41本目「双槍! 嵐舞う姉妹ランパ!!(中編)」

 姫咲きさきの掲げた双槍ふたなりが、姫先輩の振り下ろしたヤリを挟み込む。

 ……姫先輩らしくもない、力任せの攻撃だったのが迂闊だった。おそらく、それを誘うために姫咲は立ち回っていたのだろうけど……。

 自分のヤリで姫先輩のヤリを挟み、絡めとったまま今度は思いっきり捻って奪おうとする。

 防御と同時に相手の武器を奪う――それが、裏颶風院流の技『迎蛇流颶ゲイジャルグ』なのだろう。




「くっ……!」




 実際の試合ランパでは、ヤリを手放して落としたりしたら『反則』を取られる――ただし、地面に落とす前にキャッチすることができればOKとはなっている。

 で、反則が2回で『1本』。もしも1本勝負だったらこれだけで負けが確定してしまうことになる。

 これは試合ではない、だから反則を取られたところで意味がない……

 むしろ、仕合の最中に得物ヤリを手放してしまったら『終わり』となってしまう。

 それを避けるため、姫先輩が捕らわれたヤリを放すまいと力を込めて踏ん張ろうとする。

 ……が、そこまでも姫咲の狙い通り。




「ふんっ!!」




 ……一体どれだけの『怪力』なのか、なんと姫咲はヤリを握った姫先輩へとそのまま『投げ技』を仕掛けて来たのだ!

 普通に考えてそんなことできるわけがない。

 なのに、姫咲はやれてしまう。

 ――これは、できた技だろう。

 普通の人なら、あっさりとヤリを奪われた後に追撃を受けただろう。

 けど、姫先輩はそれに抗うことができ、しかも見た目からは想像もできないパワーで逆に姫咲を抑え込もうと

 人とヤリが一体となる――それは武術としての観念的な意味では理想、だが姫先輩は比喩抜きでそうなっている。

 ……それが仇となり、姫咲のヤリごと巻き込んだ脅威の投げ技が見事に決まってしまう!




「――」




 ヤリを手放せば失い、抵抗すればヤリごと投げられる。

 ヤリごと投げるなんて普通ならありえない技が姫先輩を襲うが――姫先輩は僕の想像の更に上を行った。

 姫咲の投げ飛ばそうとする力に一切逆らうことなく、むしろ同じ方向へと自ら跳び宙を舞う。

 ……ぶっちゃけ、どっちも人間業ではないと思う。

 宙を舞った姫先輩はヤリを放すこともなく、そのまま着地。




「やっぱりお姉には通じないかー」




 奥義と思われる技を破られたにも関わらず、姫咲は全く堪えた様子はない。




「当然、わたくしも裏颶風院流は修めています。サキ、あなたの技はもう通用しません」




 なるほど、そういや姫先輩も一応『裏颶風院流』はやってたって話だったっけ。

 ということは『迎蛇流颶ゲイジャルグ』のことも当然知ってるわけだ。

 知っていながら敢えて受けたということになるが……。




「ふふ、うへへへ……」




 姫咲の笑みは崩れない。

 それどころか、ますます嬉しそうに笑みを深めるばかりだ。

 こいつもこいつで、何を考えているのかがさっぱり読めない。

 姫先輩を怪我で休学させるのが目的と言っておきながら、それを姫先輩が実力で跳ね返していくのを嬉しく思っている……。

 どう見ても矛盾しているのだが、まぁ正直こいつみたいなヤツの考えを読もうとするだけ無駄かなって気にもなっている。




「やっぱりお姉は凄いや……かな」


「……?」




 姫先輩が怪訝そうに眉を顰める。

 ここまでの戦いは全くの互角――ヤリ二本を巧みに操っていることを見ると、実は姫咲の方がやや優勢とも言えるのだが……。

 それでも姫咲は自分がこのままでは勝てない、と言っている。

 横で見ている僕でも不審に思うのだ、姫咲をよく知る姫先輩ならばなおさらだろう。

 僕らの疑問に答えるように、姫咲が構えを変える。




「だから、ここからはサキのを見せるね……?」




 そう言うと、姫咲が両手に持つ槍の石突同士を組み合わせる!

 石突は元からそうなっていたのだろう、かぎがついていてそれらを組み合わせることでガッチリと噛み合うようになっている。

 双つの槍が石突部分で組み合わさり、一本の――両端に穂先のついた長大なヤリへと姿を変える!




「むぅ……あれは!?」


「知ってるんですか、本多先輩!?」




 ……本多先輩と真由美ちゃんの茶番が横で繰り広げられている……。

 が、まぁ一応聞くだけ聞いておくか。




「裏颶風院流は双槍ふたなりの技――その中でも特異な、秘伝ともいうべき技があれだ。

 双槍を一つと成し、敵を穿つ……つまり、今の姫咲は裏颶風院だけでなく颶風院流の技をも同時に使えることが出来るというわけだ」




 なるほど……。

 双槍は扱いが難しい。

 何が一番大変かというと、片手でヤリを振るわなければならないということだろう。

 剣道でも二刀流が流行らないのと同じ、あるいはそれ以上に深刻な理由でヤリを二本同時に扱うというのはあまり利点がない。

 実際にやってみればわかると思うけど、ある程度の長さの棒状のものを片手で自在に振り回すのってかなり難しい。しかも、それを両手で別々に動かさなければならないのだから、腕力だけでなく器用さとかも要求されることだろう。

 中途半端な実力では逆に自分が追い込まれるだけ……それが二刀流とか双槍を扱う上での『ハードル』だと言える。

 で、姫咲というか裏颶風院流では双槍の技では厳しいとなった時に、一槍流へとスイッチすることができるような、仕掛けのあるヤリを使っていたようだ。

 ……これは僕の予想だけど、一本にしたヤリを更に状況に合わせてまた二本に戻す……という変幻自在の立ち回りも行えるだろう。

 ――裏颶風院流、扱いは難しいがもし十全に扱えるのだとしたら、普通のヤリマンにとっては対抗することもできずに一方的に翻弄されるだけの脅威と言える。




「俺も実際に見るのは初めてだ……。

 あれこそが裏颶風院流の秘伝にして双槍の真髄――『ふたなりの巨棍』!!」




 巨ではない、巨だ!!

 繰り返す! 巨根ではない、巨棍だッ!!!


 ……なんて馬鹿な話はともかくとして、両端に穂先がありつつしかも姫先輩のヤリよりもリーチのある大槍だ。

 リーチのあるヤリの方が強い、なんてことはないけど厳しい戦いになることは間違いないだろう。

 しかも、おそらくは状況に応じて姫咲はまた双槍へと戻すこともできる――


 ――そんな僕たちの予想を嘲笑うかのように、姫咲は最高にイイ笑顔を浮かべ姫先輩に向かって告げる。




「言っておくけど、?」


「! ……まさか……!?」


「見せてあげるね、お姉。

 サキの新しい力――裏颶風院流、颶風院流、そして王帝院おーてーいん流を合わせたサキの力を!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る