37本目「激震! ヤリサーの夏休み!!」

 日々は過ぎてゆく――




 前期試験も終わり夏休みに入った後になって、真由美ちゃん元ヤマンバが言っていた『精鋭による大攻勢』がついに始まった。

 このタイミングで? とちょっと疑問に思うことはあったが……とにかく、姫先輩へと次々とヤリマン狩りの精鋭たちが襲い掛かってくるようになった。

 …………んだけど――







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







「アタイの名は長坂張飛ハルヒ!!

 颶風院ぐふういん姫燐きりん、アタイと勝負しな!!」




 いつぞやの2人組のヤリマン狩りブラザーズ同様、白昼堂々大学へと攻め込んで来た大女……。

 穂先がうねうねとした蛇のようなヤリ――『蛇矛だぼう』の使い手たるヤリマン狩りがいた。







 ――『精鋭』と言うだけあって姫先輩とそれなりに勝負はできていたけど、最終的には姫先輩によって倒された……。







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







「ぶへへへへ……イイ声で鳴いてくれよォ……お嬢ちゃん!!」




 穂先がヤリのような尖った刃ではなく、丸い球体がついたヤリというより『棒』を扱うおっさん。

 ……アル中なのか何なのか、ブルブルとヤリを持つ手が震えていた。

 が、これこそが彼の得意……いや特異な技。

 彼はヤリでの打突に合わせて細かい振動を放ち、相手の防御の上からでもダメージを与えてくるという技の使い手だった。

 その名は殿デンマサツグ――怪しげな見た目に反して、なかなかのテクニシャンだった。







 ――もっとも、ご自慢の振動ヤリバイブも触らなければ何の意味もない。

 ヤリに触れることなく姫先輩の突きによってノックダウンされるのだった。

 ……ヤリマン狩りやるより、まずはアル中の治療に専念してもらいたいもんだ。アル中なのかは知らんけど。







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







「Hey! ヤリマンガール! このスピードに着いて来れるかい!?」




 キルヤ君たちと、受験勉強本格化の前の最後の思い出作りということで加わった真由美ちゃん。

 それと僕と姫先輩とで海へと遊びに来ていた時だった。

 大波に乗って突如サーファーが襲い掛かって来たのだ。

 その手に持つは三叉鉾トライデント――まさかののヤリマン狩りだった。

 しかも、一人だけではない。他にも仲間を引き連れての襲撃だ。




 彼は南米からの留学生、ホセ・イドゥン――『海神』の異名を持つ精鋭であった。







 ――慣れない水中戦に僕らはかなり苦戦させられた。ホセの取り巻きを倒すので精一杯だったが……。

 流石と言うべきか、姫先輩は相手の得意なフィールドだというのに苦戦らしい苦戦はしていなかった。

 戦いながら水の中での動き方をホセから『盗み』逆に相手を追い詰め、結果的に下したのである。

 ……これに懲りて、折角南米から留学しているんだから、ヤリマン狩りなんかより勉学に励んでもらいたいもんだ。







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







「…………」




 グオングオン、と凄まじい爆音を鳴り響かせながら『そいつ』は襲い掛かって来た。

 爆音の正体は『バイク』だ。

 フルフェイスのヘルメットに、全身を隈なく覆うライダースーツを身に纏った『そいつ』は、暴走族ばりに騒がしい真紅の大型バイクに跨っていた。

 ――それだけではない。

 『そいつ』の手には先端に複数の刃が複雑に組み合わさったヤリ――『方天画戟』が握られている。




「…………参る……!」




 片手に方天画戟ヤリ、もう片手で真紅のバイクを駆る人バイク一体のヤリマン狩り――『ブラッドライダー』カルマ……片手で方天画戟を振り回すパワーに加え、大型バイクの機動力と馬力を組み合わせた強敵だ。







 ――……ただ、精鋭のヤリマン狩りと言えど、道路交通法の前には無力なのであった……。







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







 そして――僕たちの前に最後にして最強のヤリマン狩りが現れた。




「俺が望むのは、貴様との決着……ただそれだけだ!」




 そう姫先輩に向けて叫ぶ男。

 ……ぶっちゃけ、見覚えがない。

 けど声を聴いて思い出した。

 こいつ――僕のランク試験の時、最後に現れたハルバード男だ!

