5本目「開演! 春の新歓ランパ!!(後編)」
リングに上がった姫先輩。
対角線上に相手もまたリングへと上がって来た!
「むぅ……『サオ学』の主将か」
本多先輩が唸るようにそう呟く。
相手は本多先輩に勝るとも劣らない大男だった。
当然、姫先輩とは比べるべくもない。
……そもそも、姫先輩は女性にしても結構な小柄な方だと言える。
…………の割には胸が大きいので、昔で言うトランジスタグラマー、今風に言えばロリ巨乳というやつだったりする。たまらん!
「だ、大丈夫なんですか? あんなでかいヤツ相手にして……!?」
これが僕の想像していたような乱パだったら、むしろ興奮してくる組み合わせなんだが!
そういうわけではないのはもうわかっている。
ここから始まるのは、槍使い――いや『
しかもお互いに防具もつけていない。
……漫画じゃあるまいし、小柄だけど大の男を凌駕する腕力を姫先輩が持っているとも思えない。
このままじゃ怪我だけで済まないのではないか、と心配するのは自然なことだろう。
「サオ学のヤリサー主将、
ヤリマンランクはA――初戦から飛ばしてくるな」
が、本多先輩をはじめヤリサーの面々は全く動揺した様子はない。
それはリングに上がった姫先輩も同じだった。
むしろ、穏やかな微笑みを浮かべたままなくらいだ。
…………っていうかスルーしたけど、『ヤリマンランク』ってなんぞ? 剣道とかの『段』みたいなもんか?
ともあれ、姫先輩と『サオ学の弁慶』がリング上で対峙。
二人の間にレフェリー、というか審判? も上がる。
……ますますボクシングっぽい感じだなー……。
「はじまるぞ、よーく見ておけよ」
「は、はぁ……」
ふと周囲を見ると、リングが一つしかないからという理由もあるが、皆の視線が集中している。
それだけ姫先輩の試合――ランパに注目すべき点がある、ということなのだろう。
どこの大学かは知らないけど、ノートPCを出してキーボードをカチャカチャしているやつもいる……データ系のかませっぽいやつだなー。
レフェリーが二人の間で手を掲げ、宣言する。
「JS4ホ別3?」
「了承です」
「いいだろう!」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!?」
さっきまでのちょっと真面目だった雰囲気どこいった!?
「おいおい……新人、どうした? 声を出すのは応援の時だけにしておけ?」
「いやいや、おかしいこと言ってませんかねぇ!?」
隠語じゃねーか、明らかに。
しかも
……なんで隠語を知ってるかって? 調べたからだよ!! 直前で怖くなって止めたけどな!
「? 誰もおかしなことを言っていないが?」
「いやいや、今明らかにパパ活用語っぽいの使ってたじゃないですか!?」
「――ああ、ヤリ用語がわからないから混乱しているのか」
勝手に納得する本多先輩。
混乱しているのは確かだけど。
「今レフェリーがやったのは、ルールの確認と合意だな」
「ルール……?」
「おう。JS――ジュニア・シニアのルールに則っていること。その次の4は、ジュニアルールに対して追加する……そうだな、シニアルールを適用する範囲を示している。
ちなみに、最近では『10yo』と略したりもするな」
その『10』とか『yo』はどこから出て来たんだと問い詰めたい。
シニアルールの適用範囲? 興味ないわ。
「ホ別は、まぁ言わんでもわかるだろう」
「わかんねっす」
この流れで僕に何をわかれというのか。
「そうか? 『ホ』――穂先は『別』――シニアルールとは異なりきちんと
そして最後の3は、3本勝負となる」
「なるほど――何から何までおかしいっすね」
「なにがだ?」
くそぅ、突っ込む僕の方がヤリサーの常識から外れてて突っ込んでも効果がない!
「そんなことより、お前への説明で進行を止めてしまったな。
すまん、はじめてくれ」
僕が悪いのか……? いや、ヤリサーの面々からしたら悪いんだろうなぁ……納得いかねー。
本多先輩の言葉に、リング上のレフェリーが頷き姫先輩たちに構えを促す。
全然納得いってないけど、これ以上進行を妨害するわけにはいかないか。
諸々呑み込み、僕もリング上へと視線を向ける。
「両者構え――始めッ!!」
レフェリーが
次の瞬間――
ダダンッ!!
