30本目「死闘! 秋葉原ヤリマン包囲網!!(中編)」

 悪質トウ横キッズ軍団――『ゴブリン』。

 醜悪な小鬼のマスクがトレードマークで、一人ずつの実力は大したことはなく数で押してくるチームだ。

 その『数』こそが、脅威ではあるんだけどね……特に大した技量がなくてもリーチの長いヤリは数さえ揃えばそれだけで格上の相手を倒すことも可能だ。

 ……正に原始人たちが巨大なマンモスを狩っていた時のように。




 その差を覆すのが、技量というものだろう。




 正直なところ、姫先輩や会長だったらゴブリンの群れに襲われたところで難なく蹴散らすことができる、というのが僕の感想だ。

 だって一人ずつの実力は、素人に毛が生えた程度の僕にすら劣るくらいなのだ。そんな有象無象が集まっても、数の差を引っ繰り返せるだけの強さを持っていると思える。

 で、僕はともかく小学生チャンプのキルヤ君たちでもかなり辛いくらいの差だ。

 ……技量の問題だけではなく、『体力』の問題が大きいかもしれない。身体が出来上がってくるのはこれからだしね……。




「すごい……!」




 と言わんばかりの、凄まじいランコウ槍攻撃をキリカちゃんは見せていた。




模倣開始トレース・オン




 その一言を放った瞬間に、目にもとまらぬ速さで揮ったヤリが『頂き女子』ルルと周囲を固めるホブゴブリンへと叩き込まれ、あっという間にホブゴブリン数匹が倒される。

 ……そっちばかりに気を取られている状況ではないのでじっくりと見ていたわけじゃないけど、チラッと見ただけでも何が起きたのか僕にはわからないくらいの速さだった。




「すごいでしょ、キリちゃん」


「う、うん……僕らの助けなんていらないくらいだ……!」


「アレがキリちゃんの天稟スキル――『超鑑定ハイパー・アナライズ』だよ!」




 ……ついにスキルとかが出て来たかー……。

 キルヤ君が大きく鎌で薙ぎ払い、討ち漏らしを僕が突きで処理してキリカちゃんへと雑魚ゴブリンが向かわないようにしつつ、そんな話をしている。




「キリちゃんはおじいちゃん大好きだからねー。

 おじいちゃんの全盛期の頃のビデオとか見て、それを全部覚えてるんだよ!

 覚えるだけじゃなくて『超鑑定』のスキルで完全に理解して、再現までできるんだ!」




 それはもう鑑定じゃない気もするけど。

 ともあれ、今のキリカちゃんは全盛期の会長の動きを完璧に模倣トレースしているってことか。

 ゴブリンの群れをものともしないであろう会長とほぼ同じ実力を発揮して、ルルやホブゴブリンと戦っていると……。




「……ちなみに、いつものマスクとか前髪で顔を隠しているのは、スキルの影響だったり?」




 超鑑定で何でも見えてしまうので、普段はそれを制限しているとか?




「おばあちゃんの若いころにそっくりなんだって!

 だからおじいちゃん以外には見せたくないってキリちゃん言ってたよ! おじいちゃん大好きだからね!」




 ……あの会長、ああ見えて純情なんだなー……。

 そしてそれを理解してるキリカちゃんはというと、大好きなおじいちゃんにだけ素顔を見せたいってことか。

 …………キリカちゃん、ファザコンならぬジジコンなんだなー……いや微笑ましいことなんだろうけど。




「それにしても凄い……!」


「うん。あのモードになったキリちゃんは『最強』だからね!

 ボクなんか手も足も出ないし、本当におじいちゃんくらいしか相手にならないんじゃないかな?」




 そこまでか……。いや、でも過大評価とも言い切れない。

 それくらい圧倒的な実力差でルルたちを追い詰めていっている。

 けれど――、僕はそう思っていた。

 ゴブリンの群れも大分減ってきた……決断するなら今しかないか。




「キルヤ君、こっちは僕に任せて君はキリカちゃんを助けてあげて!」




 情けないけど、僕とキルヤ君ならキルヤ君の方が圧倒的に強い。

 彼ならキリカちゃんを手助けしてホブゴブリンの相手もできるだろう。

 僕の方は一人でゴブリンの群れを抑える――そんなに長くはもたないかもだが、このままキリカちゃん一人を戦わせていてはいけない。そう思って。

 なぜならば、キリカちゃんは幾らスキルで技量を上げていたとしても、小学生なのだ。

 

 それがルルたちにもわかっているのだろう、ホブゴブリンがやられるのは承知の上で突っ込んでいき、キリカちゃんの体力を着実に削っていっている。

 僕の提案にキルヤ君は躊躇う。




「で、でも……」




 彼の躊躇いの理由もわかる。

 僕一人ではそんなに長くはもたないと思っているのだろう。

 僕が耐えられている間に、二人で戦ってルルを倒しきれるかはやはりわからないのだ――体力が続かないのはキルヤ君も同じなのだから。

 ベストとは言い難いのはわかっているけど、現状これしか方法がない……そう思って僕は提案しているのだが……。




「――ならボクがこっちに残る。貞雄兄ちゃんがキリカちゃんを助けてあげて!」


「キルヤ君!?」


「ボクの方が大勢相手は得意だしね! 貞雄兄ちゃんより時間を稼げるよ!」




 ……キルヤ君の言うことも理解できる。

 けど、隠しているつもりだろうが彼の腕がプルプルと震えているのにボクは気付いていた。

 もう限界がすぐそこまで迫っているのだ。

 一人で大勢を相手するのは――くそっ、ルルの方へと向かってもそれは変わりないか……!?

 どうすればいい……!?

 どうすればこの場を上手く切り抜けられる……!?

 僕はこの期に及んで決断が鈍ってしまった。







「うおおおおおおおおおっ!! 野郎ども、突っ込めえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」




 ……この声、権藤ごんどうさん!?

 彼の叫びと共に、ゴブリンたちの背後から権藤さん、続いて大勢の人たちが槍を手に現れた!

 ……この人たち、一緒に試験を受けてた人たちだ!




「無事だったんですね!?」


「ああ! 見ての通り、俺も、他の奴らも全員無事だぜ!

 ……『ひょっとこ』の面を被った変なヤツに助けられた!」




 ひょっとこ??




「私はキツネのお面だったわ!」


「ワシは般若じゃった!」




 ……怪物マスクを被ったトウ横キッズに対して、お面を被った『誰か』が助けに入ったということだろうか……いや、そういうことなんだろう。

 でも一体誰が……しかも複数人いるっぽい?




「あいつがボスだろう?

 雑魚は俺たちに任せて、決着をつけてこい!!」




 権藤さんたち受験者の皆が、僕とキルヤ君の替わりにゴブリンの残党を抑えるように陣を組む。




「……ありがとう、皆! ここは任せたよ!」


「助かります!

 ――絶対に皆で無事に切り抜けましょう!」




 ヤバい、不覚にもじんときた。

 キルヤ君のことをチョロいとか言ってられないな。まぁキルヤ君は涙目になって感動しているから、僕よりチョロいのは確定だけど。




「キリちゃん!」


「キリカちゃん!!」




 この加勢を無駄にするわけにはいかない。

 僕とキルヤ君は、ルルたちと一人戦うキリカちゃんに加勢する。




「キル……サダオ!?」


「周りのでっかいのはボクが片付ける! キリちゃんと貞雄兄ちゃんはボスを!」




 止める間もなく、キルヤ君がホブゴブリンたちへと突っ込んでいく。

 ……どうやら『仲間』の加勢で疲れが吹き飛んだらしい。




「……キルが戦えるうちに、終わらせる……!」


「チッ……!? なんで他のヤツらが無事なの……!?」




 この事態はルルにとっては想定外なのだろう。

 無数のゴブリンを放って受験者を各個撃破していたつもりが、なぜかここに全員無事に集結したのだから。

 ……彼らが来てくれなかったら、僕たちはここで敗北していたかもしれない。




「まぁいいわ。ここであんたたちを倒せば、それで済む話よ!」




 全ての手を封じられたルルと、僕たちの最後の戦いが始まる――







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







『うぇーい……こちら「キツネ」。無事片付いたぜー。あー、疲れたわー……』


「おう、こちら『ひょっとこ』。ご苦労だったな。他も順調に片付けたそうだ」


『……ちょっと過保護じゃね? と思ったけど、今回のトウ横キッズは数も質も悪質じゃね?』


「……おう、やはり『ヤリマン狩り』の動きが絡んでいるかもしれないな」


『そーなんかねー。

 ……んで、我らが後輩――じゃなくって受験生の最後の関門は、本当に手伝わなくていいわけ?』


「おう、ゴブリンの襲撃は想定外かつ悪質だったから俺たちも助けに入ったが、本来はトウ横キッズは自分たちで乗り越えるべき試練だからな。

 まぁ数は大分減らしたし、ここから先は自力で頑張るべきだろう。

 ――それに、我らが最強の姫……じゃない『おかめ』がすぐ傍で待機しているだろうから、万が一もないだろうよ」

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