28本目「襲撃! トウ横キッズとの戦い!!」
「ねぇ~、貞雄兄ちゃん♥ ボクのヤリ持ってぇ~♥」
「ダメだよ、自分のヤリでしょ」
キルヤ君のヤリは『大鎌』タイプだ。
鎌部分が大きいだけあって、重さは普通のヤリよりもあるのだろう。
可愛らしくお願いしてくるが、武人たるもの自分の得物は自分で管理すべし!!
……なんてね。
「ちぇ~……キリちゃんはいいよねぇ~、軽いし」
「(ボソッ)いや、これ結構重い……」
キリカちゃんの方はバトンサイズではあるけど……これも内部に何重にも薄い筒が入っているので見かけよりは重そうだ。
まぁこっちは鞄の中にでも入っちゃうくらいの大きさだから、キルヤ君の鎌よりは全然マシだろうけど。
「じゃあちょっと遠回りになるけど、御茶ノ水駅まで歩いていくよ」
「おっけ~♥」
「(ボソッ)……なんで茶水……?」
ランク試験にも合格したし、皆にお祝いしてもらえるしってことで晴れやかな気分で
「た、助けてくれーっ!!」
…………聞かなかったことにしたい……!!
……が、ダメ……っ!!
ボロボロになった男がこちら――というかギルド支部へと逃げ込もうとしていたが……。
「ヒーハー!!」
その男を後ろから襲う影!
「……なにあれ?」
「(ボソッ)ハロウィンにはまだ早い……」
キルヤ君たちもわからないようだ。じゃあ僕にわかるわけないね!
男を襲ったのは、
……いや、怪物のように見えるけどそんなわけがない。
気持ち悪い怪物を模した『マスク』を被っているのだ。
「ぐあああああああっ!!!」
僕らが混乱している間に、男はやられてしまった……。
すると現れた怪物マスクは、倒れた男をごそごそ漁ると――財布の中から一枚のカードを取り出す。現金とかには手を付けないんだ?
「キヒヒヒヒー!!」
怪物マスクは僕らへと視線を一瞬向けるが、そのままどこかへと走り去っていく……。
な、なんだったんだ、今の……?
「く、くそぅ……やられた……!」
「えっとぉ~……おじさん、大丈夫?」
「(ボソッ)さっきの試験受けてた人……」
倒れはしたみたいだが気絶はしていなかった。
そして、同じランク試験を受けてた人みたいだ。
「お、お前らも気をつけろ……!」
「一体何があったんですか!?」
強盗!? 警察に電話した方がいい!?
「
「は?」
「ちくしょう……『ランサー
「えー……?」
そういえば確かにカード一枚だけ盗っていったけど、あれ『ランサー証』だったのか……。
でも『ランサー証』だけ狙う強盗なんているのか……? でもヤリ界隈だしな……。
「俺はもうダメだ……お前たちだけでも逃げろ……!!」
「えぇー……」
これは警察案件なんじゃないだろうか……?
とにかく、この人を安全な場所――そうだ、僕たちが出たばかりのギルド支部へと避難させないと!
……と思ったら、
「げ、シャッターが閉まってる!?」
ビルのシャッターが降りていた。
いつの間に!? 僕たちが外に出たのと同時に音もなく閉めたのか?
これじゃこの人もそうだけど、僕たちも避難することができないじゃないか……!
「何をグズグズしてる……行けっ! 逃げるんだ……っ!!」
どうしよう……人として放っておいていいのかどうか悩むけど……。
「貞雄兄ちゃん! 変なヤツがいっぱい来てるよ!?」
「(ボソッ)凄い数……!」
「嘘だろ……!?」
平和だったはずの電気街に、怪物マスクたちがたくさん現れ僕たちの方へと向かって来た!
「くっ……二人とも、逃げるよ!」
警察に電話する余裕もない!
僕一人でも危険を感じるレベルだけど、キルヤ君たちだっているんだからグズグズしていられない。
男の人には悪いけどまずは自分たちの安全確保だ。
僕たちはとにかくその場から駆け出すしかなかった……!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
怪物マスクたちは僕たちを追いかけて来る。
しかも、全員が手にヤリらしきものを持っている。
……ってことは、こいつらも
「貞雄兄ちゃん、思い出したよ!
