明日に向かって撃て!(1)
ぼくたち五人が乗りこんだ黒塗りのワゴンは、ゆっくりとガレージを出た。運転席には父さん。そのうしろの席に、縫と峰子。後部に、リアを乗せた車椅子。ぼくは座席には座らず、リアの後ろについた。
みんな、コートやマフラーで厚着をしている。リアはさらにヘアバンドで髪をまとめ、手には指先の出たレザーのグローブをはめていた。脇腹には、そこだけやけにファンシーなポシェット。弾丸入れの代わりらしい。
ワゴンはオノゴロ童子にお尻を向け、バックしながらそろそろと近づいていく。
こちらの接近に気づいたのか、オノゴロ童子が、ゆっくりとこちらを向いた。
発光部分の少し下あたりが、不自然にふくらんでいる。まるで……妊婦さんのお腹みたいだ。あの中にいるんだろうか、メイズさんが。
「もういい。充分」
リアの声で、車はスピードをゆるめた。
それでも、標的との距離は校庭の端から端くらいまである。オノゴロ童子の顔──発光する満月の部分──は、せいぜい親指の先くらいの大きさにしか見えない。
当たるのか、この距離で。
リアは、ハーフライフル──サベージの銃床をぴったり肩に当てて構え、体をきゅっとコンパクトに折りたたんでいた。右目はスコープをのぞき、左目は肉眼で相手を見ている。
スコープをのぞいたまま、片手だけで、銃の真ん中あたりについたレバーを上げる。そのまま引っぱると金属の筒がスライドして、弾倉が口を開けた。
ポシェットから銃弾を抜きとり、入れる。
ぼくは銃弾と聞いて、ボールペンの先みたいな形を想像していたけど、リアが見せてくれたのはプラスチックの筒に金属のキャップがはまっただけの、全然それっぽくない物体だった。なんというか、乾電池の親戚みたいにしか見えない。話によると、このプラスチックの中に鉛の銃弾が入ってるそうなんだけど……。
弾倉とレバーを戻すと、ガチャリと小気味のいい音がした。
「……いくよ」
リアがささやいた。さすがに声がうわずっている。
ぼくは振りむいて、みんなを見た。縫と峰子がうなずきかえしてくる。父さんはミラーごしに、オノゴロ童子の姿をにらんでいた。
ぼくは言った。
「いいよ。やって」
リアが
ばあん! と想像よりはるかに大きな音が、車の中に響く。
最初の銃弾はオノゴロ童子の足元あたりに着弾した。
アスファルトがえぐれ、破片が高々と飛ぶ。
車の中で、みなが息をのんだ。
リアだけは動きを止めない。レバーを上げる。
オノゴロ童子が、ゆらり、と動きはじめた。
第二射。今度は上にそれた。触手の付け根あたりにある黒い部分に命中し、深くえぐる。コーヒーゼリーみたいな質感の破片がまき散らされる。
一瞬、いけるか、と思ったけど、すぐにそれは失望に変わった。傷を負った部分が、まるで動画の逆再生みたいにみるみる修復されはじめたからだ。
オノゴロ童子はいまや完全にこちらを認識し、
BBBBBSSSSSOOOOO!!
吼えた。
三本の脚でアスファルトを蹴り、走りだす。
父さんがワゴンを急発進させた。
「リア……!」
「大丈夫。だいたい……つかんだ。これで……!」
第三射。
銃弾が、赤く光る満月を直撃した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます