楽園のイエティ

前田 央

 

 ぐにゃぐにゃした銀色の光を見上げていた。


 光は波打ったかと思うと粉々に離散し、揺れが治まるとまた元へと戻る。

 ――帰りたい。帰らなければならない。

 使命感が胸中を満たすが力が入らない。

 頭上には美しい光と相反して、刺々しい無数の残骸が浮かんでいた。それは次第に量を増やしていき、やがて光を覆い隠してしまう。孤独と暗闇に包まれる。同時に強い眠気に襲われた。抗いがたい誘惑だった。

 このままいつしか大地に呑みこまれ、永遠ともいえる時間をかけて、再び地上へ還り咲くときが来るのだろうか。そうであればいい。漠然とそんなことを思う。

 からだは泡に呑みこまれてゆく。

 と、消えてしまったと思った光が再び蘇った。それはさっきよりも眩しい金色をしていた。あたたかさに身を委ねていると、やがて意識は光に包まれていった。



 それから月日を経た。ずっと深いところ――

 白いカニが無数に蠢いていた。光など届いたことのない常闇の世界で、彼らは懸命に生きていた。

 その中の一匹が、はさみに紐のようなもの引っかけていた。そいつはそれを大事そうに抱え、何を思ったか群れを足場に登っていた。ただひたすら、上へ上へと。

 そんなカニの意志に呼応するように、轟音が鳴り響いた。辺りは土砂が巻き上げられ、あっというまにどす黒い煙に覆われた。

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