32本目「再見! さらば戦友(とも)たちよ!!」

 あの『おかめ』のお面を被っている女性――まさか……!? となると権藤ごんどうさんたちを助けた『ひょっとこ』とかはもしかして……?

 ともかく、ハルバードを構えた甲冑騎士は、僕たちのことなど目にもくれず『おかめ』にのみ視線を向けている。




「……クハハッ! 『点数稼ぎ』のために古巣の様子を見に来ただけのつもりだったが、こいつは中々の上玉だぜ!

 てめぇを始末すりゃあ、『あのお方』も満足してくれるだろうぜ!」




 こいつも『あのお方』か……そして、ルルとの会話の流れからして、今はトウ横キッズではなくおそらくはヤリマン狩りに属しているのだろう。

 そんなヤツにとって『おかめ』は絶好の標的、と言える。

 ……絶好のどころか最大の標的であるはずなんだが、そのことにこいつは気付いているのだろうか……?




「そらよぉっ!!」




 甲冑がハルバードを振り回し『おかめ』へと攻撃を仕掛ける。

 重そうな甲冑を身に纏っている割には素早く、鋭い攻撃だ――疲労困憊の僕たちではきっと何もできないまま薙ぎ払われていただろう。

 だが、




「な、にぃっ!?」

 ハルバードの斧部分を利用した叩きつけを難なく後ろへと回避。

 振り下ろしから流れるように放たれた突きを、ヤリで弾き返す。




 『おかめ』にの攻撃は通じない。

 ……更にそこからハルバードを引いて鉤部分で引っ掛けようとしたのだが、それよりも速く『おかめ』が前へと出てカウンターの突きを放つ。




「ぐおっ……!?」




 相手も攻撃失敗と同時に『逃げ』に入っていたためクリーンヒットはしなかったが、『おかめ』の突きが甲冑男の顔面へと掠り……兜の面頬部分を削り取っていた!

 …………あれ、本物のヤリじゃないよね……? 先端にスキン被せているはずだし……?




「ふ、ふざけんなよ……100万かけて作った超合金の鎧だぞ!? 皮被りのヤリなんぞで……!?」




 うん、まぁ超合金なら仕方ないかな……。




「雑魚狩りでコツコツ稼いだ金で最強の鎧を手に入れたんだ!

 これで負けたら――バカだぜっ!!」




 なるほど――そういうことなら……。




 甲冑男が今度は全力だと言わんばかりに両手でハルバードを構え『おかめ』へと突進するも……。

 ハルバードを振り抜くよりも速く懐へと潜り込んだ『おかめ』が放った突きが、今度こそ胸の中心に突き刺さり――そこから更に掌底でヤリを撃ち出す!

