44本目「決着! 死闘の果てに……!!(後編)」
僕たちを……いや、姫先輩を襲っていたヤリマン狩りのリーダー、というか元凶である
動機はしょうもないけど、手段が邪悪過ぎた姫咲ではあるが……今や自由に身動きをとることができない状態だ。
……別に姫先輩の最後の一撃の衝撃で動けなくなったというわけではない。
「むー! むー!!」
今、姫咲は目隠しをされ、口にはいわゆる『ボールギャグ』を嵌められている。
んで、後ろ手に『手錠』をつけた上で更に雁字搦めに縄で縛りつけられている状態だ。
……何でそんなもんがあったかというと……。
「うわー……この人、こんなヤバい人だったんですねー……」
ヤリ以外の手荷物は、引き連れて来たヤリマン狩りに持たせていたんだけど、何か妙に大きなバッグだったのを不思議に思い、お姉ちゃん特権を振りかざした姫先輩が開いたのだけど……。
目隠し、ボールギャグ、手錠、荒縄……とヤバげなものがびっしりと詰まっていた。
流石に真由美ちゃんやヤリマン狩りたちもドン引きである。
一番のドン引きはというと――
「こんな大きな
「ああ、ヤバいな。どんなクスリを使っているんだ……」
「これは警察に通報した方が……」
明らかに大きな注射器――のようなものを見てざわざわしている……。
……知らない人から見たら、異様に大きな注射器に見えるだろーねー……それで注入するって、どんだけヤベー薬なんだって話だよねー……。
だが、僕は知っている――これは注射器ではない。浣ちょ――いや、やめておこう。
「えーっと、とりあえず警察には言わないでも多分大丈夫だと思います。
ほら、先っぽが針じゃないから刺したりはできないですよ」
「おう? 確かに……」
「お医者さんごっこの道具かなんかですかね? お姉さんと遊びたかったんですかね?」
ある意味合ってるけど。
「ランパで叩き伏せた後、これらの道具で動きを封じて痛めつけるつもりだったのか……チビ姫め、ますます酷くなっていたようだな、まさかここまでとは……」
「業の深い方ですね……実の姉相手に……なんて酷いことをしようと……」
……うん、まぁ色々と業が深いわ。深いというかもう底なし沼だね、これは。流石の僕も引くわ。
バッグの更に底の方に、
武士の情けというより、この子みたいなガチの変態は追い詰めると怖いしね……。
「と、ともかく――これからどうするんですか?」
このまま行くと姫咲の性癖が詳らかにされてしまうだけだし、僕は強引に話を戻そうとする。
……それにしても、ヤリ界隈のトンチキ用語じゃなくてガチのエロ系の話が出てくると戸惑うなー……しかも他の人は全然理解できてないみたいだし。
ま、どうでもいいか。
僕の言葉は主に姫先輩に向けてのものだ。
彼女が一番の被害者だし、身内だしね……迷惑かけられたのはヤリマン狩りたちも同様かもしれないけど、まぁ彼らはそもそもヤリマンの道から逸れてたわけだからなぁ……あんまり文句を言えた義理ではないだろう。
姫先輩は深くため息をつくと、姫咲の口枷を外す。
「お姉♥ 負けちゃった♥
サキこれからどうなるのぉ?」
…………全然反省してないなー、こいつ……。
負けたところで別にどうということはないのだろう。
姫先輩を狙うのを止めるつもりはないということか。ほんとに厄介なヤツだなー……。
むしろ、今の状況を喜んでいる節もある。変態め。
「サキ、貴女の気持ちはよーーーっくわかりました」
「! お姉……サキの気持ち、通じたんだね!」
……喜んでいい事態じゃないと思うんだけどなぁ……。
まぁいいや。姫先輩の言葉を待とう。
「通じてるわけないでしょう?
わたくしは休学はしませんよ」
「え…………なんで…………?」
なんでもへったくれもねーよ。
なんでこの流れで姫先輩が自主的に休学してくれるとか期待してんだよ。
「わたくしと同じ学校に通いたい――その気持ちだけはわかったということです。
いいでしょう。サキがきちんと大学に合格したのであれば、同じ学校に通うのは構いません」
まぁそこは姫先輩が拒もうとも、おのずとそうなるよね……姫先輩が『姫咲がヤリ学に通うのを認めない!』と彼女の保護者に訴えて受け入れられでもしない限りはね。
……姫咲が合格さえすれば、残り2年間であろうとも一緒の大学に通うことは認める、ということだ。
もちろん休学なんてしないので、2年間こっきりになる。
これ以上の譲歩はしない――元より姫先輩が譲るものなんて何もないはずだけど――という明確な意思表示だ。
「むー……!!
…………わかった、我慢する……」
姫咲は悩んだようだが、これ以上こじれさせたら『もう顔も見たくない』レベルまで嫌われてしまうかもしれない、と恐れたのだろう。
いまいち不満そうではあるが、一生嫌われるくらいなら『2年間だけ』で我慢すべきと判断できたみたいだ。
良かった、その程度の理性は一応あったのか……。
…………最初から堂々と姫先輩の前に出てきて、要望を伝えていればこんなに大事にはならなかったというのに……。
でもまぁ、姫咲の欲望から始まったこの騒動も、これで一応解決、かな?
……なんて安心した僕たちだったけど……。
「それでサキ。
模試の判定はどうなんですか?」
姫先輩はうやむやには終わらせるつもりはないみたいだ。
まー、そりゃそうか。これで姫咲が合格できないんだったら、何の意味もないしね。
姫咲は縛られたまま、自信満々に胸を張って答えた。
「えへへ♥
――再度、空気が凍り付いた。
え、F……!? そんな判定あるの!?
僕が受けた模試だと、確かE判定が最低だった覚えがあるけど……それより更に下ってありえるのか……?
他の人が呆気に取られているのをどう勘違いしたのか、姫咲は嬉しそうに続ける。
「これってもう合格したも同然だよね!」
「…………サキ……あなたって子は……」
海よりも深く、本当に、心底呆れたと言わんばかりに――いやマジで呆れているのだろう、姫先輩が再びのため息。
姫咲はまだ理解していない。
「?? Fってことは、Eよりもすごいってことでしょ?」
確かに凄いけどさぁ……色々と。
「Aから始まるんだから、Fの方が凄いんだよね……?」
……流石に周囲の反応に思うところがあるのか、揺るぎなかった姫咲の心が初めて揺らいだ。
「そんなわけないでしょう……ランクだって、Fから始まってAの方が凄いでしょう?」
「アレおかしいよねー? しかも、Aの次がSって……直感的じゃないよ!」
あ、そこだけは姫咲に同意だ。
……こいつと同じ感性って、何か嫌だなぁ……。
「はぁ~……」
姫先輩はもう言葉もないって感じだ。
他の人も、僕も同じだけど。
「え…………あれ…………?」
最初は皆が姫咲を騙そうとしているとでも考えていたのだろう、まだへらへらと笑っていたものの……。
やがて、マジだと理解してしまったのだろう。
「うそ、だよね……?」
「サキ――残念ながら」
ふるふると首を横に振る自分の姉を見て――姫咲の顔が絶望に歪んだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます