第5部「終極! 最終決戦!!」

38本目「狂気! ヤリマン狩りリーダー!!(前編)」

「へへ……うへへへぇ……」




 ……パンク女――王帝院おーてーいん姫咲きさきはニタニタと不気味な笑みを浮かべている。

 彼女の視線は、ただひたすらに姫先輩にだけ向けられていて、僕らは言葉通りの眼中にないって感じだ。

 ……ぶっちゃけ、ちょっとキモい。仮に姫咲が男だったとしたら、多分何もしてなくても通報されるくらいにキモい。男女平等は一体どこに……?




「はぁ……姫咲、一体どういうつもりですか?」




 そんな視線を受けても嫌悪感は出さず、しかし呆れたようにため息をつく姫先輩。

 どういうつもり――うん、まぁその一言で片が付くか、諸々のことに。

 今ここに現れたことも含め、ヤリマン狩りをけしかけてきた理由……それら全て。

 姫咲はかくん、と首を傾げ……だが視線は姫先輩から一切逸らさずに笑いながら答える。




「お、お姉が悪いんだからね……」


「…………はい?」


「お姉が、のが悪いんだから……」




 ……??

 『サキ』――は彼女自身のことだろう。

 それはわかるんだけど、他の意味がわからない……。

 僕だけではなく、この場にいる人たち――ヤリマン狩りたちですら理解が及んでいないようで、ちょっとざわざわしている。




「何を言ってるのですか?」




 ……姫先輩もみたいだ。

 姫咲は周囲の戸惑いなど関係なく、姫先輩から視線を逸らさないまま続ける。




「サキが…………待っててくれないのが悪いんだもん……」




 …………んん?




「待つ?」




 姫先輩も戸惑っている。




「……本多先輩、あの姫咲って子、何歳なんですか?」


「おう、チビ姫は姫の一個下だ」




 姫先輩は浪人せずにストレートにヤリ学に入っているので、その一個下ってことは僕と同い年――年子ということになる。

 なら彼女もヤリ学に入れば3年は同じ学校に通えることになるんだけど……。




「なんで……なんでお姉はサキと一緒にいてくれないの……?」


「そう言われても……」


「1年浪人してくれてもいいじゃん!」




 いいわけないじゃん……折角合格したのに、わざわざ1年浪人するなんて意味ないし……。

 例えば本命がヤリ学で、滑り止めにしか受からなかったからもう1年頑張るとかはありえるかもしれないけど。

 姫先輩も呆れたようにため息を吐く。




「あなたを待つためだけに浪人するなんて、お父様もお母様も認めませんよ……わたくしもそのようなつもりはありませんし。

 それに、サキは結局ではありませんか」


「……っ」




 周りの空気が凍り付いたのは、きっと僕の気のせいではあるまい。

 正しく『あっ……(察し)』だ。




「……本多先輩、姫咲って……」


「ああ、受験に失敗して、今は浪人生だ」




 ですよねー。そうなるよねー。

 これで姫咲が来年合格したとして、その時姫先輩は3年生……2年間しか一緒の学校に通えないということになる。

 しかも大学だしね……授業のコマ割りなんて高校までと全然違うから、そもそも同じ日・同じ時間に学校にいないことだってザラにあるだろう。学年が違うなら猶更だ。

 それに、大学だと3年の後半からは院への進学だったり就職活動だったりで忙しくもなる。たとえ同じサークルにいたとしてもほぼ引退状態になるだろう。

 つまりは――姫咲が来年合格したとしても、望み通り姫先輩と一緒にいられる期間は短いというわけだ。

 ……まぁそれ以前に、姫先輩の方は別に姫咲と一緒の学校に通いたいという気はあまりなさそうだけど




「…………それで、サキ。結局どういうつもりで、こんな皆様にご迷惑をおかけしたのですか?」




 話が逸れかけたのを姫先輩が戻す。

 そして、いつの間にか呼び名が『サキ』に変わっている――というか、元々はそう呼んでいたのだろう。

 ここまでの話を纏めると、姫咲は姫先輩の一個下の妹、そして現在浪人生である。後、いつ頃かは不明だけど元の颶風院ぐふういんから王帝院おーてーいんへと養子に出されている。

 で、ほぼ間違いなく『超』がつくほどのシスコンだ……。

 ……でも、ここまでの情報を総合しても、なぜ姫先輩にヤリマン狩りをけしかけてきたのかは全くわからない。

 姉と一緒の大学に少しでも長く通いたい、という想いがあるとして――自分は浪人、姉は進級してしまい期間が短くなってしまったことの腹いせ、とかだろうか? 逆恨みもいいところだと思うけど。




「……サキね、いいこと思いついたんだぁ」




 にたぁっと――誇張抜きで『にたぁ』という擬音が相応しい、粘着質な笑みを浮かべる姫咲。

 その目は一点の曇りもない、底なし沼のような濁り切った光を湛えていた。

 ……曇りすぎてもはや真っ黒ってことだ。




「サキがね、来年入学する時はお姉は3年生でしょ? それじゃ全然一緒にいられないよね?」




 ……果たして合格できるのかなぁ……? まずそこの心配からだと思うけど。




「だからね、お姉に休学してもらえればいいって思ったの!」


「ですから、休学なんてしませんってば――」


?」




 ――は?




「お姉に大怪我してもらって、休学してくれればいいやって思ったの!

 えへへ、そうしたら来年入学した時にお姉は2年生だし、1年長くいれるよね?

 あ、1年じゃなくて2年休学するくらいの怪我なら……卒業するまでずっと一緒にいられるよね♥ サキって頭いい♥

 そうしよ? ね? お姉♥」




 ……周囲のざわざわがどよどよに変わり、そして完全に凍り付いた。

 『あっ(察し)』ではなく、姫咲の言っている言葉を理解し、その余りのに背筋が凍ったのだ。

 ヤリマン狩りをけしかけていた理由――それは。




「……つまり、サキは――、そのためだけにヤリマン狩りを仕向けていたということですか……?」


「そうだよ♥

 なのに、皆して全然ダメなんだもん! だから、サキが自分で動くしかないかなって♥」




 な、なにを考えてるんだこいつは……!?

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