地べたに口ずさむ歌



『地べたに口ずさむ歌』




 地べたを讃えよう。


 何もかも上手くいかないと思った時。


 空の青さにくらんだ時。


 地の続く果てをたたえよう。

 

 

 太陽に燃やされるさまを讃えよう。


 その情熱が世界を産んだ。

 

 

 空に睥睨へいげいされる様を讃えよう。


 その謙虚が愛を産んだ。

 


 じっとせった様を讃えよう。


 その鈍重どんじゅうえにしを産んだ。

 


 往来おうらいに踏みつぶされる様を讃えよう。


 そのわだちが物語を産んだ。



 死骸の積もる様を讃えよう。


 その悲嘆ひたんが命を産んだ。


 

 雨にさらされる様を讃えよう。


 その従順が希望を産んだ。



 風に曝される様を讃えよう。


 その軽薄が勇気を産んだ。

 


 深緑しんりょくを育む様を讃えよう。


 その献身が今を産んだ。


 

 花を枯らせる様を讃えよう。


 その凡庸ぼんようが私を産んだ。

 


 お前の真下にこの大地がある。


 倒れる時も、立ち上がる時も。


 歩く時も、立ち止まる時も。


 走る時も、眠る時も。


 空に向かって飛んでいく時でさえ、そこには偉大な地べたがある。


 だから、この不幸にはきっと、地続きのその先があったのだ。



 歌おう。

 

 大地に向かって、口ずさむ歌がある。


 

 ――偉大な地べたよ。あまりに寡黙かもくな我が友よ。


 ――ただ、そのようにあれ。

 

 ――私の行く先に、ただ共にあれ。

 



▼――『地べたに口ずさむ歌』――了

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