25本目「過酷! ヤリマンランク試験!!(中編)」
「はーい、再挑戦分のヤリは一本1000円で貸し出しておりまーす♪」
普通にやったら、ヤリを投げて的に命中させるのは難しい。
僕の後に続く参加者は、疲れもあってか全然当てられなかった。
……で、この試験の恐ろしいところは、再挑戦は可能なのだが一度投げたヤリを取りに行くことができないということだ。
つまり、再挑戦のためにヤリを都度用意しなければならない――そして、ヤリを一本1000円で貸し出している……。
…………阿漕な商売だなー……。
ちなみに一本目は無料貸し出しで、二本目以降が1000円だ。マイヤリを持ってきてない人は大変だなー……先輩の忠告に従っておいて良かった。
「で、出た―! みどりちゃんの荒ぶる課金のポーズだー!!」
課金の悪魔は緑の衣を纏っている……。
的当てを諦めて次の試験に賭ける人、課金してヤリ投げを続けようとする人……今回の場合は『諦める』が最適解だと思うんだけどなぁ……。
とはいえ口出しするわけにもいかない。というか、こっそりと碧さんから『しーっ!』とゼスチャーされたし……。
……何か、こういうのもボウケン者ギルドの収入源な気もするし邪魔すると恨まれそうなので黙っておこう。すまん、他の受験生の人たち……。
さて、しばらくして受験生全員が第二の試験を終了した。
結構時間がかかったおかげで、僕はゆっくりと休めた。他の人には悪いけど。
「お疲れ様でした。これにて第二の試験は終了となります。
続いて第三の試験となります。場所を移動しますので、皆さま着いてきてください」
碧さんの言葉に一同に緊張が走る……!
また走るのか……!?
と思いきや、今度は的当て部屋のすぐ隣の部屋へと移動するだけで済んだ。
結構広めの体育館といった感じの部屋である。
「第三の試験は基本動作の確認です。
皆さま、大きく円を描くように整列していただき、わたくしの合図に従ってヤリを振ってください」
……今度は普通の試験っぽいな。
他の人もだけど僕もちょっぴり安心した。
何せ常識が狂ってることは疑いようのないヤリ界隈だ。第三の試験もどんなトンチキなことをさせられるのか、ちょっぴり不安なところはあったしね。
碧さんの指示通り、体育館で互いに距離を取って円形に並ぶ。中心に碧さんだ。
「それでは、構え!」
号令に合わせ、全員がヤリを構え。
「前へ、突き!」
……その後も、碧さんの号令に合わせて皆でヤリを振るう。
本当に基本動作の確認だ。特に裏はないだろうと思う。
そうそう、こうやってヤリを振っていて気付いたんだけど……。
以前、本多先輩に『異世界転生したとしたら』の話をした。
その時にヤリの長所と短所についての話もあったけど――あの時は素人の僕にもわかりやすいように色々と省いてたんだなー、というのが今になってわかる。
「右払い!」
今度はヤリを左側から右側へと抜けるように横に払う。
ヤリの短所として、内側に入られると弱いというものがあったけど、ヤリに習熟すれば必ずしもそうとは言えない、というのがわかった。
当然だけど長い柄そのものは『長い棒』として扱うこともできる。
材質とかにもよるけど、打撃武器として十分な威力とリーチはあるだろう。
「上段構え、叩き!」
両手でヤリを持ち頭上へと振り上げ、からの振り下ろし。
これも『突き刺す』ということはできなくとも、長いリーチでの叩きつけができるので武具としては十分だろう。
そんなこんなで、僕らは黙々とヤリを振り続ける。
キルヤ君たちもふざけることなく、真面目にやっているようだ。あの子たちも悪ふざけする時が多いけど、ヤリについては真剣なんだな。
それにしても、今日の試験の中でこれが一番キツイかもしれない。
最初の長距離走に比べれば動いているわけじゃないんだけど、ヤリを構えて号令に合わせて動くだけなのに妙に疲れる。
……腕が疲れるというだけではないだろう。
集中力、というか神経が削られている感じがするな……スポーツとも異なる、武道特有の張りつめた空気というか緊張感が余計に体力を削っているのかもしれない。
ま、これもきっと慣れなんだろう。キルヤ君たちはふざけてはいないものの、全然余裕の表情だし。
大体20分くらいだろうか。
「はい、これで第三の試験は終了となります。皆様お疲れ様でした!
続いて第四の試験に移りますので、移動いたしましょう!」
碧さんが試験終了を宣言すると共にあちこちから安堵の息が漏れる。
だよね……ただの基本動作と見せかけて、突然変な指示出してきたりしないかとか、気が気じゃないよね、皆……。
「次の第四試験が最後の試験、『筆記試験』となります。その後、簡単な『面談』をしてランク試験は終了となります」
おお、もうそろそろ終わりか。
筆記試験は事前に勉強したり模擬試験を解いたりしてたので、結構自信ありだ。
最難関大学合格の力――見せてやるぜ!
