月下異人
『月下異人』
砂漠の異人は月と旅をする。
自由の真ん中で、
振り返れば、道なき道に、足あとだけが小さく残る。
厳しい日差しを乗り越えて、ただ歩き続けた唯一の証。
嵐がくれば、それもきっと消えてなくなるのだろう。
僕らは、どこへ行く。
僕らは、どこに立っている。
僕らの足を、何が動かす。
砂ばかりが続くこの道は、とにかくつまらない。
ふと空を見上げれば、そこに月が浮かぶ。
月は、そこに影を落とさないようにと、やさしく光っていた。
月は、ひとりでに満ちたり欠けたりして、どうにも笑えた。
月は、ふとした朝に太陽を食べにやってきて、僕らを驚かせてくれた。
月は、どうしようもなく孤独な夜に、いつの間にか寄り添ってくれた。
月を目指すことは永らく人の夢だった。
月に魅入られることは人が狂えるだけの理由になった。
孤独で残酷な自由の夜に、夢を見させてくれ。
ただ道を行くことに、せめて狂わせてくれ。
異人は月と砂漠を歩く。
いずれたどり着く場所のことなど、たがいに何も知らないままで。
▼――『月下異人』――了
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