29本目「死闘! 秋葉原ヤリマン包囲網!!(前編)」
僕たちを助けに駆け付けてくれた
ここに来るまでにトウ横キッズたちと既に戦っていたのだろう。
『ランサー証』はまだ奪われていないみたいだが……。
「権藤のおじさん!?」
それにしても、まさかここで権藤さんが助けに来てくれるとは思わなかった……。
言っちゃなんだけど、試験で揉めた間柄だしね……わだかまりは解消されたとは思うけど、それでもお互いにちょっと話しづらい仲ではあろう。
「ここは俺が引き受ける!
お前たちは先へと進め!!」
マイヤリなんだろう、普通の
「でも――」
「こいつらはトウ横キッズの中でも一番悪質なヤツら――『ゴブリン』だ。
いちいち相手していたらキリがないぞ!」
ゴブリン……言われてみれば、ヤツらが被っているマスクは小鬼を模しているとも言えるか。
――そう言えば試験前に謎酒場で『ゴブリンの群れ』がどうのと言ってたけど……これのことだったのか!?
「なぁに、ランクこそ坊主たちと同じだが、こちとら実戦経験は積んでいる。
こんなゴブリン共なんぞ軽く蹴散らして、すぐに後を追いかけるさ!」
……やべぇフラグおっ建てないで欲しいんですが……。
キルヤ君はというと、そんな権藤さんに感動してるっぽい。小学生チョロいな。
「(ボソッ)キル、ここは任せよう」
「……そうだね、権藤さんの覚悟を無駄にしちゃいけない……」
「…………わかったよ……。
権藤のおじさん! 絶対――絶対無事にまた会おうね!」
キルヤ君の言葉に権藤さんは高くヤリを掲げ応える。
「! 青信号だ、行こう!」
そこでちょうど信号が変わってくれた。
僕たちはこの場を権藤さんに任せ、とにかく先へと進む……!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後も一筋縄ではいかなかった。
僕たちが通ったルートは、電気街裏から御茶ノ水方面へと延びる緩やかな坂道――途中で神田明神を通り過ぎていくものだ。
トウ横キッズ改めゴブリンズに追い立てられたからという理由もあるけど、多分このルートが一番近い。
神田川に沿う道の方が信号が少なくて御茶ノ水駅にまで止まらずに向かえるんだけど、そっちからだとJR御茶ノ水駅の入口が遠くなってしまうのだ。
神田明神通りから進んで湯島聖堂前で曲がり、そのまま直進して聖橋を渡っていくルートの方が入口は近い……が、このルートが正解かどうかは正直わからない。
なにしろ、先回りしていたのであろうゴブリンの群れが次々と現れて来たからだ。
「……一体何匹いるんだ……!?」
一匹ずつは大した強さではない。
……ヤリのほぼ素人の僕にすら劣るくらいだ。
けれど数が多すぎる……!
倒しても倒しても湧いてくるゴブリンの群れに、僕たちは流石に疲れて来た。
「もう少しなのに……!」
聖橋まで何とか到達したけど、僕もキルヤ君も肩で荒い息をしている。
流石にこの状況でキルヤ君もメスガキムーブする余裕はないらしく、無言で迫ってくるゴブリンを薙ぎ払っている。
結構厳しいのはキリカちゃんの方だ。
彼女のヤリは伸縮式の超薄型ゴム――強度がないので、ヤリの強味の一つである『薙ぎ払い』や『叩きつけ』には向いておらず『突き』しかできないので複数人を相手にするのが難しい。
その分、『薙ぎ払い』に特化しているキルヤ君の大鎌があるので、互いにカバーしあっているとは言えるが……敵の増えるペースの方が圧倒的に早く、処理が追いついていない。
「へぇ~……ここまで来れるやつがいるなんて、思わなかったわ~」
聖橋の上に、他のゴブリンとは一線を画す存在感を放つヤツがいた。
ゴブリンのマスクは被っていない、やたらと派手な服を着た女だ。
髪は盛り盛り、ケバいメイクに女の子が成人式の時によく肩にかけてる謎の毛皮? をかけている。
……偏見かもだけど、いかにもな『夜の嬢』って感じだ。しかもあんま売れてない系の。
「くっ、ゴブリンのボスか……!」
