24本目「過酷! ヤリマンランク試験!!(前編)」
「的当てかー……」
冒険者ギルドって言ったら、的当てだよねー……ここはボウケン者ギルドだけど。
「第二の試験では、皆さまのエンコウ力を見ます」
エンコウ……遠距離攻撃の方だよね、もちろん。
なるほど、あの的に向かって槍――否ヤリを投げるなりして、どれだけエンコウができるのかを見る試験ってわけか。
「……うーん……」
ちょっと難しそうだ。
僕はエンコウについてはほとんど練習していないというのもあるし、たとえボールだったとしても狙った位置に投げるって結構難しかったはずだ。
ましてやヤリだしなぁ……。
「ちなみに、これって外すより当てた方がいいんですよね?」
「そうですね――本来は受験者に話すことではありませんが、
いやっほう!
男心をくすぐるのが上手いお方だぜ……!
「ランク試験の合否は、複数の試験での総合得点で決めます。
ですので、極端な話、この的当てで的中させる必要はありません。もちろん、的中させた方が得点は高くなるため合格の可能性は高くなりますが」
「なるほど……」
「ちなみにですが、今回の的当ては再挑戦が可能ですよ?
投擲するヤリについてはこちらで貸し出しいたします」
……? ちょっと引っかかるところはあるけど……まぁ納得がいかなければ当たるまでリトライOKってのはわかった。
きっと、当たるかどうか、飛距離がどこまであるか、とか見るんだろうな。
「ねぇねぇみどりちゃん! ボク、自分のヤリでやっていい?」
「いいですよ。キルヤ君のヤリをとっていらっしゃい……あとみどりちゃんは禁止です」
「やった! ちょっと取ってくるねー」
そう言ってキルヤ君は隣の酒場へと戻っていく。
あー、そう言えば確かにキルヤ君はここまでヤリを担いでいなかったなー。僕はしっかりと担いだまま移動してたんだけど。
っと、そうこうしているうちに他の受験者たちが追いついてきた。
……皆して荒い息を吐いていて、今にも倒れそうな感じだったけど。
「皆様、第二の試験は既に始まっております。
とはいえお疲れでしょう。こちらでお飲み物を用意してあります」
碧さんがどこからか飲み物を持ってくる。
「一杯500円となります」
金とるのかよ!!
しかもぼったくり価格!!
恨めしそうな顔をしつつも、長距離走をやらされた他の受験者は飲み物を購入して一息ついていた……僕はお金もったいないし、まだ大丈夫だから我慢するかな……。
「ただいまー♥ あれ? まだ皆ヤってないの?
じゃあボクからでいーい?」
「はい、どうぞキルヤ君」
皆息も絶え絶えだからね……。
で、戻って来たキルヤ君はやる気満々なのはいいんだけど……。
「……それ、ヤリなの……?」
キルヤ君のマイヤリは、一言で表せば『死神の大鎌』だ。もちろん、刃の部分は偽物だけど。
「ヤリだよ! ヤリは自由だって、おじいちゃんが言ってた!」
「……おじいさまの言うことは全てに優先する……」
相変わらずの無法っぷりだ。
ともかく、一番ヤリはキルヤ君が務めることとなる。
「じゃ、いっくよ~♥」
ヤリ……いや、鎌の柄ギリギリのところを片手で持ち、大きく振りかぶって投擲!
回転する鎌が大きく弧を描きながら離れた的を薙ぎ払い――またキルヤ君の手元へと返ってくる。
――まるでブーメランだ。
「こんなのアリなんですか?」
「もちろん、アリですよ?」
碧さんもアッチ側の人間なんだなぁ、やっぱり……。
まぁヤリを投げての遠距離攻撃という意味では間違ってないんだろうけどさぁ……。
キルヤ君が壊した的は床に沈み込み、代わりに新しい的がせりあがってくる。
無駄にハイテクだなぁ……。
「(ボソッ)さっさと終わらせよう」
次はキリヤちゃんが前に出た。
彼女が手にしているのは……小さな棒? リレーとかで使われるようなバトンだった。
……あんな短いヤリなんてあるのか?
