少女たち、大人たち(3)
地下の轟音に気づいて真っ先に現場に駆けつけたのは、鷹次さんだった。
ガレージの入り口から中を覗くと、座敷牢部分はほぼ完全に岩と土砂に押しつぶされており、そこからあふれた土砂がコンクリートの通路部分まで押し寄せてきていた。
ひと目見て、ダメだと思ったそうだ。
実際、もしも格子の内側にいたらぼくは助からなかっただろう。爆薬のしかけられていた座敷牢の奥から一番遠い通路にいたこと……そして、とっさにスチールのロッカーの中に逃げこめたことが、ぼくの命を救ったことになる。
リアもまた、自分の部屋で爆音を聞いていた。
車椅子をあやつり、リアは鷹次さんからだいぶ遅れる形で玄関を出た。そのときだった。地下から、オノゴロ童子が現れたのは。
オノゴロ童子は、地下室の崩落などものともしていなかった。そのまま地中を掘りすすみ、おそらくは屋敷の床下に出た。偶然にも、例のトンネルと同じようなルートをとおったわけだ。
オノゴロ童子は床板をぶち抜き、壁や天井も破壊して、地上へ姿を現した。
やつは怒っていた。メイズさんという異物に入りこまれ、住処の箱を壊され、生き埋めにされかけて、めちゃくちゃに怒り狂っていた。光に弱い体は日光を浴びてじゅうじゅうと煙をたてて焦げはじめたけれど、それすらも、今のオノゴロ童子の怒りに油をそそぐだけだった。
オノゴロ童子は神代家の屋敷を、子供が砂のお城を踏みつぶすようにむちゃくちゃに破壊しはじめた。リアはなんとかやつの目をかいくぐってガレージへ移動し、そこで地下室の惨状を目にした。
鷹次さんは、あきらめて逃げろと言ったけど。
リアはあきらめなかった。四つんばいで階段を降りると、素手で岩をどけ、土をかいて、ぼくを掘りだそうとした。全身泥だらけになっても、爪が割れて、手が血だらけになっても、やめなかった。
そのおかげで、ぼくは今ここにいる。
同じころ、外から見張っていた父さん、縫、峰子の三人も、屋敷の異変を目にしていた。オノゴロ童子が地中から現れて建物を破壊していく、特撮怪獣映画みたいな光景に、父さんはかなり腰が引けていたそうだけど……縫と峰子がまったく怖がらずに突進していくので、後を追うしかなかったそうだ。
三人が屋敷に着いたのは、ちょうどリアがぼくをロッカーから発見したのと同じタイミングだった。オノゴロ童子は神代家の屋敷を跡形もなく破壊しつくし、集落へむかって降りていこうとしていた(あとで鷹次さんが確認したところ──リアたちのお父さんである神代鷲悟さんは、この時点で亡くなってしまっていたようだ)。
リアたちは気絶したぼくを地下から担ぎだし、集落にある民家のひとつへ運びこんだ。
みんながぼくを手当てしてくれている間、鷹次さんは
オノゴロ童子は不機嫌な酔っぱらいのように集落をうろつき回っては、目についた家や林の木々を破壊していった。やつが出現してからというもの、スマホの電波は一切入らなくなっていた。なぜか、有線の電話やネットも不通になっていて、集落は、完全に孤立した陸の孤島となってしまった。
避難してきたお年寄りたちは、
オノゴロ童子は軽トラに気づくと、猛獣のようなすばやさを発揮して襲いかかり、鋼鉄のボディをぐしゃぐしゃにたたきつぶしてしまった。中に乗っていたはずの植木店の人々は、どう考えても絶望的だった。
車での脱出は不可能。やつの目についた時点で襲われる。徒歩ならもっと無理だ。
どうしようもなくなって……
「つまり……ぼくはまだ、ぜんぜん助かってないってことか」
思わず、そうまとめると、場の全員が沈痛な顔つきになった。縫が、ううーんとうなって頭をかきむしる。
「ひばりの持ってる情報を合わせたら、弱点が見つかるかもって思ったんだけどなあ。わかったのは……今のあいつは光で弱ってて、そのおかげで
「悪い材料しかねェじゃねえか」
鷹次さんやリアの表情も暗い。父さんは、今もまだ狐につままれたような顔をしている。と、峰子がずいっ、と顔を寄せてきた。
「ね、志筑さん……ううん、ひばり。メイズさんは、あいつを『渾沌』だと言ってたのよね」
「え? う、うん。まあ……それも、ぼくをだますためのウソだったかもしれないけど」
「いや。メイズさんと関係のない話だったから聞き流しちゃってたけど、確かに洲本先生も言ってたのよ。神代鴻介は、
峰子はぎゅっと
「殺す方法が、あるかもしれない」
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