周囲に大柄なゴブリン――ホブゴブリン (仮)を侍らせていることからそう判断した。
さしずめ、ヤツがリーダー……ゴブリンクイーンってところか。
ヤツが持っているのは先端が四本に分かれた……巨大『フォーク』だ。初めて見るタイプだし、どういう戦い方をするのかは想像するしかない。
そして周囲には雑魚ゴブリン、クイーンの周囲にはホブゴブリン……。
ゴールは目の前だというのに絶体絶命だ……! 今度は権藤さんの助けみたいなのは望めない。
「(ボソッ)あいつ……『頂き女子ルルちゃん』……!」
まーたツッコミ甲斐のあるワードがでてきたぞー。
そんな場合じゃないからスルーだけど。
「知ってるの、キリカちゃん?」
「(ボソッ)元Aランク……でも、後でそれが他人から奪ったものだとバレてランク剥奪された女……」
ランク詐称やっぱりダメなんじゃん。
とはいえ、Aランクを
他人からランクを頂いていった女だから『頂き女子』ってことだろう、多分。
そしてランク無しになった後も心を入れ替えることなく、トウ横キッズ集団『ゴブリン』の首領となった……そんなところか。
「ふーん? どこかで見た気がしたけど、あんたたち……あの
ラッキー☆ あんたたちを倒せば、『あのお方』も満足してくれるに違いないわ」
「……『あのお方』……?」
ルルの更に上がいる?
……ゴブリンのやり方はかなり悪質になっているが、本質としてはヤリマン狩りに近いものがあると思える。
だとしたら、『あのお方』というのはもしかして――
いや、そのことよりも拙い。
ヤツの狙いが完全にキリカちゃんとキルヤ君に向いてしまっている……!
「……二人とも、僕が何とか隙を作るからダッシュで駅まで走って。駅に姫先輩がきているはずだから」
「貞雄兄ちゃん……?」
「(ボソッ)かっこつけんな、クサイ」
後一息という距離だ。全力ダッシュで何とか逃げ切れるはずだ。
……僕がゴブリンたちの足止めをすれば、だけど。
ま、きっと僕はただじゃすまないだろうけどね……二人を預かっているのは僕だ。せめて二人だけは無事に逃がしてあげなければならない。
「さーて、じゃああんたたちのランク――頂くよ!!」
ルルの号令と共にゴブリン、ホブゴブリンの群れが一斉に襲い掛かってくる!
狙うは一点突破。
駅のある方向、ルルとホブゴブリンたちに向けて僕は自分から突っ込んで道を強引に開こうとする。
……けれども。
「――おじいさま、お許しください」
マスク越しの小さな声ではない。
はっきりとキリカちゃんがそう呟くと共に、僕の横を駆け抜けた白い閃光がホブゴブリンの群れを薙ぎ払った!
「!? キリカちゃん……!?」
「キリちゃん、いいの……!?」
僕とキルヤ君が共に驚いた内容は同じだが、意味は違っただろう。
「
「えっ!? あ、うん?」
キリカちゃんが吹き飛ばしたホブゴブリンが持っていた適当なヤリを拾って構える。
……彼女はいつも被っているマスクを外し、目を隠している前髪をヘアピンで止めて自分の顔を完全に晒している。
キルヤ君に似ているが、女性的な顔立ちの彼とは反対に男性的――いや、凛々しい顔立ちだ。
そんな彼女がヤリを構え、ルルと向き合う。
「ここで『本気』を出さない方が、きっとおじいさまはお怒りになられる。
だから――わたしに任せて。
キル、サダオと一緒に雑魚をお願い」
「おっけ~♥ 貞雄兄ちゃん、ボクたちでキリちゃんの邪魔をさせないようにするよ!」
「そ、それはいいけど……キリカちゃん一人で元Aランクを相手にするなんて……!」
たとえ3人で同時にかかっていっても遥か格上の相手だ。勝てるとは到底思えない。
元より勝つ必要なんてない。駅まで逃げ切ればいいだけの話なのに……。
僕の不安に応えるように、キリカちゃんが厳かに告げる。
「問題ない。なぜなら――わたしこそが『最強』だから」
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