パンッ!! 「うおっ!?」
ダンッ!! 「ぐぼぉあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ドダンダンッ……ゴトン
「…………」
勝負が一瞬で終わった。
何が起こったかわからずぽかーんとする僕。
結果だけ見れば、対戦相手の弁慶がリング外へと吹っ飛ばされていった。
リング外に落ちたまま動かない弁慶へとレフェリーが寄って、左腕を取り――首を横に振る。
「勝者、颶風院姫燐っ!!」
3本勝負だったはずだけど、戦闘不能により決着がついたらしい。
戦闘不能っていうか……大丈夫なのか、弁慶さん……?
「どうだ、新人」
「とりあえず弁慶さんが生きてるのか不安でたまりません」
脈とって首横に振るってもうアウトなんじゃないかな。
「おう、問題ない」
問題ないすか。
あ、おそらくサオ学のサークルメンバーなのだろう、男が数人で弁慶を運んでいってる……大きな騒ぎになってないってことは、まぁ本多先輩の言う通り問題ないんだろう、きっと。
「どうだ、新人」
やり直すのかよ。
「……何が起こったのかさっぱりでした」
素直に僕は答えた。
始まった瞬間に終わったとしか思えなかったのは事実。
うむうむ、と本多先輩は嬉しそうにうなずく。
「姫のランコウの凄さは『そこ』にある」
「はぁ……」
「新人も経験を積んで立派なヤリマンとなれば、今の姫のランコウも見切れるようになるだろう――実際に対峙したとしてもさっきの弁慶と同じことになるだろうがな」
それは嫌だなぁ……っていうか、薄々わかってはいたけど男でもヤリマンなんだ。
「先程のランコウだが、まず開始と共に互いに踏み込み突きを放つ」
ダダンッ!! のところかな。二人同時の踏み込みの音か。
「この時、弁慶の放った突きを姫の突きが迎撃した」
パンッ!! で姫先輩の槍が相手の槍の先端を突いて迎撃。「うおっ!?」は予想外に突きを弾かれて体勢を崩したところか。
「そして止まることなく姫がとどめの突き――弁慶は為す術もなく突きを食らい、吹っ飛ばされたという流れだな」
……槍の素人だけど、それがかなり凄いことだというのは僕にもわかる。
自分を狙って突いてきた槍の穂先を正確に迎撃、どころか弾いて相手の体勢を崩すなんて簡単にできるものではないだろう。
しかも、姫先輩は弁慶よりも体格的にかなり劣っているとしか言えない。筋力の差は普通の男女差以上のものがあったはずだ。
なのに姫先輩はそれをやった。
加えてすぐさま追撃し、大男を一撃でノックダウンしたのだ……。
「……世界レベルか……」
確かに姫先輩のランコウは凄かった。
何が起きたのかすぐには理解できなかったけど、『大男と対峙して一瞬で勝った』という点だけ見ても凄いのには違いない。
……でもなぁ……ここ、僕の求めた『ヤリサー』じゃないんだよなぁ……。
そんなうだうだと悩み続ける僕に当然構うことなく、ランパは進んで行く――
時々本多先輩が解説してくれたり、うちの学校のヤリサーの面々のランパがあって結果に一喜一憂したり爆笑したり……勝っても負けても彼らが楽しんでいるのは伝わって来た。
完全に退き時を見誤ってしまった僕の内心に気付くこともなく、ランパの切れ目に本多先輩が言った。
「この調子だと新人の体験会は時間がなさそうだな。
だが、安心しろ、新人!」
「え? なにがです?」
「ランパの跡片付けが終わったら、そのままお前の歓迎会はやるからな! 新人だし、当然会費はタダだ!」
おう……なるほど?
大学と言えばサークル、サークルと言えば飲み会 (※偏見)。
変なサークルではあるけど、このヤリサーもそういうところは普通の大学生っぽいことをやるらしい。
うーん……既にヤリサーから逃げることを考えてはいるけど……。
「らじゃっす!」
タダ飯食えるなら行くっきゃねぇっ!!
それに、姫先輩がお酒飲んで酔ったりしたら……お持ち帰りとかできるかも!?
――そんな下心を胸に、僕はずぶずぶとヤリサーの沼に嵌っていくのであった……。
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