6本目「歓迎! ようこそヤリサーへ!!(前編)」
春の新歓ランパは滞りなく終了した。
……普通のスポーツの試合とかとは違って、トーナメントとかで優勝を決めるということもなく、参加者が適当に組み合わせを決めてランパするって感じだったようだ。
ある意味では確かに
これでリングが複数あったら舞踏会っぽくはなるとは思う……だからどうしたって話ではあるけど。
さておき、春の新歓ランパは終了し、会場の後片付けを皆で終わらせた。
他の大学のサークルメンバーも手伝ってくれたおかげで割と早めに終わったのは良かった。まぁリングをバラして片付けるだけだったしね……。
尚、心配していた弁慶さんだけど、いつの間にか復活していてその恵まれた体格を活かして誰よりも重い物を運んでくれていた。良かった良かった。
会場を後にしたのは夜7時ちょっと前くらいかな。
4月の終わりとは言え、もう辺りはすっかりと暗くなってきている。
「よし、それじゃあ移動するぞー」
「「「うぃーっす」」」
本多先輩の号令の下、ヤリサーの面々が移動を開始する。
そういやどこに向かってるんだっけ?
「あのー、本多先輩。これから行くところって……?」
歓迎会の場所なのは間違いないだろうけど、どこでやるのか聞いていない。
「おう、大学の近くの、俺たちの行きつけの飲み屋だ」
「飲み屋ですか……」
まぁそうだろうなとは思ったけど、やはりか。
うーん……タダ飯はありがたいんだけど。
「えーっと、僕未成年なんですが……」
めちゃくちゃ勉強頑張って現役合格したので、今年で19歳になるところだ。
成人年齢は18になったとはいっても、飲酒喫煙が20歳からなのには変わりない。
まぁ飲まなければ別に問題はなかった……と思う。流石に立ち入り禁止ではなかったような?
お酒に興味がないと言えばウソになるけど。
「――新人」
と、本多先輩が意外なほど真面目な表情で僕と向き合う。
いつもの雰囲気とは全く異なる本多先輩の様子に、僕も気圧されつつも真剣に向き合う。
「うちの大学が結構レベル高いのは知ってるな?」
「はい、そりゃもちろん」
一概に偏差値が高い=すごい大学というわけではないとも思うけど、少なくとも入学のための『難易度』という意味ではすごい難関大学だという認識は間違っていないだろう。
我らがヤリ学は比較的新しい歴史の浅い大学ではあるが、偏差値ランキングではトップ。日本一の難関大学と言っても嘘にはならないはずだ。
本多先輩は続ける。
「お前はそんな大学にがんばって入学した。おめでとう」
「ありがとうございます……?」
「お前は勉強のしすぎで疲れているんだ。
――お?
「
…………。
「そうだな?」
「――その通りっす!! うっかりしてました! 僕20歳でした!!」
「よし、何の問題もないな!」
うん、これで問題なしだ(※大問題です)。
全ての問題を解決した(※してません)僕たちは、意気揚々と歓迎会の場となるお店へと向かって行くのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
居酒屋『くあどりが』――ヤリ学の割と近くにある、こじんまりとしたお店。
チェーン店ではなく、個人経営の小さなお店なのだろう。普通の家を改造して1階部分を店に、2階から上を住居にしているように見えた。
「それでは、春の新歓ランパの成功と新人の加入を祝って――乾杯!!」
「「「うぇーい!!」」」
…………あれ? よく考えたら、僕って本多先輩たちくらいにしか自己紹介してない気がするぞ?