 全身鎧フルプレートアーマーを脱ぎ去り、以前の時みたいな下衆な雰囲気は微塵もなく……。




「――ふふふ、いいでしょう。お相手いたします」




 ヤリマンとして、いや、武人として一皮むけたハルバード男――その名は春鳥はるとり――と、彼に従う複数のヤリマン狩りと、僕たちの戦いは熾烈を極めた。

 『キング』『クイーン』『ジャック』そして『ジョーカー』……4人の配下を、僕と真由美ちゃん、それとたまたま居合わせたキリカちゃんとキルヤ君が抑えている間に、姫先輩と春鳥との戦いが繰り広げられた。







 今までで最大の戦いを征したのは、姫先輩率いる僕たち側となった。

 どんな相手でも苦戦することなくほぼ一撃で倒してきた姫先輩であっても、春鳥にはかなり苦戦させられたようだ。

 僕たちの戦いに決着がついた後も、かなり長い間二人の戦いは終わらなかった。

 それでも最後には姫先輩の奥義が春鳥を穿ち、戦いは終わった。




「――感謝するぞ……今までで最高の勝負ができたことを……っ!!」




 そう言い残し、春鳥は倒れた。

 ……本当に強敵だった。

 彼の仲間のキングたちも、一角のヤリマンだったと思う。僕はキングと戦ったのだけど、勝てたのは本当に偶然だっただろう――でも、この勝利が『自信』につながったのは間違いない。

 もし姫先輩一人の時にやつらが襲い掛かってきたら……いかに数をものともしない姫先輩といえども危なかった、そう思えるくらいに実力のある相手だっただろう。

 もっとも、もし姫先輩一人だったとしたら、春鳥は一対一での戦いを望んだかもしれない。そう思えるくらいには、ヤツからは以前のような厭な気配が消え去っていた。

 キングたちも『春鳥の邪魔はさせない』と言って僕らに襲い掛かって来たし……本当に武人として一皮むけてたんだなぁと思うのだった。







 ……まぁ、ぶっちゃけヤツがそこまで姫先輩に拘る理由はさっぱりわかんなかったけどね。ランク試験の時は『おかめ』のお面を被ってて正体わからなかったはずだし。







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







 そんな感じで僕らの夏は過ぎていった。

 なんだかヤリ尽くしの夏休みだったなー……ヤリサーなんだから当然といえば当然なんだけど。

 襲い掛かって来たヤリマン狩りと戦ったり、ヤリサーの面々で飲み会やったり遊びに行ったり、キルヤ君たちのチビッ子ヤリマン教室の夏合宿に参加したり……。

 大学最初の夏休みは慌ただしく、それでも楽しく過ごせたと思う。




 それにしても大学の夏休みって最高だなー。

 とにかく長い。夏休みの宿題とかもないし、8~9月がほぼほぼ休みって素晴らしい!

 ……まぁこれであんまりダラダラしすぎると、大学卒業した後とか大変そうだけどね……。後期が始まった後にも休みボケが抜けなくて、そのままドロップアウトとかにならないように気を付けないと――折角ヤリ学に入れたのに留年とか嫌だしね。




 で、8月の後半――我がヤリ学のオープンキャンパスが開かれた。

 僕たちがやることは特にないけど、別に在校生が立ち入り禁止というわけでもない。

 皆して暇しているし、ということで集まって適当に過ごすこととなった。

 それと、うちを受験しようと考えている真由美ちゃんも来るということで、その案内もついでにしようということで。

 もし合格したらヤリサーに入りたいと言っていたし、サークルメンバーでおもてなしというわけだ。

 ……メンバーは、僕、姫先輩、本多先輩の3人だけだけど。




 流石、難関校でありつつ大人気の私立大学のオープンキャンパス。

 全国各地から見学に来ているのであろうフレッシュな高校生たちでごった返している。

 ……そういや、僕自身はオープンキャンパスには行かなかったなー。去年の今頃は猛勉強してたっけ……。

 真由美ちゃんと合流、人混みを避けつつ僕らは彼女に大学を案内していった。

 ちなみに、いつもどこからともなく現れて合流するキルヤ君たちだけど、流石に今回は不参加だ。本人たちはめっちゃごねてたけどね……別に小学生が見て面白いものなんて何もないし、彼らも夏休みの宿題が残っているということで泣く泣く諦めていた。というか諦めさせた。




