26本目「過酷! ヤリマンランク試験!!(後編)」
最後の筆記試験は特に何事も起こらず無事終了。
過去問でやった通りで、かなり楽勝だった。
…………『ヤリの発祥は、イザナギ・イザナミが
まー、僕の納得は置いておいて、試験問題としてはそうなっているのだから仕方ないと割り切る。
「皆様、ランク試験お疲れ様でした。
このフロアは解放されていますので、採点待ちの間ご自由にお過ごしください」
とのことだったので、僕たちは適当に休憩して過ごすこととなった。
幾つも部屋のあるフロア、その全てが受験生に開放されている。
道場になってたり、休憩スペースになっていたり……。
さーて、何して過ごそうかなー……大体30~40分くらいだって碧さんは言ってたけど……。
「ねーねー、貞雄
「えー?」
僕とキルヤ君、それと無言のまま着いてきているキリカちゃんはちょっとした道場っぽい部屋でゴロゴロしていた。
畳張りだからね。寝っ転がると気持ちいいんだこれが。
子供は元気だなぁ……僕なんかこれで試験が終わりだと思ったら、どっと疲れが出てきちゃったよ……。
んー、でもまぁ寝てるだけってのももったいないし、以前のリベンジ――とまでは行かなくても、前よりはマシな勝負にはできるかもしれない、という期待もある。
……そこまで自信がつくほど練習できてはいないけどねー……まだ。
「しょうがないなー。
じゃ、この前と同じルールでね」
「おっけー♥
……負けたら何でも言うこと聞くってのもね♥」
…………ふぅ、落ち着け……男の娘需要はあるが、まだいきり立つ時間じゃない……。
「(ボソッ)キモっ……」
こうして考えると、初対面の時から大分この子とも打ち解けてきたなー。
最初からグイグイ来る系ではあったけど、あの時とはちょっと違う感じがするというか……。
ともかく、僕とキルヤ君で軽くランパしようとした時だった。
「控えよ」
ポツリと、しかし確固たる強さを秘めた声が響く。
この声……キリカちゃん?
「おじいさまが来た」
「! お、おじいちゃん!?」
キルヤ君が驚きで飛び上がるのと同時に――凄まじい『威圧感』が僕を襲って来た。
僕らのいる道場に、二人の人物がやってきた。
一人は碧さん――採点自体は他の職員がやっているのだろうか。
いつもの涼しい顔ではなく、どこか冷淡な……厳しい雰囲気が漂う無表情だ。
そしてもう一人は――
「良い。楽にせよ」
老人、だった。
仙人みたいな長いヒゲを蓄えた、細身の老人である。
けど……老人の放つ『気』が尋常ではない。
キルヤ君たちの言葉通りなら、彼が――
「余が
……ボウケン者ギルド、あるいはランサー協会会長の、キルヤ君たちの祖父……!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
会長とかに会っても実感ないだろうなー、なんて思っていたけど……大きな間違いだった。
流石、無法のヤリ界隈の頂点に君臨する人だ。老人と言えどその存在感や威圧感は桁違いである。
……あまり考えたくはないけど、姫先輩よりも『強い』かもしれない……!
「其方が
先ほどは孫が迷惑をかけた」
「あ、いえ……」
第三試験の終わった後の件だな。
碧さんの裁量で不問にはなったけど、流石に報告だけはいってるか……。
……あの
お偉いさんの身内なのもそうだけど、それ以上に会長の『迫力』が凄すぎる。
「アレは
……Oh……権藤さん、今頃震えてるんじゃないだろうか……。
それはまぁ仕方ないとして、キルヤ君の自業自得なのは納得だ。
本人も反省しているだろうし、身内でもないし僕がこれ以上ぐちぐち怒ったりはしない。
……ま、後でおじいさんからガッツリ怒られるだろうけどねー……それもまた自業自得だ。
「其方に褒美を与えようと思うが――」
「い、いえ!? そんな……」
ありがとうの言葉だけで十分ですよ!?
「其方が望むものは――余の首であろう?」
いや全く望んでおりませんが?
ニヤリと笑わないでください。笑顔ですら迫力があるんですから……。
「流石に余の首は与えられんからな……。ふむ、ではこうしよう。
「かしこまりました、会長」
控えていた碧さんに命じ、適当なヤリを持ってこさせる。
一体何をする気だ……って、ヤリを持ってきたってことは、ヤることは一つだよね……。
「筆記試験の結果が出るまで退屈であろう?
