第15話
「ヤード兄貴、そしてジェイドさん。どうかしたんすか?」
二人が頭を悩ませている中、一人の男が物珍しそうにこちらを見ながら声を掛けた。彼はヤードとマリィの後輩であり、最近ギルドに入ったばかりの新参者であった。見た目は長身で細身なのだがよく見ると筋肉質な体格をしており背中には大きな剣を背負っているのが見えた。その様子を見て二人は顔を見合わせると深いため息をつく─そして諦めたかのように口を開くと事の顛末を話し始めたのだ。すると男は驚きつつも興味深そうに話を聞いていたもののふとある疑問を抱いたのかこう聞いてきたのである。
「ははぁ、もしかしてマリィさん恋煩いでもしてたんじゃないすかぁ?」
へらり、と笑う彼に対してジャックが苦笑を浮かべながら返した。
「いやいや、それは流石にないだろ。マリィが好きになる男なんて私より強い奴―って言いだしそうだし」
しかしヤードは否定も肯定もせずに黙り込んでおりその様子を見たジャックと後輩は互いに顔を見合わせると不思議そうに首を傾げる。
「え、まさか本当にいるんすか?そんな奴」
「いや、いないけど……」
ヤードが歯切れ悪そうに答えていると後輩は何かを察したのかそれ以上追及するようなことはしなかった。その代わりと言っては何だが彼はマリィを元気付けようと提案してきたのである─それは依頼に同行させてみるというものだった。確かにそれが一番手っ取り早い方法だと思われたのだが問題は誰が一緒に行くかという事だった。しかしジャックはすぐに思い付いたようでポンと手をつくと言ったのだ。
「あ!じゃあ、ヤードさん」
「何だ?」
「今ここで元気になれる魔法をかけて下さいよ!」
その言葉にヤードはキョトンとした顔を浮かべた後に小さく笑うと言った。
「君には敵わないな……」
そして彼はゆっくりと立ち上がるとマリィの部屋の扉の前に立ち軽くノックをした後で中へと入っていったのである。その様子をジャックと後輩が見守る中、部屋の中からは何やら話し声と共に物が飛び交う激しい音が響いた後、ヤードだけが部屋の外へ出てきた。頬は赤く腫れあがり、若干眼鏡のフレームが歪んでしまっている。
「うん…、声掛けに言ったら半殺しにされそうになった」
「えぇ……、何やってんすか……」
呆れた表情を浮かべているジャックと後輩を尻目にヤードはただ一言呟いた。
「暫く声かけんな、だって」
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