35本目「全く! 小学生は最高だぜ!!(前編)」
「貞雄兄ちゃん♥ 遊びにきたよ~♥」
「(ボソッ)サダオ、暑い……のど乾いた……」
我が家に嵐がやってきてしまった!!
「あーもー! はいはい、まずは手洗いとうがいね!」
僕の暮らす一人暮らしの部屋にやってきたのは、キルヤ君とキリカちゃんの二人だ。
季節はもう夏。
夏休みはもうちょっと先なんだけど、もう気温は真夏そのものだ。
彼らと知り合ったのが5月の連休明けだから……なんだかんだでもう2ヶ月くらいの付き合いか。何気にサークルメンバーよりちょっと短い程度なんだよね。
あの激動のランク試験以降、実はちょくちょくと彼らとは会っていたりする。
……会長にも目をつけられているのか何なのか、時々一緒に会うんだよなぁ……軽く稽古してもらえるのはいい経験っちゃそうなんだけど。
で、キルヤ君たちが僕の部屋に行きたいとダダをこねて、ついに僕が折れたのだ。
まー、別に何が何でも嫌っていう理由はないんだけどね。ほら、こんなご時世だし……。
ちなみに彼らが僕の部屋にやってくるのは、会長や両親も許可済みだ。いざとなったら証言してもらえるだろう――なんで僕がこんな心配しなきゃならんのだ……。
「冷たい麦茶しかないよ」
対お子様向けメニューなんて当然家にはない。
コーヒーとかはまだ早いんだっけ? 僕も飲み始めたの高校からだったっけか。
二人は一気に飲み干すとおかわりを要求してくる。
……まぁいいけど……。
「意外に広い部屋だねー」
「(ボソッ)サダオの癖に……」
「あー……うん。まぁね……」
一体どんな部屋を想像していたのやら。
キルヤ君が言う通り、実は僕の部屋は結構広い。
しかも、防音対策もされていてよっぽどうるさく騒がない限りは大丈夫な部屋である。
……なぜそんな部屋を選んだかって?
…………まぁ、ほら? 部屋で致す時とか? 音とか気になるじゃん?
「あ、お風呂とトイレが別だ!」
「(ボソッ)便所風呂じゃない……!」
「そこは当然拘るよ」
便所風呂って呼び方はどうかと思うけど……アレはアレで利点はあるんだろうけどね。
やっぱり日本人としてはお風呂にはゆっくりと浸かりたいしねー。
諸々の条件に当てはまる物件を探すのは苦労したし、その分家賃は結構お高くなってしまった。
仕送りしてくれている両親には足を向けて寝られない。
……折角いい大学に入れたんだし、卒業して就職してからしっかりと恩返ししていかなきゃなぁ。
最高の恩返しは、結婚して孫を見せること? …………まぁそれはそれとしてだ。
「ねぇねぇ、ゲーム持ってきてるからやろうよー」
「うん、いいよ」
キルヤ君が鞄からゲーム機を取り出してくる。
子供のマストアイテムだもんね。僕も持ってたやつだ。
ちなみに、家にはテレビがないのでパソコンのディスプレイに繋いで遊ぶことが出来る。HDMI接続って素敵だな、テレビ要らなくなるし。
ちょっと画面は小さくなるかもだけど、遊ぶ分には問題ないだろう。
……色々と勢いで押し切られた感はあるけど、まぁ彼らと遊ぶのもいい息抜きになるだろう。
というのも、ここ最近結構忙しかったりそうでもなかったりと微妙な感じだったのだ。
夏休み間近ということで前期の試験があったり、ヤリマン狩りの襲撃が散発的ではあるものの何度かあったりした。
ヤマンバの言う精鋭による一大攻勢の前準備なのか、やってくるのは大したことのない相手ばかりだったけど……ここからが本番なのだろう。
ちょっと色々と気を張ってたこともあり、彼らと遊ぶのは息抜きにもなる――そう思ったのが、今日遊ぶことを決めた後押しにもなったのは事実だ。
ゲーム機とディスプレイを接続。
ちゃんと画面が映ることを確認。
さて、今は試験とかヤリマン狩りとか忘れて遊ぶかー。
……ま、小学生様への接待をすることになるから、気を遣うことに変わりないんだけどねー……。
……なんて考えは、速攻で吹き飛んだ。
「くっ!? キリカちゃん邪魔!」
「(ボソッ)邪魔してるんだし」
「ナイス、キリちゃん!」
やっているのは某レースゲームだ。
この二人……強い!?
流石現役小学生……手慣れていやがる!
僕の進路上に、まるで後ろに目があるかのように巧みな操作でキリカちゃんが立ち塞がり、お助けアイテムとかを取れないように意地悪な立ち回りをしてくる……。
そしてキリカちゃんが僕を抑えている間にキルヤ君が先へと進んでいってしまう。
二人で協力して僕を着実に落とす作戦か……!
「だが――甘いッ!」
「(ボソッ)ッ!?」
僕とて少し前まではこのゲームをやり込んでいたのだ。
全てのコースは熟知している。
キリカちゃんを強引に抜こうとして弾かれた一瞬、僕のマシンが加速パネル (一瞬だけすごい早さになるやつ)を踏みコース外へ――行くと見せかけてショートカットしてキリカちゃんを抜き、更に前にいたキルヤ君との距離を詰める。
「(ボソッ)サダオ……このゲーム、やり込んでいるな……!?」
「
接待なんてとんでもない。
本気でかからなければ負ける――この子たち相手に手加減など一切不要だと僕は悟った。
その後、ゲーム内での攻防あり、隙を突いて脇腹をくすぐったりなどの場外戦術ありのバトルは続き――
「(ボソッ)うぃなー」
「ぐぅっ……最後に貞雄兄ちゃんが妨害しなきゃ勝てたのにぃ~!」
「キルヤ君が先に妨害するのが悪い!」
勝者はキリカちゃんとなったのだった。
……まぁね、同性のキルヤ君はともかく異性のキリカちゃんには場外戦術を仕掛けるのは(社会的な)死に一直線だからね……。
「(ボソッ)……ちょっとお腹すいた」
「えー? あんまりお菓子とか置いてないからなー……コンビニにでも行く?」
「うん♥ イクイク~♥」
食べ盛りのお子様ズが腹減ったとうるさいので、近所のコンビニにでもおやつと飲み物でも買いに行こうということになった。
時間的にはまだ早いし……あんまり食べさせ過ぎなければいいかな? 家に帰った後にご飯が食べられなくなっても困るだろうしね。
んで、僕たちは近所のコンビニに向かっていくこととなったんだけど……。
「……なんで二人して僕にくっつくんだよー……暑いじゃん」
僕の右手にキルヤ君、左手にキリカちゃんがべったりと纏わりついてきている。
……これが近い歳の女の子なら最高なんだけどなぁ……悲しいことに小学生じゃなぁ……しかも片方は男の娘だし。
「えぇ~♥ いいじゃん別にぃ~♥」
「(ボソッ)……何となく。そう、深い意味はない……」
懐いてくれているんだろうことはわかるし嬉しいんだけど、なんでここまで懐かれてるのかは不思議に思うんだよなぁ……。
そんなに懐かれるようなことしたっけ? ランク試験では確かになんだかんだで一緒に行動している時間は長かったけど。
まー、ちょっと歩きにくいけど……これくらいはいっか。
そんな感じで僕たちは近所のコンビニへと向かっていたんだけど……。
「…………さ、貞雄氏……!?」
「あ、コッティ」
道中でばったりと我が友・
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