカちゃん……ッ!

 君たちにはまだ早い!!




 ――『先輩……ここで逃げたら逆にドン引きですよ』




 (心の中の)真由美ちゃん……ッ!

 君のおかげで僕はここまで来れたんだ……ッ!!




 ――『お前がヤらないなら、サキがヤる♥ 替わって? 替われッ!!(豹変)』




 (心の中の)サキ……ッ!

 …………いや、おまえはすっこんでろよ……。




 ――『貞雄氏、ここが勝負どころですぞ!』




 (心の中の)コッティ……ッ!

 ……おまえ、彼女持ちだからって図に乗るなよ……!?

 おまえの彼女の友人との合コンセッティングしてくれなかったの、まだ根に持ってるからな?







 僕の脳内に、今まで出会った数々の人たちが浮かんでは励まし (?)の言葉を投げかけてくる。

 ――これが、僕の歩んできた道であり、紡いできた『絆』なのだ……!

 まるで最終決戦みたいでおおげさな?

 否! 断じて否ァッ!!

 今日、この場こそが僕の人生における最大の決戦なのには間違いないッ!!!







 ……と色々と考えること僅か数秒。

 フリーズしていた僕の身体が勝手に動いた。




「……あ」


「……貞雄さん……」




 な、なにをやってるんだー、僕は!?

 本能に突き動かされるまま、僕は隣に腰かけていた姫先輩を抱きしめ、勢いでベッドへと押し倒してしまっていた!!

 ……や、やっちまった……。

 こんな、我慢しきれない童貞丸出しムーブを、この局面でやらかしてしまったー!!




「…………」


「せ、先輩……」




 でも、姫先輩は僕を拒まなかった。

 真っすぐに押し倒す僕を見上げ、優しく微笑んでいた。

 押すしか――押すしかないッ!!

 奮い立て、僕の神槍ロンギヌスッ!!!













◆  ◆  ◆  ◆  ◆













 ――ムードも何もないけど……今日、僕と姫先輩はついに一線を越えたのだった……ッ!!!

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