23本目「挑戦! いざボウケン者ギルドへ!!(後編)」
テクテクテク……。
僕たちは
試験会場に向かっているのだろうことはわかる。結構離れてるのかな?
「そう言えば、キルヤ君たちもランクFなんだね」
年齢制限があるからって言うのはわかるけど、この前ランパしてみた感じだと既に本多先輩とも十分やりあえそうに思えたけど。
「まーねー。飛び級してもいいじゃんって思うんだけど、おじいちゃんがダメって言うからさー」
「おじいちゃん――確かランサー協会の会長さんだっけ?
……あれ? この『冒険者ギルド』でのランク試験は別物なの?」
ちょっと混乱してきた。
先輩たちの話によればランサー協会っていうものがあり、そこの会長がキルヤ君たちの祖父だという話だった。
でもランク試験は冒険者ギルドで行われている……僕はまぁ別にいいんだけど、会長の身内ともなると別の組織でのランクを取ったりしてもいいのだろうか?
「
トットットッ……。
先頭を歩く碧さんが
「結論を言えば、『ランサー協会』と『ボウケン者ギルド』は
「名前が違うだけってことですか?」
「はい。
元々は『ランサー協会』という呼び名だったのですが、近年になって『ボウケン者ギルド』という呼び名に改められました」
「……なんでまた?」
「『若者にも馴染みやすいように』という理由からですね」
…………冒険者ギルドなんて名前、馴染みがあるのはごく一部の界隈の人だけだと思うけどなぁ……。
まぁ元ランサー協会の人たちが決めたことだし、僕が何か言うこともないけどね……。
「でもなんで『冒険者』なんですか?」
ダッダッダッ!!
冒険者と槍は結び付けづらいと思うなぁ。
ファンタジー世界だったら槍を武器にする冒険者とかは普通にあるだろうけど、槍だけじゃなくて剣とか魔法とか色々と使うだろうし……。
その疑問にも碧さんは続けて
「ボウケン者の『ボウケン』とは、
大昔、剣術や槍術等がヤリから枝分かれし広まるにつれ、ヤリに対する蔑称として用いられていました。
長い柄と刃を持つため、棒と剣でボウケンと呼びます」
へー。僕の思う『冒険者』ではなく『棒剣者』ってことか。
……あと今更だけど、さらっと言ったが槍とヤリって別物扱いなんだ……。
「明治から大正にかけて、英語で『ランサー』と呼ぼうということになり、ランサー協会と名乗るようになりました」
その当時は
ともかく、ランサー協会はそこから(なぜかよくわからんけど若者向けに)ボウケン者ギルドへと名を改めたってわけね。
「ねー、みどりちゃん! ボクたち、ほんとに飛び級しちゃダメー?」
「ダメですよー、会長にも言われてるでしょう? あと、お仕事中なのでみどりちゃん禁止!」
「キル」
……お? 今の声って、ひょっとしてキリカちゃん??
何気に初めて声を聞いたかもしれない――でもどこかで聞いたことがあるような、ないような……?
「おじいさまの言うことは全てに優先する」
「あー、はいはい。わかってるよぉ~」
キリカちゃんはかなりのおじいちゃん子なのかもしれない。言われたことをしっかりと守り、ランクFの試験でも文句ひとつ言わない。
キルヤ君も本音ではわかってるんだろうけどね。
「さて――皆様、これから昇りになりますので、遅れないようにしてくださいねー」
行く先にはどこまで続いているのかわからない昇り階段が。
……どこまで続くのかというより、どこに続いているのかが不安になってきてるんだけど……闘技場から隣のビルにいつの間にか移ったのか?
ここまでの間、それなりの距離をぐるぐると進んでいたけど、段々とペースが上がってきていることには気付いていた。
僕らは碧さんのペースにもついていけてるが、他の人たちは……大分怪しい感じだ。ついていけずはぐれてしまった人もいるかもしれない。
「……童妙寺様、体力がありますね。以前、ヤリ以外のスポーツでもやっておられましたか?」
「あ、はい。高校の時にテニスを。
とはいっても、引退してから受験勉強漬けで大分鈍ってる感じですけどねー」
まぁまだ若いし、鈍っていた身体もここ最近のサークル活動で大分ほぐれてきたかな? 全盛期にはまだまだ及ばないのは自覚できているけど。
そんなこんなで、碧さんとの軽快なトークを楽しみつつ階段を昇り、廊下をダッシュし、今度は階段を降り、また廊下をダッシュし、昇り……と繰り返しているうちに後続と距離がかなり離れていってしまった。
「あ、あれ? キルヤ君とキリカちゃんがいない!?」
何か妙に静かだなーと思ったら、いつの間にか二人の姿が消えていた。
まさか遅れてしまったか?
「大丈夫ですよ、あの子たちなら。
うふふ、わたくしが童妙寺様を獲ってしまって退屈したのでしょう。後ろの方へと下がって、遅れ気味の方を応援しているようですよ」
「へー! あの子たち……優しいところあるんだなぁ」
キルヤ君もメスガキ風味に弄ってくるところはあるけど、ママみもあるし、余裕があれば同じ受験者の応援をしようとしてもおかしくはない。
……キリカちゃんの方はよくわからないけど……キルヤ君と同じなんだろう、きっと。
「さぁ、ラストスパートですよ!」
「! はい!」
二人の優しさにほっこりしつつも、僕は二人のように他の人を励ませるほど余裕がない。
僕も二人に負けないように頑張らないとな!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「え~? もう走れないのぉ~?
根性なし♥ アハハ、腰ヘコヘコさせちゃってカッコわる~♥
ほ~ら、もっとがんばれ♥ がんばれ♥」
「(ボソッ)小学生にも劣るとか……ウジ虫並」
「ほらほら~♥
もーっと前へイかなくちゃ♥
イけっ♥ イけっ♥
オラッ♥ イけっ♥♥♥」
「(ボソッ)まだ試験すら始まってないのに……この程度……?」
「やぁだ~汗いっぱーい♥
汗をいっぱいぴゅっぴゅできてえらいでちゅね~♥」
「(ボソッ)ハァハァハァハァ……発情でもしてんの? キモっ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふぅ~、流石に汗かいたなー」
しばらくして、ゴールへと到着。
碧さんに続いて僕。少ししてから後ろで皆を応援していたキルヤ君たちも到着。
……更に後方からこちらへと必死に走ってくる受験者が何人か見えているけど……。
「お疲れ様でした、皆さま」
まだ到着していない受験者を待つ気はないらしい。
碧さんは息一つ切らせず、汗も全くかいていないようでばっちりメイクは崩れていなかった。
……ただの受付嬢じゃないよねー、やっぱり。彼女も相当なレベルのヤリマンと見た。
それはともかく――
「……結局、あちこち走り回らされただけかー……」
僕たちが到着したのは、最初に出発した謎の酒場風の部屋のすぐ隣だった。
……いや、逆にあれだけあちこち走り回って隣の部屋にたどり着けるほど、複雑な作りをしているのかもしれない……。
「第一の試験『体力試験』はこれにて終了です♪」
「あー、やっぱり試験だったんですね……」
「ええ、今回から新たに追加された試験なんですよ」
先輩からは簡単な実技と筆記だけって聞いてたからなー。何かおかしいとは思ったけど。
「それでは、続けて第二の試験へと移りたいと思います」
まー、試験内容について文句言える立場でもないか。
碧さんが軽く手を掲げ指し示す方には――いくつもの『的』が離れた位置に並んでいた。
「第二の試験は――『的当て』です♪」
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