 姫先輩の足でヤリを投擲する奥義、それの掌底版を至近距離で受けた甲冑男が吹き飛ばされる。




「バカ……な……」




 甲冑の胸部分が砕け散り、倒れた男がそう呻くが――まぁその通りだ。

 こいつは、『バカ』だったということだ。

 『おかめ』が僕たちより遥かに格上の相手だということまでは『ヤリの気配』でわかっていたはずなのに、自分との実力差は全く見積もれていなかった。

 ……言っちゃなんだけど、所詮『雑魚狩り』で成り上がっただけでルルとそう大した差はなかったってことだろう。




「(ボソッ)……あの『おかめ』、強い……!」


「う、うん……一体誰なんだろ……」




 …………まぁお面を被ってるってことは正体を隠したいってことなんだろう。言わぬが華か。

 『おかめ』は相手を完全にノックアウトし、他の敵が周囲にいないことを確認するとぺこりとこちらに一礼すると、駅の方へと走り去っていく。




「お、終わった、のか……?」


「……そうですね。今度こそ終わったと思っていいと思います」




 最後の最後で助けられちゃったな……まぁ自分の力だけで切り抜けられるなんて自惚れてはいなかったけどさ。




「さぁ、皆! 今なら敵もいないし、急いで駅まで行きましょう!」




 呆然としている皆に声を掛ける。

 ここでまた別の敵が来て『ランサーライセンス』を盗られちゃいました、じゃ『おかめ』さんたちに顔向けできないしね。




 ――僕の言葉に皆が頷き、今度こそ全員で揃って駅へと向かっていくのだった。







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







 ボロボロになった僕たちだったけど、互いに支え合いながら進み、何とかJR御茶ノ水駅へと辿り着くことができた。

 ……何かあちこちにゴブリンの残党と思しき輩が倒れていたってことは、やっぱりある程度の数は『おかめ』さんたちが間引いてくれていたってことなんだろうなぁ……。

 嬉しく思うような、不甲斐なく思うような……何とも複雑な気分だ。




「やったー! 駅に着いたー!」


「(ボソッ)……疲れた……本当に……」




 流石にここから新手が襲ってくるってこともないだろう。

 一応周囲に僕たち以外の『ヤリの気配』がないかは探りつつも、まぁ大丈夫だろうとも思っている。




「そういえば権藤さんたちのライセンスは大丈夫でしたか?」




 ビルを出た直後に奪われた人もいたけど……。




「ああ、奪われたヤツも何人かいたんだが、『ひょっとこ』とかが取り返してくれていたぜ」


「そうなんですね! じゃあ――無事に全員合格ですかね?」


「そうなるな」




 良かった。あれだけ苦労してトウ横キッズなんかに奪われて終わり、なんて結末にはならなくて。

 『ひょっとこ』とかは僕の前には現れていないけど、きっと――ま、これもまた言わない方がいいんだろうな。




「色々あったが、終わりよければ全て良しだな!」




 ……色々の種類がひどすぎて本当に良しとしていいのか迷うところだけどね。




「そういや坊主は大学生か?」


「あ、はい。権藤さんは……?」


「俺は会社員だ。で、そこで社会人のヤリサーに入ったんだ――ヤリ自体は今までも個人でやってたんだがな」




 なるほど……社会人サークルに入ったしってことで今回ランク取得をしようとしたわけか。

 ……個人勢がいるのかよ、と相変わらずツッコミ甲斐のある界隈だけど……。




「そうだ、俺の名刺だ。

 ――就職の口利きは流石にできないが、相談くらいはのってやるぜ」


「あ、ありがとうございます!」




 権藤さんから名刺を受け取る。人生初名刺だ。

 ……って、会社名が凄いな!? 僕でも知ってる大手企業じゃん!

 就職活動自体はまだ数年先の話だけど……その時まで縁が続いているといいな、と本当に思う。

 言葉はあまりかわさなくとも、僕たちは共にランク試験を突破し、トウ横キッズの襲撃を切り抜けた戦友ともなのだから――




「よーし、それじゃ解散しようぜ!」




 いつの間にかリーダー的な立ち位置になっていたらしい権藤さんの号令で、僕たちは解散することとなった。

 互いに握手をし、健闘を褒め称え合い……。

 特に一番若いキルヤ君たちは大人たちにもみくちゃにされていた。

 いつも生意気な子たちも、大勢の大人に褒められて照れているようだ。

 ……そして、僕たちは今度こそ戦友ともたちと別れる。

 またいつかの再会を約束して――







 ……ぶっちゃけ、権藤さん以外の人の顔と名前が微妙に一致してないことは、ここだけの秘密だ。







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







 電車に乗っていく他の人たちを見送った後、僕たちは駅で待っているであろう姫先輩を探そうとする。

 けど、その必要もなく。




「お疲れ様でした。貞雄さん。綺璃花きりかちゃんに綺瑠夜きるや君も」




 おそらく様子を窺っていたのだろう、姫先輩の方から僕たちに声をかけて来た。

 ……なぜかヤリを持っていたり、ちょっと大きめのバッグを持っていたりとツッコミはできるけど、まぁやっぱり黙っておこう。




「疲れました……特に最後は危なかったですね」


「うん♥ あの『おかめ』の人がいなかったら、危なかったよ~」


「(ボソッ)……あのくらい強くならないと……おじいさまの名をけがしてしまう……」




 ……うん、気付いてないみたいだね、二人とも……。

 姫先輩は姫先輩で、何事もなく迎えに来た風を装って微笑むのみだ。




「そういえば、本多先輩たちはいらっしゃらないんですか?」




 多分この辺に来ているはずなんだけど。




「ええ、本多さんたちは後始ま――いえ用事ができてしまったので」


「そうですか……」




 ぶっちゃけ警察沙汰になってもおかしくない騒ぎだったからね……。

 後始末を先輩たちがしてくれるというのであれば、今日だけは甘えておくかー。

 ……キルヤ君たちがいなかったら、お祝いを姫先輩と二人きりでできたのに……! とは思うまい。

 彼らだって立派な戦友ともだ。




「さぁ、キルヤ君たちもお腹が空いたでしょう?

 お店を予約してあるので参りましょう!」


「ほんと!? やったー!」


「(ボソッ)……お腹空いた……」


「うん。行こうか、二人とも」




 何はともあれ、合格のお祝いだ。

 最後は助けられちゃったけど……それでも一つの『壁』を越えたという実感がある。

 僕たちは今日の締めくくりとなるお祝いの会へと向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る