 そうそう、ここまでで話した通り、真由美ちゃんは既に姫先輩にも面通し済みだ。当時の謝罪も済ませている――姫先輩は全然気にしていない風だったし、未来の後輩を既に可愛がっている。

 本多先輩とはあの時以来だったけど、こちらも……まぁそもそも心配はしていなかったけどあっさりと受け入れていた。本多先輩の器は大きいなー。あるいは何も考えてないだけの可能性もあるけど。







 ――真由美ちゃんと共に大学のあちこちを歩き、我らがヤリサーの部室で少し休憩しようか……と移動した時だった。

 流石にオープンキャンパスと言えど、構内の外れにある部室棟にはあまり人はいない。

 人混みに疲れたというのもあって、人気の少ない方へと進んでいったのが『失敗』だったのか――あるいは、

 僕たちを待ち構えていたのであろう複数の人物がどこからともなく現れ、進路を塞ぐ。

 ……そいつらに僕たちは見覚えがあった。




「お、お前らは……!?」




 ヤリマン狩りブラザーズ、長坂張飛、カルマ、ホセ、春鳥とキングたち……その他、僕たちと戦ったヤリマン狩りたちが勢ぞろいしていたのだ。

 ……尚、暫定アル中の殿だけは不在だった。治療に専念してもらいたいものだからそれは別にいいんだけど。




「――どうやら、待ち伏せをされていたようですわね」




 余りにも圧倒的多数の相手に、姫先輩もため息を吐く。

 いかに姫先輩と言えども、これだけの数をいっぺんに相手にするのは不可能だ。

 ……しかも、いつものこととは言え、本多先輩もヤリを持っておらず、オープンキャンパスだからと油断していた僕も真由美ちゃんも無手である。

 くそっ、こんな時に備えてちょっと無理してでもゴムを買っておくべきだった……!




「くくく……いつぞやの御礼参り、と言いたいところだが――」


「ききき……俺らはただの『立会人』だぁ」


「アタイらは一切手を出さねーから、安心しなっ!」




 ……言われてみると、彼らは全員各々のヤリを持っていない。ゴムを隠し持っている可能性はまだ残っているけど、わざわざ得意武器を持たずにゴムだけで不意打ちしてくるとも思えない。

 本当に『いるだけ』――そして、僕らを、いや姫先輩を逃がさないために囲っているだけのように見えた。




「ま、まさか……『あのお方』が……!?」


「真由美ちゃん? 『あのお方』って……?」




 真っ青になって震えている真由美ちゃんには心当たりがあるようだ。




「私たち――いえ、ヤリマン狩りのリーダーが、ここに……!?」




 ! そういうことか……!?

 ヤリマン狩りの精鋭たちの襲撃をことごとく跳ね返してきた姫先輩に、ついにリーダー自らが出張って来たということか。

 僕たちの考えを裏付けるように、正面を塞いでいたヤリマン狩りたちが左右に割れ道を開ける。

 その道を、一人の人物が進んでくる……。







 ド派手なパンクファッションに身を包んだ少女――服装やメイクのせいで大分印象が異なるが、顔立ちは姫先輩によく似ている。

 やや猫背気味ではっきりとはわからないけど、やはり姫先輩同様に小柄な女性だ。




「……やはり貴女ですか、姫咲きさき


「うふ、うふふふふ……来ちゃった、お姉♥」




 彼女こそがヤリマン狩りをけしかけてきていた黒幕――僕たちの最後の敵……王帝院おーてーいん姫咲なのだ……!!












 伝説のヤリサー、その姫である颶風院姫燐と、ヤリマン狩りリーダーたる王帝院姫咲の最後の戦いは、こうしていきなり始まったのであった……!

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