40本目「双槍! 嵐舞う姉妹ランパ!!(前編)」
姫先輩へとヤリマン狩りを仕向けていた元凶――それが
その正体は姫先輩の実の妹……だったが、王帝院家へと養子に出た子だった。
年齢は姫先輩の一個下、僕と同い年。現在絶賛浪人中……。
彼女が姫先輩を狙う理由は、とにかく大怪我をさせて学校を休学させる。
そして、翌年に自分もヤリ学に入学して少しでも長く同じ学校に通いたい……というものだ。
『お姉ちゃんと一緒の学校に行きたい』というだけなら微笑ましいものかもしれないけど、そのために『お姉ちゃんに大怪我をさせよう』という発想には普通ならないだろう。
あまりに『異常』だ。発想そのものもそうだけど、姉に対する愛情もまた『異常』であると言える。
で、その姫咲はというと、『裏颶風院流』と養子先の『王帝院流』の両方を修めたハイブリッドと言えるだろう。
特異なのは今までに見たことのない『二槍流』ということだ。
右手に普通の長さのヤリ、左手にはやや短めのヤリを持っている。
……左手の方のヤリも、短いとは言ってもヤリはヤリだ。多分、木刀くらいの重さはあるだろう――いわんや右手のヤリをやだ。
僕ならすぐに腕が疲れてまともに振れなくなってしまうだろうけど、姫咲はニタニタとした笑みを浮かべたまま平気で持っている。それだけ鍛えているということなのだと思う。
……んで、その二本のヤリを使うことからついた異名が『ふたなりの姫咲』、と――
「ば~~~~~~っかじゃねえの!?」
ああ――この感覚、久しぶりだなー……。
台無しだよ、色々と!!
「ど、どうしたんですか
「出すわ! めっちゃデカい声出したくもなるわ!!」
シリアスで色々と狂気な雰囲気が全部台無しだわ!
今までで一番酷い話だわ!!
つーか、他の人は疑問に思わないのか? いや、『ふたなり』ってそんな一般用語ではなかったか……?
「落ち着け、貞雄。番山が驚いているだろう」
「僕は落ち着いてますが?」
むしろ周囲の人全てが
……いやそもそも忘れかけてたけど、ヤリ界隈はこんな感じだったわ。
「『ふたなり』とは、元は『
『
尤もらしい
最近こっち方面に勘違いさせるヤリ用語の出番がなかったから完全に油断していたよ……。
「ちなみに、裏颶風院流とは双槍の技を伝えるものだ。姫も修めてはいるがな」
姫先輩もふたなりってことかー……。
…………あり……? いや、なし寄りのあり、かな……?
僕は男の娘はイケるが、ふたなりはちょっとなー……趣味じゃないんだよなー……。
――って、そんな場合じゃなかった。
姫先輩と姫咲が互いにヤリを構え対峙する。
……どうでもいいけど、僕への解説を待ってくれていたのかな……?
諸々の戯言はともかく、二人の
――両者とも、おそらくは『最強』に限りなく近い実力者……しかも、姫咲の方に至ってはその目的からして
『普通の試合で勝つ』とは異なる次元で気合が入っているのは間違いない。
対する姫先輩はというと……果たして姫咲ほど本気で叩き潰すつもりでいるのか、というのは疑問だ。
……話を聞く限り、手加減をして楽に勝てる相手ではない。
姫先輩も『本気』でヤらなければ、いや本気でやっても勝てるかわからない相手なのだと僕には思える。
――静かな対峙は僅かな時間で終わった。
何の前触れもなく、二人が同時に弾かれたように動く!
「……は、早すぎる……!?」
互いにヤリを振るっているのはわかる。
だけど、二人の攻防は全く見切れていない。
全くの互角、のように今のところは見えるが……。
「チビ姫め……腕は衰えていないようだな。
いや、それどころか以前よりもまして強くなっている」
本多先輩の表情に余り余裕はなさそうだ。
拮抗しているだけではダメ、上回っていなければ勝てない――僕は改めて二人のランパに目を向け、よく観る。
「…………なるほど……
見ていくうちに段々と理解できてきた。
――
両手にヤリを持っているということは、単純に『手』が二倍になる――という話ではない。
長槍で攻撃、短槍で防御。
長槍で防御、短槍で攻撃。
あるいは、双槍が共に攻撃、または防御。
そういう風に状況次第でヤリの役割を
上に挙げた4パターンの組み合わせを適宜切り替えていけるというのは、一本のヤリよりもより器用に立ち回ることができ、『手数』が倍増することを意味している。
対する姫先輩は当然一本のヤリしか持っておらず、攻撃も防御も同時に行うことができない。
その分だけ姫咲よりも手数に劣ってしまう。
これが姫咲が互角以上に立ち回れていることの理由の
もう一つ、姫咲には理由がある。
「……ヤリが
姫咲の持つ長槍の方……こっちの長さも普通のヤリよりも短くなっている。
その理由は幾つか推測できるが、ヤリの優位の一つである『
それが故に、
かつて話した通り、ヤリの利点は長さ、欠点もまた長さである。
そのため、柄で叩くという使い方はあるものの、基本的にはヤリは接近されると十全に強みを発揮することができなくなる。
つまり、
姫先輩は当然『裏颶風院流』についても知っているのだし、姫咲の長槍が少し短めになっていることには気付いていただろう――もしかしたら長槍を少し短くする、というのが姫咲のアイデアなのかもしれないが……。
仮にそうだとしたら、狂ってるように見えて姫咲は『策士』だと言えよう。
気付けば大したことのない話なんだけど、単純な『トリック』だ。
明らかに他のヤリよりも短いヤリを持っていることで、無意識のうちに長槍の方の長さを『普通のヤリと同じ』と思い込まされてしまっていた。
……多分、長槍は穂先1つか1つ半分くらいしか短くなっていない。
けど、普通のヤリに慣れ親しんだ人間からすれば――そして『普通のヤリと同じ長さだと思い込んだ人間』にとっては、その差は十分な隙を突けるだけのものだ。
このヤリの実際の短さによる優位が通じるのはそう長い時間ではないだろう。
けれども姫咲にとっては十分な時間なのだ。
姫先輩の隙を突けるだけの、十分な時間が確保できればそれでいいのだから。
「……っ!?」
姫先輩が苦しそうに表情を変える。
……彼女のそんな顔を見るのは初めてだ……! それだけ姫咲が強敵だということを意味しているのだけど……。
懐に潜り込もうとした姫咲へと、ヤリを頭上から振り下ろし叩きつけようとした――のを、姫咲が両手のヤリを交差させて受け止める。
そして、抑えたヤリを自身のヤリで挟みこむようにして動きを封じる。
「もらったよ、お姉」
挟み込んだヤリを腕力に物を言わせて捩じり、姫先輩の手から奪い取ろうとする。
ヤリを失ってしまったらどうにもならなくなる!
それを恐れヤリを強く握り込んで引き戻そうとする――のが、姫咲の狙い!!
「裏颶風院流――
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