「ちょっと待てよ!!」
と、移動を開始しようとしたところで、一人の受験生が大声を上げた。
……本多先輩を更に一回りは大きくしたような、プロレスラーというかボディビルダーみたいな体型の大男だ。
が、本多先輩と大きく異なるのは『柄の悪さ』がにじみ出ているところだろう。
「まさかこれで実技は終わりか!?」
「はい。実技についてはこれで終了でございます」
……そういやあの人、第一の試験でもかなり後ろの方だったし、第二の試験でも重課金したけど的中させるのを結局諦めてたんだよな。
なるほどね、このままじゃ試験に落ちてしまうと思っているのか。
まー……納得いかないって気持ちもわからないでもない。
彼はおそらくキルヤ君たちと同じで、ランク試験は受けていなかったもののそれなりにヤリをヤっていたのだろう。もしかしたら、
そういう人にとっての『実技』だとランパ形式でないと実力を発揮できていない、って思っちゃうかもね……。
「俺の実力はこんなもんじゃねぇっ!!」
本当にそう思ってたみたいだ……。
怒鳴られている碧さんは涼しい顔を崩さない。
「そう申されましても……試験内容は決まっておりますので」
ごもっともだよね……。
ゴネてどうにかなるわけねーだろ、と突っ込みたいところだけど……ガタイの良さとガラの悪さに皆遠巻きに見ているのみだ。僕もだけど……。
うーん、でもこのままじゃ試験は進まないし、彼が暴走したりでもしたら……。
「プークスクス♥ 俺の実力はこんなもんじゃないって、本当に言ってる人初めてみたぁ~♥
落ちたら落ちたでしょーがないじゃん♥ 次にがんばれ♥」
……この場で空気を読まず、いつもの調子でキルヤ君が絡んでしまった!?
これはまずい!
普通の人でも結構イラッと来るメスガキムーブを、現在進行形で怒ってる人になんてやったらまずいよ!
「こ、の……ガキがっ!!!」
逆上した大男の矛先がキルヤ君の方へと向かう。
怒鳴ると共に手にしたヤリ (借り物)を振りかざし――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ま、まぁまぁ……落ち着いてくださいよ、えへへ……」
「て、てめぇ……!?」
力任せにキルヤ君へと振り下ろされたヤリを、僕がヤリで受け止めていた。
ていうか力強っ!?
向こうは片手だというのに、僕は両手でギリ抑えられているくらいだ。
……踏ん張りが足りなかったら、受け止めた後に脳天に直撃していたな、これは……。
大男は止められたことで更に逆上する、と思いきや自分がしたことを冷静に振り返られる程度には頭が冷えたらしい。
バツが悪そうな顔でヤリをすぐにひっこめる。
ふぅ……危ないところだったけど、何とかなったか。
後は――
「キルヤ君」
「えっ、はい……」
こっちのメスガキ――否、悪ガキの方だ。
ヤリを降ろし、できるだけ真面目な顔でキルヤ君を真っすぐに見て僕は言う。
「今のは君が悪い。子供だからって何もかも大目に見てもらえるとは思わないこと!」
「…………はい……」
「それじゃ、ちゃんと謝りなさい!」
大男さんの問題が根本的に解決したわけではないんだけど、そっちは碧さんとかボウケン者ギルドの職員に丸投げでいいだろう。
でもキルヤ君の問題については、今この場で解決させておかないと絶対にまずい。
「……おじさん、ごめんなさい……調子に乗ってました……」
不承不承という感じもなく、素直にキルヤ君は腰を折って深く頭を下げる。
一方の大男さんも、
「……いや、俺の方こそすまない。つい熱くなっちまった」
プライドがあるだろうに、子供のキルヤ君へと頭を下げる。
「あんたも……受付嬢さんにも申し訳ない」
そして、僕たちに対しても頭を下げる。
僕に対してはまぁいいんだけど、問題は碧さんの方かなー。
ちらりと彼女の方を見ると、涼し気な表情は変わっていない。
「
だよね。武道全般に言えることだと思うけど。
「童妙寺様は問題ないでしょうか?」
「あ、はい。誰も怪我しなかったわけですし」
「かしこまりました。
権田様の不満も個人的には理解できます。当事者である童妙寺様が問題ないのであれば、今回の件はわたくしの裁量で不問といたします。
――ご安心ください。先ほどの基礎動作、権田様は素晴らしいものでしたよ。自信をもって次の試験に臨んでいただければと思います」
「…………本当に申し訳なかった。そして、感謝します……!」
おお、何かいい感じに丸く収まったな!
……っていうか、丸く収まらなかったら血を見る羽目になったんじゃないかって思ったから、飛び出しちゃったわけなんだけどさ。
「(ボソッ)チッ……」
……だって、大男の権田さんがキルヤ君に絡んだ時、キリカちゃんが例の極薄ゴムに手をかけていたからね……。
あのまま放っておいたら、権田さんが大怪我してしまったかもしれない。
それを防げたわけだし、キルヤ君もこれからは迂闊なメスガキムーブは控えてくれるかもしれないし――うん、これで良かったと思っておこう。
「さて、改めまして――第四の試験の会場へと移動いたします」
とにかく、次が最後の試験だ。
ここまで来たんだから、絶対合格するぞー!
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