一つ、余興をしようではないか」
「え、おじいちゃん……まさか……?」
「童妙寺、余と立ち会え。綺瑠夜も来るがよい――其方には少し灸をすえねばならぬしな」
うげー、と嫌そうな顔のキルヤ君。
僕も内心ではうげー、だけど……。
……けど、こんなチャンスは二度とないかもしれない。
「……わかりました。胸を借りさせていただきます!」
その気になった僕の言葉を聞いて、会長はますます笑みを深める。
「うむ、意気や良し。
余興ではあるが褒美は忘れておらぬぞ?
其方のヤリが余の肉体に触れることができれば――そうさな、今回はランクFの試験ではあるが特例としてランクCとしてやろう」
! マジか。
これは望外の褒美だ……! もちろん、会長の身体にヤリを当てられなければダメなんだけど……その意味だと無条件に褒美はもらえないのかー。
「おじいちゃん、ボクも!?」
「馬鹿者。其方は別じゃ」
「ちぇー。
……ま、いいや。貞雄兄ちゃん、協力プレイだよ!」
「うん、がんばろう、キルヤ君!」
ちなみにキリカちゃんは不参加。
僕とキルヤ君の二人で会長とランパすることとなった。
こちらの人数の方が多いとは言っても、素人と小学生。対する会長はおそらく最強クラスの
言葉通り、胸を借りるつもりで僕は挑む――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
いやー……流石、滅茶苦茶強いわ……。
二人で挑んでいるというのに、全くこちらのヤリが当たらない。
結構な歳だというのにヤリ捌きだけでなく体捌きも凄い。
二手に分かれて攻撃しようとしても、全部あっけなく返されてしまう。
……が、最後にチャンスが巡って来た!!
「今だっ!!」
「むうっ!?」
僕が真正面から接近、それを会長がヤリで迎撃。
その瞬間を狙ったキルヤ君が会長の左側から奇襲。
それを難なく回避しつつ僕とキルヤ君を纏めてヤリで払おうとする。
――その時、僕は敢えてヤリを手放しつつ一歩後ろへと下がり会長の払いを腕で受け止めようとする。
滅茶苦茶痛い、けどこここそがチャンスと見て、手放したヤリの
姫先輩の技……的当ての時にもやった蹴りでのエンコウを近距離で放ったのだ。
……けれど、会長はそれすらも身体を捻って回避してしまった……。
「会長、そろそろお時間です」
と、ここでタイムアップ。
結局、僕たちは二人がかりでも会長にヤリを当てることは出来ずに終わってしまったのだった。
「ふむ……余興はここまでだな」
「むー……! 貞雄兄ちゃんとでもダメだったかー……」
「ハァハァ……あ、ありがとうございました……っ!」
疲れただけ、とは思わない。
相当な手加減をしてくれていたのはわかっているけど、それでも以前キルヤ君にボコボコにされた時よりも成長していることが実感できた。
これは決して傲りでも勘違いでもない、と思う。
『ヤリ』に確かな手応えを感じている――昔、テニスをやりだしてから初めて試合で得点を取れた時にも同じ感触があった。
周囲にいるのが割とバケモノクラスのヤリマンだから比べてしまうと凹むけど、それでも僕は着実に力をつけることができている……。
そのことが自覚できただけでも、会長と手合わせした意味はあっただろう。
「うむ。童妙寺貞雄よ、今後も励めよ――颶風院の娘の助けとなれるようにな」
「!!」
そう言い残し、会長と碧さんは去って行ってしまった……。
……やっぱり会長もヤリマン狩りのことは知ってるんだろうな……。
姫先輩の助けになれるように、か……。
「はぁ~……わかってたけど凹むなぁ~……」
「キルヤ君でも凹む時あるんだね?」
「えー? だっておじいちゃん滅茶苦茶手加減してくれてたのに、貞雄兄ちゃんと二人でも全然敵わなかったし……やっぱり悔しいよ」
だねぇ……。
なにせ、
最後のチャンスも、もし会長が両手で薙ぎ払いしていたら、ヤリを蹴り出す前に吹っ飛ばされていただろう。
それにしても、キルヤ君の口から『悔しい』なんて言葉が出るなんてねぇ。
「うんうん、悔しいね。じゃ、これからもがんばろうか」
前回のお返しというかお礼というか、今度は僕がキルヤ君のことを慰めてあげるのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「フフフ……面白い男だ」
「会長?」
「
「!? まさか、童妙寺さんのヤリを受けて……!?」
「技術はまだまだ未熟。しかし気迫――いや、戦いの最中に見せた集中力には目を見張るものがある。
ヤツめ、戦いながら余の動きを見切り始めて力の勘所を崩しかけていたわ。
もし、あとしばらくの間続けていれば……余に一撃を与えられたやもしれぬな」
「……」
「さて、本日の試験も後は面談のみであろう?
其方も戻ってよいぞ」
「……はっ! かしこまりました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます