7本目「歓迎! ようこそヤリサーへ!!(後編)」

 宴は続く……。







「本多先輩! これは何ですか?」


「おう、苦めの炭酸ジュースビールだ」







「本多先輩! これはなんですか?」


「おう、ぶどうジュースワインだ」







「本多先輩! これぇなんですかぁ?」


「おう、日本酒だ」







「本多せんぱい、これぇなんれすかぁ?」


「おう、焼酎だ」







「ほんだせんぱぁい、こりゃなんすかぁ?」


「おう、口直しのウーロン茶ウィスキーだ」







「ほんだしぇんぱぁい、こりぇなぁに?」


「おう、ウォッカだ」







◆  ◆  ◆  ◆  ◆







 …………。

 ……。

 ……はっ!?




「ここは……どこだ……」




 目が覚めたら知らない天井だった。

 あれ……? 昨日は何してたんだっけ……?




「おう、起きたか新人」


「…………本多先輩?」




 部屋のドア……いや襖を開けて入って来たのは本多先輩。

 きょろきょろと辺りを見回してみても、小さな和室であることはわかるものの僕の知っている場所じゃない。

 っていうか、何か昨日の記憶が曖昧なんだが……。




「えーっと、すんません。ここどこですかね?」


「おう、『くあどりが』の2階――というか俺の家だ」




 ということは……。




「昨日の店って、本多先輩の家だったんですか?」


「そういうことだ。正しくは、俺の家ではなく親戚の家だがな」




 本多先輩曰く、親戚が『くあどりが』を(半ば趣味で)経営しているそうだ。

 で、経営者自体はこのお店とは別の場所に住んでいて2階の住居部分はまるまる開いている状態で、本多先輩はヤリ学にも近いしということで住まわせてもらっている、ということらしい。




「……僕はなんで……?」


「そりゃー、お前が寝ちまって終電とかもなくなったからだな」




 おーぅ……全然覚えていないけど、そういうことか……。




「うわ、すいません!」


「ははは、気にするな! 他の面子も時々泊まってるしな」




 どうやらこの店はヤリサーの行きつけの店であると同時に、いざという時の宿泊場所になっているようだ。

 今回は僕が途中で寝てしまって帰る術もなくなったので、泊めてくれたというわけか……。

 うぅ、いきなり迷惑をかけてしまった……。




うちヤリサーの飲み会とかは『くあどりが』でやることが多いし、何らかの事情で帰れなくなった時に泊まりに来るやつも多い。

 お前も遠慮なく使っていいぞ」


「は、はぁ……」




 まぁとは言われても、こっちが後輩だしどうしたって遠慮はしちゃいそうだけどね。

 本多先輩は3年生だし、来年にはサークルも引退しちゃうだろうからあまり甘えてばかりもいられない。

 ……って考えてることからわかる通り、僕はとりあえずヤリサーを続ける気にはなっている。

 彼女率100%の謎はわからないけど、それを除いても――やっぱり昨日の飲み会が楽しかったからという理由も大きい。後半から全然覚えてないけど。

 …………そして、なんだかんだで本多先輩と植井先輩以外の男の先輩の名前も全然覚えてないけど! いや、そもそも自己紹介すらした記憶がないな……。




「そうだ、新人。おまえバイトしてるか?」


「え? あ、いやまだしてないですね。しようかなとは思ってましたが」




 伝説のヤリサー探しに奔走していたため、バイト探しをしている余裕がなかったのだ。

 ちなみにだけど、僕は田舎から上京して今は一人暮らしをしている。

 親からある程度の仕送りは貰えることになっているけど頼り切りになるわけにもいかないだろう。

 ……彼女ができたら、そのデート代を親にせびるなんてこと、絶対にしたくないし。




「もしバイト先に悩むようなら、『くあどりが』で働くって手もあるぞ。うちのサークルメンバーも何人か働いているしな」


「ふむ……考えておきます」




 バイト先に拘りはないし、大学の近く&顔見知り (とまだ言えるほどじゃないけど)もいるお店となると、悪くはないかもしれない。

 ……サークル辞めちゃったらめちゃくちゃ気まずくなるだろうけど。




「そういえば、他の先輩方は……?」




 見たところ僕一人だし聞くまでもないかな。




「他のやつらは昨夜のうちに帰ったぞ。何人かはオールで飲んでるだろうがな」




 そっかー……もしかしたら、本多先輩は僕のためにこっちに残ってくれたのかもしれない。

 その点については申し訳ないかな……。

 これからは酔いつぶれたりしないように気を付けよう。

 ……あれ? その割には二日酔いってやつにはなってないような気がする。

 僕って案外お酒強いのかも? いやでも潰れて寝ちゃったしな……この場合どっちなんだろう??




「まー、あれだ。お前は酒はセーブした方がいいな。それよりもまずは飲み会に『場慣れ』した方が良さそうだ」


「そうですかね? 寝ちゃいはしましたけど、頭とか全然痛くないですよ?」


「そりゃそうだろうなぁ……


「??」




 最後の方、小声だったので良く聞こえなかったな?

 まぁとにかく、『場慣れ』しとけっていうのには同意だ。

 これについては、今後もヤリサーにいる間に次第に慣れていくだろうとは思うけど――ああそうか、次の飲み会くらいからは僕もお金を払わないとだな。そのためにもバイトは早めに決めておかないと。




「と、とにかく……助かりました」


「おう、気にするな。新人の世話をするのも先輩の役目だしな」




 ……そういうところは本当に先輩らしいんだけどな、この人……。

 さておき、このまま先輩の家に厄介になっているわけにもいくまい。

 僕は身支度を整え――とはいっても着の身着のままだけど――一度家に帰ることにした。

 今日は休みの日だし、学校に行く必要もない。

 先輩に改めてお礼を告げて、僕は家路へと着く――




「バイト先、探してみるかぁ……」




 『くあどりが』で働くのもいいけど、サークルも(一応は)決まったことだし少しは自分で動いてみるか。

 時給とか次第では掛け持ちという手もありえるしね……。

 帰り道でバイト情報誌でも手に入れておこう、そう思うのであった。







 なにはともあれ、勘違いから入った『ヤリサー』だけど……僕はそのまま続けることに決めたのだった。

 彼女持ち率100%にも惹かれているけど、やはり姫先輩――彼女の存在が大きかったことは言うまでもない。

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