43本目「決着! 死闘の果てに……!!(前編)」
状況はひっくり返った――とまでは言い難い。
対する姫先輩はというと、左手がほぼ動かない状態だ。
リーチの差を考慮しても姫先輩が厳しいことには変わりはないと思う。
決着の時はそう遠くない。
僕を含め、二人のランパを見ているヤリマンたち全てがそれを予感していたはずだ。
そして、ここから更に状況が変わることもない。
……『見届け』のつもりだったのだろう、ヤリマン狩りたちは誰もヤリを持ってきていないし、僕たちも同様だ。
つまり、ここから姫咲が新しいヤリを手にする可能性はないということだ。
二人とも、今ある手持ちのヤリで勝負を決めるしかない――だからきっと長い時間はかからない、そう誰もが予想していた。
通常のヤリを片手で振るうのと、短いヤリを両手で扱えるのとどちらが強いのか?
……それを考えるのも馬鹿馬鹿しいと思えるくらい、二人の実力は突出している。
この状態でもどちらが勝つのかわからない。それが正しい見方じゃないかなと思う。
けど、僕は姫先輩を信じる。
僕の知る姫先輩――
二人が同時に動いた。
姫咲は長槍の方を諦めたのか、合体を解除しその場に放り捨てる。
……まぁそう考えるのが正解だよね。
いかにまだ使い道があるとはいえ、下手に使おうとしたらその隙を必ず姫先輩に突かれてしまうことだろう。
だったら、短槍一本を両手で扱った方が勝率が高いに決まっている――ましてや、姫咲には姫先輩を遥かに上回る『腕力』という強力な武器があるのだから。
姫咲は腕力にものを言わせ、強引に姫先輩の懐へと飛び込もうとする。
……ヤリが短い分、力を込めやすくなっているのには違いない。
ましてや相手は片手――この状況なら、長いリーチは逆に不利に働くと言えないこともない。
が、その不利さえも覆すのが『技』であり、技を修めた『達人』なのだ。
「!? お姉……ッ!!」
意外にも姫先輩のヤリが姫咲のヤリと拮抗、まともに撃ち合っていた。
まだパワーの分姫咲の方が有利と言えなくもない。
けど、ここで重要なのは姫咲に懐まで潜り込まれて一方的に押し切られるのを防ぐことだ。
姫先輩がまともに撃ち合えている理由――それは、敢えてヤリの根本付近を握ったことにある。
柄がかなり余ってしまうため振りにくいという難点はあるが、手に持つ位置と力点……ヤリ同士の撃ち合う箇所の距離が短ければそれだけ力を込めやすくなる。
とにかく姫咲のパワーに片手で、僅かな時間でいいから対抗する……そのための苦肉の策とも言える。
姫咲の戸惑いは一瞬。
すぐさま立ち直り、両手で強くヤリを握りしめて渾身の力で姫先輩の防御を突破しつつ攻撃を加えようとする。
――だが、それは迂闊としか言えない行動だった。
「えっ!?」
姫咲の放った渾身の突きに対し、姫先輩は正確にその穂先を狙いカウンターの突きを放つ――いや、ヤリで受け止めようとする。
普通なら弾かれて終わるはずの姫先輩のヤリは、がっしりと姫咲のヤリを受け止め、反動で姫咲の体勢が崩れる。
――姫咲は見落としていたのだ。
姫先輩はヤリを短く持っていた。
そのせいで、
姫先輩は、石突を地面へと固定して姫咲のヤリを迎え撃ったのである!
いかに姫咲が怪力であろうと、不動の大地を動かすことはできまい。
片手でヤリを抑えて穂先へと照準、大地の力を利用して完全に相手の動きを抑え込む――その妙技を姫先輩は咄嗟に放ったのだ。
「颶風院流奥伝――」
そして、大地に石突があるということは、足元にあるということを意味する。
すなわち、すぐさま姫先輩の奥義が放てるということだ!!
浮かせた石突へと右足を添え、体勢の崩れた姫咲へとヤリが放たれる。
「『
至近距離からの必殺の奥義は、しかし――
「甘いよ、お姉ッ!!」
なんと、姫咲によって受け止められた!
いや、正確には受け止めたのではなく、発射寸前のヤリを掴んで蹴りだされるのを止めたのだ。
……やはり姫咲も尋常ではない。
咄嗟の判断で自分のヤリを捨てて無防備になることを承知で、姫先輩のヤリを止めることを選択し実行したのだから。
これで互いにもう攻め手はない。
――と誰もが……当事者の姫咲でさえも思った時だった。
姫先輩は蹴りだけで止まらず、そこから更に膝蹴りを石突へと叩き込む!
「『零式』!!!」
最初の蹴りの勢いで回転、回転の勢いを加えた渾身の膝蹴りでヤリは更に加速――
「おんぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
二重の勢いを加えられた姫先輩の奥義の前に、姫咲の抵抗は虚しいものだった。
姫咲はヤリを抑えることができず、必殺の一撃を食らって吹っ飛ばされ――そして、完全にノックアウトされ、決着はついた……。
……颶風院流と王帝院流の頂上決戦は、我らが姫の勝利に終わるのであった。
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