こいつら『トウ横キッズ』だよ!」
「トー横キッズ!?」
そういえばさっきの男の人もそんなことを言ってたな……。
でもあれって新宿の話じゃなかったっけ? ここは秋葉原だし……。
「闘技場横にたむろしてるキッズ――略して『トウ横キッズ』だよ」
あ、いつものやつね。理解。
状況が状況だけに僕もボケてはいられない。
「なんでそのキッズが襲い掛かってくるの!?」
「多分、僕たちの『ランサー証』を狙ってるんだと思う」
走りながらキルヤ君が簡単に説明してくれたのを纏めると――
トウ横キッズは、ヤリマンの中でもかなりの異端児……言葉を選ばなければ鼻つまみ者の集団らしい。
闘技場横に張り付き、
で、おそらく今回は『ランサー証』を奪うために襲い掛かってきているのではないだろうか? というのがキルヤ君の推測だった。
……奪ったライセンスって意味あるのだろうか? と思ったけど、よくよく思い出してみると、ライセンスには特に個人を識別する名前とかIDとかもなかった気がする……。
「……ひどい話だなー……」
そう考えると、碧さんが言っていた注意点の本当の意味がわかってくる。
『ランサー証』の再発行には別途料金がかかる――普通のことだとも思えるけど、トウ横キッズみたいな強奪犯がいることを考えると……ひょっとして『奪われる前提』でいるんじゃないかなと。
奪われた場合、再発行でお金を巻き上げることができるしね……滅茶苦茶ひどい話だと思うけど。
「(ボソッ)この程度、切り抜けられない方が悪い」
一方でキリカちゃんの方はかなり冷淡だ。
そっちの理屈もわからないでもない。
むざむざと奪われる方が悪いってことだもんね……もうヤリ界隈の無法さには慣れてきたと思っていたけど、ここまでの無法は想像を超えている。
この辺りの事情は当然ボウケン者ギルドが把握しているだろう。
知った上で放置しているとしか思えない――再発行料で稼ぐというのもそうだし、キリカちゃん同様『この程度でランク証を奪われるな』という考えもありそうだ。
嘆いても怒っても状況はよくならない。
僕たちに今できることは、とにかく自分の身とライセンスを守りつつ逃げることだけだ。
「あ、信号」
逃げ回っていた僕たちだったけど、とりあえずの目的地は御茶ノ水駅なのには変わりない。
秋葉原駅の方に避難するかは考えなかった――そっちの方から怪物マスクたちが向かってきているのが見えたからだ。
で、御茶ノ水駅へと向かっていたわけなんだけど……当然信号に引っ掛かる。
ヤバいなー、車も通ってるし信号無視したらトウ横キッズにやられるよりも車に轢かれてしまうし、かといって足止めてたら追いつかれるし……。
「しょうがないかー。貞雄兄ちゃん、キリちゃん! こいつら倒しながら行こう!」
「(ボソッ)しかたない」
「……それしかないか……!」
信号がたまたま青になっている道を見つけるまで逃げ続ける、というのも一つの手だけど、運次第では延々と走り続けることになり目的地から遠ざかる一方だ。
なら、追いつかれてしまった分だけは倒しつつ、走れる時は無視して走るというのが一番いいかもしれない。
キルヤ君たちも自分のヤリを構え、追いかけて来たトウ横キッズへと立ち向かおうとする。
けれど――数が多い!
僕ら3人に対し、相手は10人くらい……まだまだ増えてくるかもしれない。
ヤリの真価は集団戦、と以前先輩たちが言っていたし、こちらが圧倒的に不利な立場には変わりない。
……厳しい戦いになる。いざとなったら、キルヤ君たちだけでも逃がさないと……逃げた先にトウ横キッズの群れがいないとも限らないから最後の手段だけど……。
「おらぁぁぁぁぁぁっ!!!」
覚悟を決めて信号待ちの間に戦おうとした僕たちの前に、大男が飛び出してきてトウ横キッズの群れへと突っ込んでいった!
予想外の方向からの乱入者にトウ横キッズたちも不意を突かれ、先頭にいた数人がノックアウトされる。
「
「間に合ったか! まだ無事だな、坊主共!?」
僕らを助けに駆け付けてくれたのは、試験中にちょっと揉めた権藤さんだった……!
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