34本目「警告! 来たる嵐の予感!!(後編)」

 改心したらしいヤマンバと喫茶店でお茶している僕……。




「えーっと、それでそろそろ本題に入ろうか?」


「あ、はい。そうですね」




 今日の本題というか彼女が僕を呼び出したのは『耳に入れたい話がある』ということだった。

 元ヤリマン狩りのヤマンバが相手ということは――まぁおそらく僕が『期待』する話なんじゃないかなと思う。

 ……性的な意味でなしに。そっちはそっちで歓迎だけど……いや同意があっても僕が犯罪者になっちゃうか……。




「私からお伝えしたいのは、ヤリマン狩りの件についてです」




 やっぱりそうなるよねー。

 情報をリークしてくれるというのはそれはそれでありがたいけど。




「私が『チーム』を抜けたことはまだ知られていないとは思いますが、時間の問題かと思われます」


「うん」




 彼女も危ない橋を渡っているということは理解している。

 ……心を入れ替えたのが本当であれば、彼女自身にも危険なことはしてほしくはないけど……。




「……おそらく、近々ヤリマン狩りの精鋭たちが颶風院先輩を狙って動き出します」




 精鋭かー……。

 言っちゃなんだけど、姫先輩が負ける姿は想像もできないけど……まぁ油断は禁物か。

 それに一斉に襲い掛かって来た場合、万が一ということもありえる。

 流石にヤリマン狩りの『精鋭』がトウ横キッズたち並の実力ってことはないだろうし、それなりの実力者が数で押して来たら危ないかもしれない。




「わかった。ありがとう、先輩にも注意するように伝えておくよ」




 こちらから攻めていくことができないから、どうしても防衛に回らざるを得ないのがもどかしいところだ……。

 ヤリマン狩りのリーダーが姫先輩の元妹だとして、直接話したりはできないものか……その辺りも先輩たちには聞いてみたいな。迂闊に足を踏み込んでいい話なのかは微妙ではあるけど。




「君はこれからどうするの?」




 思ったよりは簡単に話が終わってしまったなぁ……このくらいなら手紙でも良かったんじゃないかなって思ったけど、『不審な手紙だ!』でスルーしてしまった可能性もゼロではないか。

 コーヒーもまだ残ってるし、ちょっと気になることを雑談がてら聞いてみる。




「えっと、私は今年受験なのでしばらくは勉強に集中しようかと」


「あ、そうなんだ。うん、それがいいと思うよ」


「はい。

 ……ヤリ学はちょっと厳しいんですけど……」


「うち狙い?」




 自分で言うのも何だけど、なかなかのチャレンジャーだ。

 もちろんだからと言って無謀な挑戦とも言わないけど。




「推薦枠は――その、前回の件で厳しくなってしまいましたので……」


「あー……」




 彼女が襲って来た時のことか。

 あの後、おまわりさんに回収してもらっちゃったからなー……さぞや内申点に響いたことだろう。

 その意味では可哀想なことをしたとも思うけど、彼女の場合は自業自得とも言えるからなぁ……。




「あの後、大丈夫だったの?」




 こってりお説教されたのは間違いないだろうなー。




「ええ……流石に怒られました。

 …………両親にも……」




 だろうね。

 でもまぁ幸い? 捕まったりとかはしなかったみたいだ。

 推薦枠が厳しくなったということは、学校にも連絡いっちゃったかー……。

 ご両親に叱られるのは当然のことだから仕方ない。




「『我が家の秘伝を使って負けるとは情けない!』って……」




 そっちなのか……やっぱりヤリ界隈には微妙にズレてる人が多いなー……。




「それで、受験勉強が終わったらまた一から修行し直しします!

 そしてヤリ学に入れたら、私もヤリサー入りたいです!」


「お、それじゃ僕の後輩になるかもしれないね」




 彼女の目的は姫先輩だろうけどね。

 ヤリサーに本腰入れようとしている僕にとっては、とにかく後輩が入ってくれるというのは大歓迎だ。

 ……ま、全てはヤリ学に入ってからだけど。




「頑張らないと……!」




 ふんす、と気合を入れる彼女は――うーん……やっぱりヤマンバと印象が違いすぎて頭がバグるなぁ……。




「そういえば、君ってエンコウが得意技だったよね。

 公式のランパとかってどうなるの?」




 ふとした疑問を口にしてみる。

 遠距離攻撃が得意なのは凄いけど――ランク試験で皆苦戦していたのを見ているし――この前みたいな状況でもなければ、真正面からのランパには向いていないんじゃないかなって思う。

 ヤリを投げて一発KOできたらいいけどそうでなければ負け確定になっちゃうんじゃないだろうか。




「あー、確かにそうなんですよね……公式戦だとほとんど勝てなくて……。

 ……その、それでやさぐれちゃって、ヤリマン狩りに入っちゃったというか……」




 Oh……そういう流れだったか。

 あれだな、中学までは成績良かったのに、高校入ったら周りがもっと成績良くてドロップアウトしちゃうみたいな。

 んで、そのままヤンキーデビュー……僕の高校にもいたなー、そんな感じのやつ。




「なので、一から修行しなおして『エンコウの番山』の名は返上します!」




 ……まぁエンコウの言葉自体が結構アレだしねー……しかも女子高生だし。

 代々伝わって来た技術はいいのか? とかツッコミたいところはあるけどね……。




「新たな異名もも既に考えてあるんですよ!」


「…………一応、聞いておいていい?」




 この娘、形から入る系だな?

 そもそも異名って本人から名乗るもんじゃなくて、自然と周囲から呼ばれるようになるものなんじゃないかなー?




「もちろんです!

 私って、ノーマルタイプのヤリじゃなくてハープーンを使うじゃないですか? これはそのまま使おうと思っているんで、服をガラっと変えて――」




 …………。




「『愛され系もりガールの真由美』でいこうと思ってます!」




 やかましいわ。

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