第4部「平穏! 嵐の前の静けさ!!」

33本目「警告! 来たる嵐の予感!!(前編)」

 童妙寺どうみょうじ貞雄様




 前略




 お耳に入れたい情報がございます。

 つきましては、n月m日 17:30に○○駅前にてお待ちしております。




 かしこ







 …………わっかんねーよ、これじゃ!

 僕の一人暮らしの部屋のポストに放り込まれていた手紙を握りつぶし、ゴミ箱へと捨てようとする――が何とか堪える。

 消印なし……ってことは直接ポストに入れたってことだよねー……。

 まー、どっちにしても僕の家がバレてるってことには変わりないんだけど……。




「誰からだ、一体……?」




 僕宛ての手紙なのは間違いないが、差出人の名前は書いてない。

 うーん……?

 サークルメンバーなら住所も知ってるだろうけど、こんな訳の分からないことを仕組むとは思えないし……キルヤ君たちも違うかなー? そもそも住所は知らないだろうし……。

 誰かに相談してみるか?

 いや、相談するまでもない話かもしれないし……。

 字の感じからすると女の人からっぽいんだよなー……それだけで判断するのは危険だろうけど。

 さーて、どうしたもんか……。







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







「……結局来ちゃったよ……」




 指定された日時、場所に僕は一人でやってきたのだった。

 ……べ、別に相手が女の子っぽいからってスケベ心でやってきたわけじゃないんだからねっ!?

 …………ここに来る前にシャワー浴びたのも、暑かっただけなんだからねっ!?

 さて、そろそろ時間なんだけど……。




「あ、童妙寺さん。お待たせしました!」


「え……?」




 全国の駅前にほぼほぼ置いてあるであろうよくわからん像の前で待っていたんだけど、後ろから声をかけられた。

 女の子の声だ。

 振り返ってみると――




 ………………誰だ??






 マジで見覚えのない女の子がいた。

 高校のものと思しき制服を着た、至って普通の(多分)女子高生だったが……マジで誰かわからない。

 僕の知り合い……じゃないとは思うんだけど――




「全然待ってないよ!」




 そんなことはスルーだ!

 結構可愛い子だし、これはマジでもしかしたら……?

 ……姫先輩とはまだ深い仲になってないから浮気にはならないはず!!




「そ、それでどこにイこうか!?」


「あちらの方にちょうど良いお店がありますので、そちらへ……人目があるところでは、ちょっと……」




 ひゅーっ!! この娘積極的ぃっ!!

 彼女の案内に従い、僕たちは移動する――







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







 ……で、やってきたのは駅前から少し外れたところにある、古くからありそうな喫茶店だった。

 ですよねー。知ってた。

 奥まったところにあるボックス席で向かい合わせに座る。

 程よい時間帯であるけど、他にお客さんはいない……。




「まずは、先日はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」




 お互いに注文したコーヒーが運ばれて来た後、女子高生は頭を下げて来た。




「本来であれば颶風院先輩にも謝罪すべきなのですが……」


「……??」




 えーっと?

 一体何を謝られているんだろう……?

 直近で被った迷惑と言えば、ランク試験後のトウ横キッズたちくらいだけど……。

 と、ここでどうやら相手の方も僕がよく理解できていないことに気付いたみたいだ。

 ちょっと考えた後、表情を変えて――




「わた……アタシのこと覚えてないとかチョームカつくんですけどー? MK5って感じー?」




 あっ(察し)




「もしかして、あの時のヤマンバ!?」




 恥ずかしそうに顔を赤らめつつこくりと頷く女子高生――というか元・ヤマンバ。

 マジかー……。




「メイクはともかく、肌は?」




 特徴的なヤマンバメイクはいいんだけど、全身の日焼けした肌はどうしたんだろう?

 今の彼女はむしろ色白なくらいだ。




「あ、あれもメイクです……」




 ぜ、全身を頑張って黒塗りしたのか……。

 髪はウィッグか、あるいは黒く染め直したか……。

 ぶっちゃけヤマンバメイクが印象強すぎて、今の顔と全然結び付けられないや。

 あー、でもさっきのコギャル語で喋った時の声は、ヤマンバと同じだったかな。

 ……女は化粧で化けるとは言うけど、アレは何というか……いや、まぁいいか。




「えーっと、とにかく……あの時の人かー……」




 信じられないけど、正直何言われても信じられる気がしないや。

 とりあえず声は一緒っぽいし、その前提で話を進めるしかないかな。




「君さ、ヤリマン狩りは辞めたの?」




 彼女がヤマンバと同一人物として、まだヤリマン狩りであれば僕一人を呼び出したのは――『人質』として姫先輩を狙うという可能性も考えられる。

 だとすると迂闊に誘いに乗ったのは失敗だったかなー、と内心で思っていたけれど、彼女は小さく頷く。




「はい……深く反省しております……」


「そっか。まぁあんなの辞めた方がいいとは思うよ」


「はい……仰る通りです……」




 彼女もヤリを持っている様子はないし、前回みたいに事前にヤリを隠していたとしても店内では上手く動けないだろう。

 甘いかもしれないけど……彼女の言葉は信じてもいいかなと僕は思っている。

 『人質作戦』をやろうとするなら、人目のある駅前集合じゃなくて別の場所を指定するだろうし、そもそも僕の住所がバレているのだから手紙で呼び出すなんて遠回しな方法を取る必要はないだろうしね。




「…………まぁ僕よりも姫先輩に謝った方がいいと思うけど――」


「それはその通りなのですが、私が今颶風院先輩に接触するのはリスクが多くて……」


「ふむ?」


「ヤリマン狩りはまだ颶風院先輩を狙っています。

 そこに私が接触したら……」


「君の裏切り、というか離反がバレちゃうってことか」




 こくりと頷くヤマンバ。

 まーそうなるよねー。

 彼女の離反がどの程度影響を与えるのかはわからないけど、姫先輩に対して情報が洩れているのだけはバレちゃうし。




「そっか。だから僕に接触してきたってわけか」


「はい。ヤリマン狩りの狙いは、あくまで颶風院先輩ですから」




 彼女は闇に紛れて攻撃するのを得意としていた。

 おそらくその技能を活用して、僕の後をつけて住所を特定。手紙を送って接触してきた……というわけか。




「…………ん? 手紙をポストに入れられるなら、いっそ家に直接来ても良かったのでは?」




 ヤリマン狩りは僕には注目していないから彼女が接触できたわけだし。

 そう問いかけると彼女は更に顔を赤くし、俯く。




「だって……男の方の部屋に行くなんて……恥ずかしいです……」




 …………不覚。ヤマンバが可愛いく見えるぞ、おい。

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