特に構えることもなく、無造作にキリヤちゃんが手にしたバトンを振るうと――
「おおっ、すごい!?」
バトンを振ると同時に、しゃこんしゃこん、とバトンが
あれか、伸縮式の警棒……それのヤリ版ってことなのだろう。
しかも長く伸びるだけでなく、ゴムのように節々が繋がれているらしくて、まるで鞭のようにしなっていた。
キリヤちゃんの振るったヤリの先端は、見事に的の中心を貫いていた。
「すごいでしょ~♥ 最新式の超薄型ゴムなんだよ~♥」
あー、そういうことか。
あのバトン状の内部に、薄い筒状にした板がたくさんあり、振ると同時に伸びていくタイプのゴムってことらしい。
耐久性は普通のゴムよりも相当劣るだろうけど、射程距離とスピードが尋常じゃない。
もし目の前であれを振るわれたとしても……きっと僕は反応できずにぶっ飛ばされてしまうだろう。
「次は貞雄じさんの番だね♥」
「(ボソッ)さっさとしろよ、グズ」
「ねぇねぇ、ボク、アレ見たいなぁ~♥
壁ごと全部吹っ飛ばして『何かやっちゃいました?』ってやつ♥」
無茶苦茶言うなぁ……。
エンコウ慣れてない僕だと、精々適当にヤリを投げて『僕のエンコウが弱すぎって意味だよな?』にしかならない気がするけど。
…………いや、待てよ?
「碧さん、念のため確認ですけど、ヤリの投げ方って自由でいいんですか?」
「? はい、白線より前に出なければ
よし、ならば。
僕はマイヤリを手に白線の前に立つ。
的までの距離は……多分10メートルくらいだろうか? まぁ普通に投げても届くかどうかってところだろう、的中させるなんてほぼほぼ無理だと思う。
だから僕は――
総合得点で合否が決まるというなら、他のところで点数を稼げればいい。
というわけで、凄い技を見せたキルヤ君たちに対抗して、僕は『ネタ』で勝負することにした。
「よっと」
ヤリを手ではなく右足の甲へと乗せ――
「そいやっ!!」
姫先輩みたいに回転の遠心力を乗せるなんてことは流石にできない。
上手い具合にバランスをとりつつ、ボールを蹴りだすように前方へとヤリを蹴る。
「お! すごい、当たった!?」
僕の蹴りだしたヤリは、前方の的へと当てることができた。流石に中心を貫くなんて都合のいいことはなかったが。
うむ、失敗しても構わないし『ネタ』のつもりだったけど、思いがけず命中できたのは幸運だった。これで合格に一歩近づけただろう。
「碧さん、これでOKですよね?
……あれ? 碧さん?」
振り返って見ると、碧さんは真剣な表情で僕を見ていた。
それどころか、キルヤ君たちもぽかーんとした顔で僕のことを見ている……キリヤちゃんは相変わらず顔が見えないからわかりづらいけど、前髪の奥から視線をビンビンに感じる……。
「…………僕、何かやっちゃいました?」
『神聖なるヤリを足蹴にするとは!』なんて怒られるのかと思ったけど……姫先輩もやってたし大丈夫だと思ったんだけど……。
「――はっ!? い、いえ。問題ありません、童妙寺様も第二の試験終了です。
他の方の試験が終わるまで、しばしお待ちください」
「は、はぁ……」
問題はないみたいだ。
……妙に間が開いたのが気になるけど……。
ともあれ、無事に第二の試験も突破できたみたいだし、お言葉に甘えてちょっとのんびり待たせてもらうかな。
ふふん、ちょっと気分もいいし、ここは自分へのご褒美にぼったくりジュースでも飲もうかな♪
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ほう……どうやら面白い者がおるようだ。
――そうか、あの者が颶風院の娘の『さぁくる』に入ったという男か。
ふむ、ここはひとつ、余が直々に試してみるか」
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