まぁ、いいか……大学のサークルなんて飲めればそれでいいってノリなんだろうし(※偏見)。
「はぁ……」
初めての飲み会、そしてタダ飯はいいんだけど……。
僕が悩むのはやっぱり、このヤリサーに入り続けていてもなぁ……ということだった。
まー、よく考えたら、(性的な意味での)ヤリサーが堂々と『ヤリサー』は名乗らんよなぁ……何で気付かなかったんだろう。
姫先輩は可愛らしいし、ぶっちゃけドストライクではあるんだけど。
多分、今集まっているのがヤリサーのメンバー全員なのだろう。姫先輩以外は見事に男しかいない。
本多先輩、植井先輩、それに後は――名前知らないけど、スキンヘッド、ドレッドヘア、モヒカン、ぼさぼさ頭etc……男ばっかりだ。しかもムサい感じのしかいないや。
『槍』のサークルだし、きっと体育会系だろうしなぁ……。
「うぇーい、新人」
「あ、植井先輩……」
始まって早々めちゃくちゃ盛り上がってる先輩たちについていけず、隅っこの方で大人しくしている僕に
……話しやすさという意味では、植井先輩は話しやすい方なんだよな。一番会話したいのは姫先輩で、一番会話してるのは本多先輩なんだけど――いや本多先輩ときちんと意思疎通できてるとは言い難いかもだけど。
「……新人さー、お前――ここをエロい方のヤリサーと勘違いしたクチだろ?」
「……っ!!」
声を潜め、ささやくように植井先輩がそう言ってくる。
図星だ……。
僕の反応を見て正解だと思ったか、植井先輩がニヤリと笑う。
「わかるわー。実は俺もそうだったんだぜ?」
「マジすか」
いや言われてみたら違和感ないな。どっちかと言うと僕の望んだヤリサーとかにいそうなタイプだし(※失礼)。
……ん? でも、僕と同じく勘違いして入会した割には植井先輩はまだサークル続けてるんだな?
さっきまでのランパでも、植井先輩も出場してたし――秒で負けてたけど。
「そんな新人に朗報だ」
「ほう」
ささっと周囲を窺うと、僕の耳元に口を近づけて小声でささやく。
「このサークルの男――
「え!?」
なん……だと……?
「本多先輩とかもですか?」
「おう、もちろんだ。同じ大学だからどこかで会うこともあるだろうぜ」
うっそだろう……?
植井先輩はまぁまだともかくとして、
え、まさか
「信じるか信じないかはあなた次第です」
僕の考えはお見通し、と植井先輩は笑う。
そして自分のスマホを取り出し、カバーの内側に貼ってあった
「な?」
「信じはしますけど……」
キスプリはやめーや。見たくないわんなもん。
でも、少なくとも植井先輩に彼女がいるのは確かだろう。
僕を勧誘するためだけに、わざわざ
「んでさー、お前……姫狙いだろう?」
「うっ……!? ど、どうしてそれを――」
「愚問だな」
そんなわかりやすかったか?
……わかりやすいか。女子会員一人しかいないし。
「そんなお前に更なる朗報だ。
――
「――ッ!!」
まるで僕が次に何を言うかを予知しているかのように、植井先輩は衝撃の事実を告げる。
『どうせ姫先輩にも彼氏がいるってオチでしょ?』――そう言おうと思ったのに、先手を取られた。
ここが好機と見たか、植井先輩がラッシュを叩き込んでくる。
「今フリーどころか、今までに男と付き合ったこともないらしいぜ?」
「ま、ま、マジですか……!?」
あんなに可愛らしいのに!?
――いや、逆に考えれば、美人でお嬢様然としているが故に近寄りがたいのかもしれない。あるいは、本当のお嬢様で女子高に通い続けていたとか……まぁ色々と理由は思いつく。
重要なのは、植井先輩の言葉が事実かどうかだ。
……信じてもいいんじゃないか、僕はそう思っていた。
望んでいたヤリサーではないからと去ろうとしている僕を繋ぎとめるために嘘を吐く、という可能性はゼロではない。
けど、その嘘が通じるのはわずかな時間だ。長い目で見れば何の意味もない同然だろう。
嘘を吐く理由があまりない。
「信じるか信じないかはあなた次第です」
ニヤッと笑うと、パンと軽く僕の背を叩く。
「ま、それはともかくとしてだ。今日の歓迎会の主役はお前だからな! 折角なんだしもっと楽しみな!」
「…………はい、ありがとうございます、先輩!」
それを合図に、一気飲み(※危険)をしてバカ騒ぎをしていた他の先輩たちもこっちを向く。
「おう、新人。遠慮なんてする必要ないぞ! 好きな飲み物と食い物をじゃんじゃん頼んでいいからな!」
「はい!」
――本多先輩の言葉に、僕ははっきりと頷いた。
望んだヤリサーとは違うけれども、『ここ』が楽しそうだということだけは伝わってきている。
……正直、隅っこで大人しくして皆のバカ騒ぎを見ていて寂しいという思いもあった。
折角の大学生活だ。
しょっぱなから引きこもってちゃ詰まらない。
僕は自ら前へと進まなければならないのだ。
……本音?
彼女持ち率100%に惹かれたに決まってるだろ!!
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